エビデンスに振り回されないためのチェックリスト
ひさびさの解説動画更新です!
息絶え絶えながら,なんとか投稿に辿り着きました。私も共同制作者も血ヘド吐きながら何とか "ひり出した" 動画です。
今回の動画では「エビデンスそのものに対する付き合い方・心構え」を総論的にまとめました。初学者や非専門家のひとが「エビデンス」という言葉を耳にしたとき,初めに意識すべき Tips 集のようなものです。
以前にもTwitterで話題にしたことのある以下のリスト(▼)の解説編になります。
- ソースはどこか
- データは公開されているか
- 一般化可能性はどうか
- 頑健な主解析か
- 絶対リスクの差はどうか
- コストや副作用とのバランスはどうか?
ただこのリスト,とりあえず作ったまではよかったのですが……専門用語をバチバチに入れてしまったため,前提知識が共有できていない人にとっては意味不明なリストになるという致命的弱点がありました。そして逆にコレを一瞥して「はいはいそうだよね〜」って思って頂ける人はすでに相当 "分かっている側" なのでこのリストが要らない。つまり……
- 届けたい人には(専門用語のせいで)伝わらない
- 知っている人には(常識なので)必要ない
──とまあ存在意義を脅かされ散らかしている状態でした😅
なんとかこの問題を克服すべく補足動画を作りたい!と思い立ったのは早数ヶ月前。ようやく形にすることができました(長かった…)。
非専門のかたが「エビデンスを吟味する」ということに対する心理的ハードルを下げるのに有用な動画に仕上げられたと思います。
今回の動画の内容
動画ではごちゃごちゃ細かいことも扱いましたが,言いたいことはコレ(▼)だけです。
- まず1次情報にあたること
- 1次情報も鵜呑みしないこと
サンプルサイズ,多重検定,HARK-ingの問題,spinの問題,感度分析の必要性,相対リスクと絶対リスク差の違いくらいは耳学問レベルでいいので知っておく - 最終的には総合判断になること
意思決定はベネフィット・害のリスク・コスト・価値観などから総合的に下すもの。そのため,同じエビデンスでも適用する人や集団によって結論は変わりうる - それらを自分で判断できないなら判定保留でOK
※逆に上記をすべて踏まえた上で個別判断できるのがプロフェッショナルの要件
当たり前といえば当たり前の内容です。しかし SNS やセンセーショナルなニュース・報道ではかなり抜け落ちがちなポイントであり,あえて強調させていただいています。
ちなみに3つ目は EBM(Evidence-based medicine)の基本理念を意識したものです(▼)。
目次
内容の詳細は以下の通りです。リンクから直接動画の該当部分に飛べますので気になる項目がありましたら是非!
大事な心構え 「健全に懐疑的になろう」
とにかくこの動画でお伝えしたかったことは「健全に懐疑的になろう」というメッセージです。このフレーズは情報に向き合う際,誰にとっても(専門家にとっても)結構いい言葉だと思います。
「過剰に懐疑的」「過剰に盲目的」ではなく,適切な距離感でエビデンスと向き合う。そのための必要最低限の防護知識として,上記の6つのリストは有用です。
最近のインターネッツは本当に「早すぎ」で,最新の論文が出たら遅くとも1〜2週間以内には専門家がコメントを tweet して話題になる,みたいなテンポ感なんですよね。ただそういうコメントって割とみんなほげーって適当に(あるいは趣味で)書いているようなものも多いので,結構注意が必要です。非専門家や非医療従事者が触れ過ぎるのは危ない,というか誤解を招きかねないケースもたくさんあると思います。
もしそういうSNS情報に触れるのであれば,この動画で紹介したような最低限のリテラシーは持っていないと,結局「誰かの感想鵜呑みマシーン」になってしまいます。偏った解釈をしがちな専門家だけフォローしてしまうと,容易にエコーチェンバーに陥ってしまうわけです。
健康情報・医療情報は本当に玉石混交です。 不適切情報や誇大広告の問題は以前からありましたが,COVID-19 の流行はこの問題をさらに痛々しく明確なものとしました。 SNS の流行に伴い,私たち自身のヘルスリテラシー向上が求められていま[…]
COVID-19に関しては社会現象レベルでそういうことが何度も何度も(現在進行形で)繰り返されているわけで,もっとたくさん「リテラシーの種」が撒かれなければならないと感じています。
まあこういう類の動画は本当に届けたい層には全然届かないわけなんですが(今回は特にカタい内容なので当然ですが)……自分の蒔いた種をもとに,誰かが誰かのために何かをしてくれたら嬉しいなあと(漠然)。
私には個々人の行動変容につなげたいというほどの情熱はないのですが(SNSでそういう活動をされている方々には頭が下がります),自分のアウトプットがてら気長な「種まき」は続けていきたいと思います。
お気に入りパート
ちなみに今回の動画で私が最も気に入っているのは以下のパート(▼)です。
作図,がんばりました(こちらのお方が)。
次回予告
次回はシリーズ「RCTを吟味する」に戻りまして,複合エンドポイントの話をまとめる予定です。
4ヶ月近い音沙汰ナシ期間も少しずつ伸びているのは大変ありがたいことで,確かなニーズの存在を感じますし,身が引き締まる思いです。
最近の私の生きる活力といえば,チャンネル登録者数がジワ伸びしているのを眺めることか,我が子を強く抱き締め上げてオキシトシンを強制分泌することしかありません。
今後ともご支援なにとぞよろしくお願いいたします!!