【告知】エビデンスチェックリストの解説動画を公開しました

エビデンスに振り回されないためのチェックリスト

ひさびさの解説動画更新です!

息絶え絶えながら,なんとか投稿に辿り着きました。私も共同制作者も血ヘド吐きながら何とか "ひり出した" 動画です。

今回の動画では「エビデンスそのものに対する付き合い方・心構え」を総論的にまとめました。初学者や非専門家のひとが「エビデンス」という言葉を耳にしたとき,初めに意識すべき Tips 集のようなものです。

以前にもTwitterで話題にしたことのある以下のリスト(▼)の解説編になります。

6つのリスト
  1. ソースはどこか
  2. データは公開されているか
  3. 一般化可能性はどうか
  4. 頑健な主解析か
  5. 絶対リスクの差はどうか
  6. コストや副作用とのバランスはどうか?

ただこのリスト,とりあえず作ったまではよかったのですが……専門用語をバチバチに入れてしまったため,前提知識が共有できていない人にとっては意味不明なリストになるという致命的弱点がありました。そして逆にコレを一瞥して「はいはいそうだよね〜」って思って頂ける人はすでに相当 "分かっている側" なのでこのリストが要らない。つまり……

  • 届けたい人には(専門用語のせいで)伝わらない
  • 知っている人には(常識なので)必要ない

──とまあ存在意義を脅かされ散らかしている状態でした😅

なんとかこの問題を克服すべく補足動画を作りたい!と思い立ったのは早数ヶ月前。ようやく形にすることができました(長かった…)。

非専門のかたが「エビデンスを吟味する」ということに対する心理的ハードルを下げるのに有用な動画に仕上げられたと思います。

今回の動画の内容

動画ではごちゃごちゃ細かいことも扱いましたが,言いたいことはコレ(▼)だけです。

  1. まず1次情報にあたること
  2. 1次情報も鵜呑みしないこと
    サンプルサイズ,多重検定,HARK-ingの問題,spinの問題,感度分析の必要性,相対リスクと絶対リスク差の違いくらいは耳学問レベルでいいので知っておく
  3. 最終的には総合判断になること
    意思決定はベネフィット・害のリスク・コスト・価値観などから総合的に下すもの。そのため,同じエビデンスでも適用する人や集団によって結論は変わりうる
  4. それらを自分で判断できないなら判定保留でOK
    ※逆に上記をすべて踏まえた上で個別判断できるのがプロフェッショナルの要件

当たり前といえば当たり前の内容です。しかし SNS やセンセーショナルなニュース・報道ではかなり抜け落ちがちなポイントであり,あえて強調させていただいています。

ちなみに3つ目は EBM(Evidence-based medicine)の基本理念を意識したものです(▼)。

EBMの4つのソース
──【CC-BY-SA 4.0】Turner, M. (2014). “Evidence-Based Practice in Health.” Retrieved from University of Canberra Website
なお今回は初めて Powerpoint をベースに vyond のアニメを載せるという試みをおこなっておりまして,いつもよりスライド上の文字数が増えてしまいました。なるべく文字は入れず言葉で説明する主義でしたが,少ないスライドで一覧性を高めようと思うと busy にならざるを得ず……このあたりは試行錯誤していきたいです。今後の課題と思っています。

目次

内容の詳細は以下の通りです。リンクから直接動画の該当部分に飛べますので気になる項目がありましたら是非!

  • エビデンスをみたときのチェックリスト|01:24
  • check 1)ソースはどこか|02:29
  • check 2) データは公開されているか|04:49
  • check 3) 一般化可能性はどうか|05:42
    • サンプルサイズの問題|06:09
    • 途中終了試験の問題|07:08
  • check 4) 頑健な主解析か|07:50
    • 多重検定の問題|09:49
    • 統計モデルと感度分析|11:35
  • check 5) 絶対リスクの差はどうか|12:09
    • NNT(Number Needed to Treat)とは|15:26
  • check 6)コストや副作用とのバランス|17:05
  • まとめ|17:47
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大事な心構え 「健全に懐疑的になろう」

とにかくこの動画でお伝えしたかったことは「健全に懐疑的になろう」というメッセージです。このフレーズは情報に向き合う際,誰にとっても(専門家にとっても)結構いい言葉だと思います。

「過剰に懐疑的」「過剰に盲目的」ではなく,適切な距離感でエビデンスと向き合う。そのための必要最低限の防護知識として,上記の6つのリストは有用です。

最近のインターネッツは本当に「早すぎ」で,最新の論文が出たら遅くとも1〜2週間以内には専門家がコメントを tweet して話題になる,みたいなテンポ感なんですよね。ただそういうコメントって割とみんなほげーって適当に(あるいは趣味で)書いているようなものも多いので,結構注意が必要です。非専門家や非医療従事者が触れ過ぎるのは危ない,というか誤解を招きかねないケースもたくさんあると思います。

もしそういうSNS情報に触れるのであれば,この動画で紹介したような最低限のリテラシーは持っていないと,結局「誰かの感想鵜呑みマシーン」になってしまいます。偏った解釈をしがちな専門家だけフォローしてしまうと,容易にエコーチェンバーに陥ってしまうわけです。

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COVID-19に関しては社会現象レベルでそういうことが何度も何度も(現在進行形で)繰り返されているわけで,もっとたくさん「リテラシーの種」が撒かれなければならないと感じています。

まあこういう類の動画は本当に届けたい層には全然届かないわけなんですが(今回は特にカタい内容なので当然ですが)……自分の蒔いた種をもとに,誰かが誰かのために何かをしてくれたら嬉しいなあと(漠然)。

私には個々人の行動変容につなげたいというほどの情熱はないのですが(SNSでそういう活動をされている方々には頭が下がります),自分のアウトプットがてら気長な「種まき」は続けていきたいと思います。

お気に入りパート

ちなみに今回の動画で私が最も気に入っているのは以下のパート(▼)です。

年齢補正で傾きが緩やかに

作図,がんばりました(こちらのお方が)。

次回予告

次回はシリーズ「RCTを吟味する」に戻りまして,複合エンドポイントの話をまとめる予定です。

4ヶ月近い音沙汰ナシ期間も少しずつ伸びているのは大変ありがたいことで,確かなニーズの存在を感じますし,身が引き締まる思いです。

最近の私の生きる活力といえば,チャンネル登録者数がジワ伸びしているのを眺めることか,我が子を強く抱き締め上げてオキシトシンを強制分泌することしかありません。

今後ともご支援なにとぞよろしくお願いいたします!!

[おすすめ本紹介]

Users’ Guides to the Medical Literature


タイトル通り「医学論文を現場でどう応用するか?」迷える臨床家のためのユーザーズガイド。Tips 集のような構成で,どこからでもつまみ読みできます(通読向きではない)。医学論文の批判的吟味を学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶならコレ,という極めて網羅性の高い一冊です。著者 Gordon Guyatt 氏は “EBM” という言葉を作った張本人。分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


表紙が全然違いますが「Users’ Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版。医学文献を批判的吟味するためのTips集としてかなりの網羅性を誇る代表的な一冊です。唯一の欠点は Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。鈍器としても使えます

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