夢をかなえるゾウの書籍感想・レビュー記事です。2024年追記。
本の概要
本書は、あるサラリーマンが神を名乗るマスコット〈ガネーシャ〉の指南によって「自ら行動すること」の重要性を深く再認識し、人生を変えていく物語です。
「変わりたい」と願う主人公のためにガネーシャが各章ごとに〈課題〉を出します。読者も一緒にその〈課題〉をこなしていく中で、大切なマインドセットを身につけていく、ということが狙われた構成になっています。
作中ではとにかく繰り返し「やれ!一歩踏み出せ!」というメッセージを与え続けられます。読了時には新しい行動への背中をぐっと押してもらえるそんな一冊でした。
夢を叶えるゾウ I |水野敬也
ウサンくさい神様ガネーシャと青年の対話形式ですすむ物語。ガネーシャに課された〈課題〉を1つ1つ実践しながら、少しずつ成長していく主人公の姿を描く。〈実際に・本当に・行動に移す〉ということの重要性を強い言葉で伝えてくれる名著。ただガネーシャの台詞のクセが強いため、やや人を選ぶかもしれません。オーディオブック向きです。
著者は純粋な作家
- 自己啓発系によくある内容が小綺麗にまとまっていた感じがしたので、もともとそういう界隈の方なのかと思いきや、純粋な作家さんだったので少し驚きました。
- 筆者のかた自身、相当な数の自己啓発本を読んでこられたそうです。その上で、自己啓発本にありがちな「上から目線」に違和感を感じ、「上から目線じゃない自己啓発」ということを意図して書いた本だそうです(下記インタビューより)。
夢をかなえたい主人公が、神様・ガネーシャの示す課題に果敢に挑んでいく自己啓発小説『夢をかなえるゾウ』(文響社)。累計40…
本書の内容
本書最大のテーマであり作中一貫して語られ続けるのが
です。 「とにかくまずやれ!」ということですね。
本書を通して出される〈課題〉は 29 個
本書では最初の「靴磨き」に始まり 29 個もの〈課題〉が順に出されていきますが、その中で特に印象に残ったものは以下の5つでした。
- 人が欲しがっているものを先取りする
- 1日何かをやめてみる
- 自分が一番得意なこと、苦手なことを人に聞く
- 身近にいる一番大切な人を喜ばせる
- 誰か一人のいいところを見つけてホメる
- | 作中 24 の〈課題〉
-
- 靴をみがく
- コンビニでお釣りを募金する
- 食事を腹八分におさえる
- 人が欲しがっているものを先取りする
- 会った人を笑わせる
- トイレ掃除をする
- まっすぐ帰宅する
- その日頑張れた自分をホメる
- 一日何かをやめてみる
- 決めたことを続けるための環境を作る
- 毎朝、全身鏡を見て身なりを整える
- 自分が一番得意なことを人に聞く
- 自分の苦手なことを人に聞く
- 夢を楽しく想像する
- 「運が良い」と口に出して言う
- ただでもらう
- 明日の準備をする
- 身近にいる一番大切な人を喜ばせる
- 誰か一人のいいところを見つけてホメる
- 人の長所を盗む
- 求人情報誌を見る
- お参りに行く
- 人気店に入り、人気の理由を観察する
- プレゼントをして驚かせる
印象に残った〈課題〉
4. 「人が欲しがっているものを先取りする」
普段会う人、先輩、後輩、上司、家族 ── 人それぞれ真に欲しているものは異なります。自分本位にならず、相手の欲について考える余裕を持ちたいものです。
以下は作中の引用です。
“If I had asked people what they wanted, they would have said faster horses.” ── Henry Ford
もし顧客に彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速く走る馬が欲しい」と答えていただろう ── ヘンリーフォード
ビジネスの得意なやつは、人の欲を満たすことが得意
世の中の人たちが何を求めているかが分かるやつは、事業始めても上手く行く。上司の欲が分かっているやつはそれだけ早く出世する。
9. 「1日何かをやめてみる」
等価交換の法則ですね。何かを始めるには、何かをやめて自分の時間を取り戻さなければならない。
何かを手に入れるには、相応の代償を払う必要がある
ぱんぱんに入った器から何かを 外に出すんや。そしたら空いた場所に新しい何かが入ってくる
12. – 13.「自分が一番得意なこと、苦手なことを人に聞く」
自分の適性は多分、いや絶対、他人の方がよく知ってます。
自分の仕事が価値を生んでるかを決めるのはお客さん、つまり自分以外の誰か
18. 「身近にいる一番大切な人を喜ばせる」
普段、親や家族を喜ばせることができているか?正直なかなか耳の痛い部分でした。自分の仕事や自分のやりたいことに手一杯になってしまっている感は常にあります。本当に耳が痛い。
自分にとってどうでもええ人には気い遣いよるくせに、一番お世話になった人や一番自分を好きでいてくれる人、つまり、自分にとって一番大事な人を一番ぞんざいに扱うんや
クレーム言うてきたり、大変なお客さんも大事にせなあかん。でもお前を愛してくれるお客さんに最高のおもてなしをするんは当然やないか。ええお客さんやからいうて甘えとったらあかんで
クレーマーに長い時間をとって、いわゆる「いいお客さん」をルーチンワーク的に「捌いていく」というのは、実は本来の優先順位が逆転してしまっているわけです。
お互い気持ちよく仕事できる人こそ尊重して、喜ばせる──つまり最大限のサービスを行う──べきであって、愚痴りたいだけのクレーマーなんて、本来は距離をおくべき存在であるはず。
相手の行動に「反応」して対応を決めるのではなく、こちらが相手を大切にしたいかどうか、という部分こそ本質的に重要な部分なんですよね。本来は。
19「誰か一人のいいところを見つけてホメる」
この〈課題〉の中では、古典的名著「人を動かす」でも紹介されていた鉄鋼王アンドリュー・カーネギーのエピソードが紹介されていました。
いかにみんなが「自分のこと」しか考えていなくて、褒められたがっているか。いかにみんなが自分の「名前」を大事にしているか。そうした部分に踏み込んで、まず相手を承認することから関係性は始まるのだと、本書は主張しています。
自然な形で感謝をしたり、人を立てたりして、その人の肯定感をスマートに高められる人間になりたいものです。 課題④〈人が欲しがっているものを先取りする〉を突き詰めていっても、最終的には同じところに到達するようにも思いました。
強烈な皮肉とカタルシス
ただ実はここまでの長い内容すべては前章に過ぎません。
本書のメッセージはほぼ全て最終章 ── 5 つの〈最後の課題〉に凝集されており、それまでの 24 の〈課題〉はそこに至るための長い布石でしかありませんでした。
大きな転換点(ネタバレ注意)
本書は最終章に入る前、大きな転換点を迎えます。
なんとそれまで 1つ1つ提示されコツコツやってきた 24 個もの〈課題〉が、実は「主人公が知っていたはずのこと」なのだと突きつけられます。
教えてきたことには何の目新しさもない
ワシが教えてきたこと、実は、自分の本棚に入ってる本に書いてあることなんや
作中最も衝撃的なセリフです。そしてかなりの〈メタ発言〉でもあり、そこがまた強烈な印象を植え込んできます。
強烈な皮肉とメタ発言
「こんな本を手に取るあなたたちは、どうせ他にもこんな本読んできたんでしょう。どっかで聞いてきたことばっかりでしょう。そりゃそうです。そういう本で言われてる内容を改めて書いただけですもん。でもあなたは〈行動〉に移してこなかったんでしょ?だから結局変われなくて、またこういう本読んじゃってるんでしょ??」
と言わんばかり、強烈な皮肉になっています。
実は、自分の本棚に入ってる本に書いてあること
ここで読者を気に突き落とすため24個もコツコツやらせてきたんだなあと思うと素直に感動してしまいました。カタルシスに至る構成が巧いです。本当に。正直この一文を読んだ(聴いた)だけでも、この一冊を買った価値はあったと思いました。
再度強調される「行動を変える」ことの重要性
そしてこの強烈な皮肉の後、改めて「行動する」ことの重要性が強調されます。
自己啓発本を読んで「やってやるぞ」という気分になったところで、実際の行動が伴わなければ意味がない。そんなものは「成功するかもしれない」という高揚感だけを前借りして気持ちよくなってるだけだ、とバッサリ切り捨てます。
読者がハッとさせられるクライマックスです。
今、自分は何かを学んで、知識を吸収して、成長しとる思てるかもしらんけど、本当はな、成長した気になっとるだけなんや。ええか?知識を頭に入れるだけでは人間は絶対に変われへん。人間が変われるのは、『立って、何かをした時だけ』や
5つの〈最後の課題〉
物語が最高潮に達したところで、本質に迫る5つの〈最後の課題〉へと進んでいきます。
- やらずに後悔していることを今日から始める
- サービスとして夢を語る
- 人の成功をサポートする
- 応募する
- 最後
I. やらずに後悔していることを今日から始める
1つ目は、「やらずに後悔していることを今日から始める」。ポイントは”今日から”の部分です。この章から本当にガツンガツンと畳みかけてきます。
変えるならそれは『今』や。『今』何か一歩踏み出さんと。自分それ、やらんまま死んでいくで
今日やらんと一生後悔するで。みんなそうやって死んでくんや。もし『みんな』と『自分』に境界線引くチャンスがあるとしたら、それは『今』以外ないで
みんな知ってんねん。やりたいことやって後悔せんような人生送ったほうが幸せになれるてな。でもやらへんねん。何でや?それは、今の自分と同じこと考えてるからや。収入。世間体。不安。同じやで。人を縛ってる鎖なんてみんな同じなんや
それやらんかったら、自分、一生隣の芝生は青いままやで。隣の青い芝生見ながら死んでいくんやで
痛い痛い。キツい。耳も痛いです。ごめんなさいごめんなさいッヒィ!ってなります。
何度も何度も、細かい言葉尻を変えながらも、〈行動すること〉の重要性を畳みかけられ、とにかく何か始めなければ、という気持ちに強くさせてくれます。
II. サービスとして夢を語る
2つ目の〈最後の課題〉は、「サービスとして夢を語る」です。
「人を喜ばせる」だとか、「人にサービスする」だとか、「人の夢をかなえる」だとか、「自分の夢をみんなの夢にまで育てる」だとか、色々と表現は異なりますが、本書で繰り返し述べられる内容です。
自分の夢をかなえることが同時に人の夢をかなえることになれば、みんなが応援してくれる
たくさんの人を幸せにしているから、みんなから喜ばれ、認められ、お金が支払われる。それがサービスの本質。結局〈成功〉の秘訣があるとすればそれは「どれだけ人を幸せにできるか」というわけです。
〈自分の夢〉を〈みんなの夢〉にしてしまう。一例として作中ではスティーブ・ジョブズが紹介されています。
Do you want to sell sugared water for the rest of your life, or do you want to come with me and change the world? — Steve Jobs
君はこのまま一生砂糖水を売り続けたいのか、それとも私と一緒に世界を変えるか?(ペプシコーラ社から John Sculley を引き抜いたときの殺し文句)
III. 人の成功をサポートする
3つ目の〈最後の課題〉は「人の成功をサポートする」。
全ての仕事は、何かしらの形で他人の成功をサポートしていると呼べる
だから、他人の成功をサポートすることが楽しくなれば、きっと何をやってもうまくいく。
IV. 応募する
次に「応募する」。本書の最大のテーマ “行動することの重要性” が、最終盤のここでもう一度強く強調されます。何か興味があることがあったら、とにかくまずポチってみろよと。
今この本を読んで『今日から変わる』と思っても、具体的な行動や環境を変えなければ、人は変わることなんてできません。つまりポチってから考えろ。ということですね。
そして最後は?
さすがにここまで書いてしまうとネタバレが過ぎますので、記載は控えたいと思います。ぜひ本書を手にとってみてください。
夢を叶えるゾウ I |水野敬也
ウサンくさい神様ガネーシャと青年の対話形式ですすむ物語。ガネーシャに課された〈課題〉を1つ1つ実践しながら、少しずつ成長していく主人公の姿を描く。〈実際に・本当に・行動に移す〉ということの重要性を強い言葉で伝えてくれる名著。ただガネーシャの台詞のクセが強いため、やや人を選ぶかもしれません。オーディオブック向きです。
全体を通しての感想
響いたところはやはり終盤の転換点、からの怒涛の「行動開始しろ」攻撃ですね。さすがにこの本を読んだ直後は「やらねば」感がとても強くなりました。
一方いくつか気になった点もありましたので、一応ご紹介させていただきます。
- ガネーシャの口調のクセ
- 本当にクセが強く、本書の良さも悪さもここから来ていそう
- 自分は Audiobookで聞いたため、結構気になった
- 文面なら気にならなかったかもしれないが正直何度も「クセ強…」と思った
- けったいなBGMとSE(audiobook版)
- これも音声版だからこそ気になった点.狙ってやっていそうでしたが…
- 2.5倍速で聴いていたせいで、余計に BGM とSEがカオスに😅
- 地の文のクセ
- 本書はいわゆる「地の文」も全て主人公の思考、一人称視点の小説スタイル
- どうしても若干クサい感じが出ており「文体が合わない」という人はいるかもしれない
- 逆にこの点は audiobook が合っていると感じたポイント(語りとして聞く分には違和感が少ない)
嫌われる勇気との対比
先にも述べましたが〈対話形式で読者に気づきを与える〉というスタイルは、同じく自己啓発系でめちゃくちゃベストセラーになった名著「嫌われる勇気」も同じです。ただ「読者の立ち位置」という点では真逆になっていて、その点は興味深く感じました。
「嫌われる勇気」に登場するのは、血気盛んですぐ声を荒らげちゃう青年と、達観した哲人です。しかし青年があまりに情熱的すぎるため、どちらかというと読者の視点は引いた立場にさせられます。つまり気づいたら哲人側の視点になっている、というような仕掛けがある作品でした。後半になればなるほど読者が「おいおい青年、まあ落ち着けよ」という気持ちになってくる。
それに対して本書はとにかく指導者側である〈ガネーシャ〉のクセが強い。というか普通に鬱陶しい(笑)。結果として途中、何度も「何やねん!」ってなるところがあります。それも演出というか、主人公と読者を一体化させるための試みなのでしょう。
読者の立場があくまで主人公側に同期することで、1つ1つの〈課題〉のメッセージ性がスッと胸に落ちてくる印象がありました。この点はおそらく狙って作られているのではないかと思います。
〈褒める〉という行為の扱い
また「嫌われる勇気」の作中で語られる重要な原則は「褒めない」ですが、本著では19 個目の課題として「誰か一人のいいところを見つけてホメる」というものが出てきます。
二酸化炭素吐くのと同じくらいナチュラルにホメ言葉言え
とまで言っています。
「嫌われる勇気」において誉めることは「自分よりも能力の劣る相手を操作すること」とみなされるのでした。これはものごとを「縦の関係」で捉えた行為であり、アドラー心理学の推奨する「横の関係」=「対等な関係」から離れてしまうからダメだ!というわけです。
しかしそうは言っても、私も含め、誰しもがみな心の中に必ず「自分に価値があると思いたい」という欲求を持っています。問題はこれとどう付き合っていけばいいのか、です。
結論から言えば、「嫌われる勇気」では〈褒める〉のではなく〈感謝〉で肯定感を満たせ、ということを言います。別に〈ホメる〉という行為をしなくても、相手の肯定感は高められる。それが〈感謝〉のパワーだ、というのがアドラー心理学を学んだ哲人の主張だったわけです。 しかし一方、本書では 人を褒めろ!褒めまくれ! ときます。
両方とも読んだ私としては結局どうしたらええんじゃい、となるわけですが…
暫定的な結論
結局、この点に関して私の出した暫定的な結論は、「あいだを取る」といういかにも日本人らしいところに落ち着きました。つまり〈感謝風褒め言葉〉がスマートに使えるといいんでしょうと。
ということで、今後もめっちゃ使っていきたいと思います。「有難うございます勉強になりました!」私の本業の業界とも、とってもマッチした言葉です😌
ToDo
本を読んだら〈気づき〉と〈ToDo〉をまとめろ!と昔読んだ本の中で精神科の某先生が仰っていた気がするので、まとめます。
- 誰かと会話する時、その人が大切にしていること、欲していることについて1度は考えるようにしてみる
- 無駄だな〜と自分で感じている時間をなるべく削る
- 自分が一番得意なこと、苦手なことを人に聞く
- 家族を喜ばせる
- とりあえず「勉強になりました!」「ありがとうございました!」
- 応募する。ポチる。
なお実はこの後しばらくしてから DMM 英会話もポチりました。そして120回以上継続しました。実際に行動につながったことを考えると、やはり本書を読んだ価値は高かったと思います。
今後もし読み返すことがあるとしたら、5つの〈最後の課題〉、ここだけ確認したいですね。ここに全内容の 8 割が入っていたと思います。
夢を叶えるゾウ I |水野敬也
ウサンくさい神様ガネーシャと青年の対話形式ですすむ物語。ガネーシャに課された〈課題〉を1つ1つ実践しながら、少しずつ成長していく主人公の姿を描く。〈実際に・本当に・行動に移す〉ということの重要性を強い言葉で伝えてくれる名著。ただガネーシャの台詞のクセが強いため、やや人を選ぶかもしれません。オーディオブック向きです。