医学は日進月歩です。「5 年 10 年前の常識が,今や世界の非常識」などということも少なくありません。
そのため効率的に情報を得る「検索スキル」は,臨床家の能力に直結します。
そしてテクノロジーをうまく利用できるかどうかで,最新情報にキャッチアップする労力には大きな差が生じてしまいます。
しかし忙しい臨床現場にいると,こうした小技について体系的に教わる機会はなかなかありません。身の回りに教えてくれる先輩・指導者がいるかいないかで,習得タイミングに大きな差が生じてしまいます。
そこで今回は,私の知る「医学情報を爆速で収集するための Tips」を惜しみなく共有したいと思います。
検索ワザの時短ハック 5 選
この記事では以下の5点についてご紹介します。
- 英語は自動翻訳
- Google は画像検索
- Pubmed は検索式を使う
- 最新論文は自動配信で受け取る
- 気になるサイトは RSS でフォロー
ごく一般的な内容ではありますが,ピンとこないものがあればそこだけでもご一読頂けたら嬉しいです。
早速,順にみていきましょう。
自動翻訳機能は積極利用する
第1のハックは
ということです。
英語からは逃れられない
最新の医学・科学情報は,常に英語で提供されます。
英語が世界共通語であるということ,また現在 医学界を牽引している主要ジャーナルがすべて英語雑誌であることから,これは避けられない事実です。
そのため,英語の文章を読むことに抵抗感があっては,圧倒的に情報感度が下がってしまうことになります。
しかも英語スキルは一朝一夕では身につきません。忙しい臨床現場に出てから英語能力を磨きたいと思っても,時間的な制約も大きいため,なかなか短期的には成長が難しいものです。
時間がない。英語を学び直す体力もない。でも医学情報は英語しかない。
では,どうするか。
──頼ればいいじゃない。テクノロジーに。
ということで,英語を読むことに抵抗がある人は,ブラウザの自動翻訳機能を活用することをお勧めします。
英語が苦手な人にこそ
特に英語に苦手意識がある人は絶対的におすすめです。
なぜなら,自動翻訳を用いることで
- 「読み始め」の心理的負担が減る
- 初動がラクになる結果,英語情報源からの情報収集が苦でなくなる
- 英語での情報収集が習慣化する
- 翻訳なしでナナメ読みの練習ができるようになる
というポジティブな循環に入っていける可能性があるからです。
何より「形成したい習慣」があるとき,私たちがまず行うべきは「心理的に越えるべきハードルを極限まで低くする」ことです。
その点に関しては割り切ってテクノロジーを利用する姿勢があっても良いと思います。
対応ブラウザ
Google Chrome,Microsoft Edge,Safari には,自動翻訳機能が標準搭載されています。
特に動作が安定しているのは Google Chrome です。数秒で表示ページがすべてスムーズに和訳されるため,「英語⇆自動翻訳」と往復しながら読み進める,といったことも可能です。
- Google Chrome:検索バー上に出てくる「翻訳」ボタンを押す。または右クリックメニューから翻訳。体感的にはイチバン早い。詳細
- Microsoft Edge:ほぼ Google Chrome と同様の挙動。詳細
- Safari:検索バー上で「翻訳」ボタンが出てこれば翻訳可能。詳細
- |他ブラウザでも可能ですが…
- 上記以外のブラウザでも,拡張機能で翻訳ツールを入れることは可能です。ただしその際に注意すべきはプライバシー保護です。ほとんどのブラウザ拡張機能は Webページの全データを解析対象としていますので,理論上,パスワードなどを抜き取られるリスクは否定できないのではと思います。開発元がよほど信頼できる団体でない場合,そういうリスクがありうる,ということを知っておくべきだと思います。GAFAM にデータを収集され続けることはもはや仕方ないかもしれませんが,正体不明のサードパーティ開発者にまで情報を抜かれるリスクを背負う必要はないと思います。その点を踏まえると,現状自動翻訳をフル活用しようと思うと,上記ブラウザが主な選択肢になってしまうかなという印象です(個人の感想です)。
とりあえず全文自動翻訳
というわけで,上記を使って UpToDate でも ClinicalKey でも EvidenceAlerts でも,自動翻訳を使ってしまいましょう。
もちろん「最終的には原文で読むことが大原則」です。
実際,自動翻訳ではよくわからない訳になっていることも少なくありませんし,何より原著論文 PDF は英語のまま読むしかありません(DeepL など有料ソフトを利用しない場合)。
しかしここで最大の目的は,あくまでも
です。
最も避けなければならないこと
ここで何よりも優先すべき考えは
ということです。
英語だからというだけで情報感度を落としてしまうと,日々進歩する医学の前線からどんどん取り残されてしまい,気づけばガラパゴス診療のど真ん中……ということになりかねません。
- 英語の二次文献を調べない(UpToDate や Dynamed を読まない)
- 英語の一次文献を調べない(原著論文を読まない)
ということが常態化しては,医師であれ何者であれ,すぐに「医学情報弱者」として取り残されてしまいます。
そんな中で利益相反ズブズブのバイアスされた情報源に触れてしまえば最後…,容易には戻ってくることができません。
そのような状況こそ最も避けるべきであり,そうなってしまうくらいなら,自動翻訳を使ってハードルを下げましょう,ということです。
英語情報処理のスピードアップにも有用
また,自動翻訳は英語に苦手意識がない人にとっても有用だと思います。
「自動翻訳の雑な日本語」であってもザっと論旨を理解した後で英語原文を読み始めると,いきなり原文を読むよりもはるかに早く内容を理解できるからです。
- 英語が母国語レベルでない
- 少しでも時短したい
という臨床家にとっては,利用価値のある機能だと思います。
Google画像検索を駆使する
第2の検索ハックは,
です。
画像検索をすると1秒でざっと情報が俯瞰できるだけでなく,「図表にまとめた系」の情報源もさらうことができます。
画像を入口にして,
このウェブサイトはまとめが上手そう
このウェブサイトはわかりやすそう!
ということもパっと見でわかります。一覧性が極めて高いのです。
この検索ハックは 特に試験勉強などの際,かなりの威力を発揮する のでオススメです。
ペラグラ
たとえば試験勉強をしている最中「ペラグラ」という疾患について勉強しなおしたいなと思うかもしれません。
この時,ただ検索するのではなく「Google 画像検索」をするとこうなります(▼)。
ざっと並んだサムネイルを見ただけで,かなりの情報が目に入ってきますし,まとめてくれていそうなブログにアクセスすれば効率的な学習が可能です。
そして何より,ペラグラの特徴的な皮疹が一目瞭然です。
PBC PSC 違い
同様に「まとめ図表」などを探し出す時にも,Google画像検索は威力を発揮します。
たとえば
PBC(原発性胆汁性肝硬変)と PSC(原発性硬化性胆管炎)てどういう違いがあるんだっけ…?
という時,ただ検索するのではなく,あえて「画像検索」を行います。
「PBC PSC 違い」あるいは「PBC PSC difference」などで検索すれば,日本語英語問わず,うまく画像でまとめて説明してくれたものがたくさんヒットします(▼)。
MRC 息切れスケール
また,試験対策で謎に暗記しなければならないものの代表格として,●●スケール・●●スコアというものがあります。
このようなスコアを探すような場面でも google 画像検索は役に立ちます。
たとえば「MRC 息切れスケール」を単純に検索してもお堅いウェブサイトの一覧が出てくるだけですが,google 画像検索を行えば,このスケールをわかりやすくまとめたイラストがたくさん出てきます(▼)。
画像まとめはドンドン拝借
このように画像検索でヒットした「まとめ画像」は,どんどん拝借して自分の onenote なり evernote にガンガン蓄積していきます。
あるいは試験問題などを PDF 化しているのであれば,そのPDFを編集してどんどんそういう画像を貼り付けて,問題集自体を解説画像つきのノート化していくこともできます。
試験直前にはその PDF を ipadでパラパラみていくだけで一気におさらいができます。爆速です。
Pubmed検索式を使いこなす
第3のハックは,
です。これは特に文献検索をする際,絶対に押さえておきたいワザです。
たとえば
心不全治療に関する直近5年のレビュー論文が読みたいなあ…
と思った時,pubmed で
heart failure review
とだけ入力して検索を行うと,60752件もの論文がヒットしてしまいます(2022年3月現在)。
ここで「価値ある論文は一体どれなんだ・・」と途方に暮れて検索を諦めてしまうと,前に進めません。
そこで必要なのが検索式です。
pubmed検索式の具体例
たとえば以下のような検索式を検索バーに打ち込めば,心不全の直近5年のレビュー論文で,指定した雑誌に掲載されたものだけをピックアップすることができます。
"heart failure"[Majr]
AND “review”[pt]
AND ("JAMA"[ta] OR "BMJ"[ta] OR "N Engl J Med"[ta] OR "Lancet"[ta] OR "Ann Intern med"[ta] OR "CMAJ"[ta] OR "Cochrane Database Syst Rev"[ta] OR "Nat Rev *"[ta])
AND (y_5[Filter])
一見難しく見えるかもしれませんが,やっていることは,以下の4ステップだけです(▼)。
- 主要テーマを指定:"heart failure"[Majr]
- 研究パターンを指定:AND “review”[pt]
- 雑誌を指定:AND ("JAMA"[ta] OR "BMJ"[ta] OR "N Engl J Med"[ta] OR "Lancet"[ta] OR "Ann Intern med"[ta] OR "CMAJ"[ta] OR "Cochrane Database Syst Rev"[ta] OR "Nat Rev *"[ta])
- 年次指定:AND (y_5[Filter])
具体的な方法は以下の記事でかなり詳細に解説しています。すぐコピペして使える実例も豊富に掲載していますので,あわせてご一読頂ければ幸甚です。
この記事では臨床家(内科医・研修医・薬剤師ほかコメディカル)におすすめな pubmed「検索式」の作り方と,その具体例をまとめます。 臨床家必須スキル:pubmed 検索式 pubmed 検索式とは,たとえば以下のようなもので[…]
最新論文は自動でメール配信
4つ目のハックは,
という環境作りをしてしまうことです。
最もおすすめなのは,
- Evidence Alerts(メール配信)
- Pubmed検索式 × メールアラート(or RSS配信)
の2つです。その他のおすすめサービスも,順にご紹介します。
① EvidenceAlerts(無料・オススメ)
EvidenceAlertsは,カナダの McMaster 大学が提供するサービスです。
各領域の主要ジャーナル 127 誌を対象に,高度な訓練を受けたスタッフが常に目を光らせ,良質かつ話題性の高い論文 を厳選,ランク付けをした上で紹介してくれるという素晴らしいサービスです。
あらかじめ「どのジャンルで」「どの程度のレベルのトピックまで」アラートしてもらうか設定することが可能で,その設定に合わせて自動配信してくれます。
えー…っと……無料ですよね……??
と何度も確認したくなりますが,無料です(2022年3月現在)。
もはや使わない理由がない。
メールアドレスとアカウント登録は必要ですが,五分くらいでできます。大した個人情報提供も必要ありません。英語がハードルに感じるなら,そこれそ前述した自動翻訳を使いながら爆速で設定を済ませて頂ければと思います。
② Pubmed検索式 × メールアラート
これは先述した内容に被りますが,是非とも導入していただきたいハックです。
という pubmed検索式を一度作ってしまえば,勝利が確定します。
その検索式にヒットする論文が出たとき自動的にメールやRSS が届くように設定できるからです。
例)心疾患の文献を自動で集める検索式
たとえば心疾患といえば「心不全」「心筋梗塞・狭心症」「不整脈」が挙げられます。
しかし,臨床家がそれらに関する最新文献を探すため毎日 NEJM,Lancet,JAMA,BMJ,Circulation,JACC,etc.. の ウェブサイトを個別訪問して「それ系の良い論文ないかな〜〜?」と探すのは,はっきり言って時間の無駄です。
そんなことをするくらいなら,以下(▼)のような検索式をあらかじめ作っておいて,メールアラートないし RSS で手元に届くように設定してしまえば良いわけです。これで相当な時間が節約できます。
("heart failure"[Majr] OR "Myocardial Ischemia"[Majr] OR "Arrhythmias, Cardiac"[Majr])
AND (“review”[pt] OR "randomized controlled trial"[pt] OR "systematic review"[Filter])
AND ("JAMA"[ta] OR "JAMA internal medicine"[ta] OR "BMJ"[ta] OR "N Engl J Med"[ta] OR "Lancet"[ta] OR "Ann Intern med"[ta] OR "CMAJ"[ta] OR "Cochrane Database Syst Rev"[ta] OR "Nat Rev *"[ta] OR "Circulation"[ta] OR "Circulation research"[ta] OR "J Am Coll Cardiol"[ta] OR "cardiovascular research"[ta] OR "Eur Heart J"[ta] OR "JAMA cardiol"[ta] OR "Heart"[ta])
AND (y_5[Filter]) AND (fha[Filter])
検索式の作り方など詳細は,この記事をご確認ください。私個人はメールアラートではなく RSS 配信の方を愛用しています。
③その他のオススメ配信
その他,いくつか有名なサービスをご紹介します。
POEMs Podcast(音声)
iTunes|https://podcasts.apple.com/podcast/id211101158
一般内科にとって「それそれ!その話題気になってた!」というメジャーなトピックについて,ジョージア大学教授の Dr. Ebell とカリフォルニア大学教授の Dr. Wilkes が私見を交えながらトークする音声番組(Podcast)です。
週1更新,1回5〜10分の短いトークなのであまり負担感もなく,おすすめです。iTunes のポッドキャストで購読すれば,自動配信として受け取れます。
- |Essential Evidence plus
- 同じチームが運営しているサービスに EE plus(Essential Evidence plus)というものがあります。先述した EvidenceAlerts に近いサービスと思われますが,有料なので私は試したことがありません。もし詳しい方がいらっしゃったら是非レビューして教えてください!
https://www.essentialevidenceplus.com/index.cfm
POEMs とは?
なお POEMs とは,Patient-Oriented Evidence that Matters の略語です。以下の3つの質問の答えが YES となるような情報を指します。
- 患者の健康に直接関連する情報か? ── Will this information have a direct bearing on the health of patients, i.e. is it something they care about?
- この問題は日常診療上,一般的か? ── Is the problem common in one’s practice?
- もし妥当なら,この情報は現在の診療方針を変えるものか? ── If valid, will this information require a change in current practice?
ACP ジャーナルクラブ(有料)
古くから知られる鉄板中の鉄板。内科系のメジャー雑誌 Annals of Internal Medicine 系列の独立月刊誌です。
120を超える臨床ジャーナルから,内科系でインパクトの大きい優良最新エビデンスをまとめて批評してくれます。個人契約は 年間 550ドルと普通に高いので,職場が契約していることを祈りましょう🙏
主要雑誌 × メールアラート
他にも,主要なジャーナルは必ず最新号のメールアラート機能を有しています。
関心が深い主要雑誌については,メールアラートを設定してしまうのもお勧めです。
ただしあまり手広く雑誌そのもののメールアラートを受け取るよりは,上述した EvidenceAlerts や pubmed 検索式である程度スクリーニングをかけて手元に届くようにした方がストレスが少ないようにも思います。
気になるサイトはRSSでフォロー
最後にお勧めしたいのが,RSS フィードを用いたウェブサイト・ブログでの情報収集です。
RSSリーダーにお気に入りのWebサイトのRSSを登録することで,わざわざお気に入りのサイトを個別巡回せずとも「自動的に手元に更新情報が集まってくる」という状況を作り出すことができます。
政府機関や各ジャーナルも RSS を配信していることがありますし,単純に趣味などで定期的にチェックしているブログを登録することも可能です。
細かい説明はここでは省きますので,他の詳しい解説サイトをご覧いただければと思います。
ホームページの新着情報やブログについている「RSS」という表記や のアイコンを見かけたことはありますか? RSSを理解し…
Pubmed検索式 × RSS フィード
繰り返しになりますが,先述した pubmed 検索式は,RSSフィードとして自動受信する設定も可能であり,大変オススメです。
RSS フィード URL の作成はいたって簡単です。
- RSS化したい検索式を pubmed に入力
- 実際に検索する
- 検索結果が表示されている画面で〈Create RSS〉をクリックする
以上です。
検索式があらかじめ完成していれば,3秒くらいで済みます。
メールでアラートするもよし,RSSで購読するもよし。pubmedサマサマです🙏🙏
指定した pubmed 検索式でヒットする最新論文が「自動で手元に届く」というシステムは,一度構築してしまうと手放せません。
筆者の使用アプリ:feedly × Reeder
なお,参考までに私が使用しているものは以下の通りです。
ひねりなしのド鉄板ですね😅
RSSはオワコン?
RSS は SNS の発展等でオワコンになりつつあるという話もあります。
たしかに Twitter で直接そのウェブサイトの運営者をフォローしていれば,その運営アカウントがサイト更新時に必ずアナウンスするはずです。ウェブサイトやブログ等に関していえば,確かに RSS で拾う必要はないのかもしれません。
しかし上述した「pubmed検索式 → RSS化」がグンバツに便利すぎるため,私にとっては欠かせないツールです。オワコンどころか必需品であり,全身全霊でオススメします!
私は Pubmed のみならず,気になる医療職ブロガーの先生方の記事は RSS でチェックさせていただいています😊
まとめ
- 英語は自動翻訳
- Google は画像検索
- Pubmed は検索式を使う
- 最新論文は自動配信で受け取る
- 気になるサイトは RSS でフォロー
今回は以上です!
後半ほぼ pubmed の話しかしていないような気もしますが……気のせいですね。多分。
この記事が皆様のよき生涯学習の一助となれば幸甚です。
他にもおすすめのハックがあればこっそり教えてください!😊