おまけ
以下,原文訳などを踏まえつつメモ書き & 漫談です。
試験の背景
- 心房細動(Af)の有病割合は年齢と共に増加する
- Af 高齢者に対する塞栓症予防目的の DOAC 処方はガイドライン推奨だが,根拠論文の対象年齢はせいぜい 70–73歳程度
- Af 患者のボリュームゾーンは実際もっと上
- 超高齢者は腎機能障害や出血既往のために risk/benefit が微妙であり,日常臨床では多くの臨床家が避ける傾向
- 本邦では超高齢者の人口が増えており,超高齢者対象のエビデンス確立は急務
- ENGAGE AF TIMI-48 phase 3 trial で,エドキサバンはワーファリンに対し脳卒中+全身塞栓イベントの複合アウトカムで非劣性を示している。また,major bleeding のリスク面では優越性。しかしこの研究に 80 歳以上は 17% しか含まれない
- 現在,エドキサバン 15mg は(非弁膜症性 Af の脳梗塞予防では)オフラベルである(=薬事承認されていない)が,出血リスクの高い患者にとっては一定の benefit が見込まれる
- 先行研究では,mean 81歳の CCr が 15–30 の患者における 15mg 内服が,CCr 50以上の患者の 60mg(減量基準満たす場合は 30 mg)内服の血中濃度と同等となることが示されている(Circ J 2015;79:1486–95)
➡︎ そこで組まれたRCTが,今回の The “E”doxaban “L”ow-“D”ose for “E”lde”R” “CARE” “A”trial “F”ibrillation patients (ELDERCARE-AF) trial
Methods のポイント抜粋
試験デザイン
Phase 3,multicenter,二重盲検プラセボ比較 RCT,Event-driven,優越性試験
ランダム化
- プラセボと 1:1 にランダム割り付け
- 層化無作為割付けの一種:置換ブロック法:permuted blocks of four で割付
- 層化ランダム化割り付けはCHADS2スコアについて施行(2点か3点以上)
- 患者も研究者もスポンサーも,割付けについては盲検化
統計解析
Power analysis
- Event-driven
- primary endpoint を満たす患者が65件になる時点を target とし症例集め
- 過去のデータから,プラセボ群では 年5% 程度の primary endpoint 発症を見込み,Edoxaban のグループでは50%のリスク低減を見込んだ
- 上記より,プラセボ群と治療群で約400人ずつのデータが集まれば,優越性を示すのに80%の検出力があるだろうと推定(両側検定で有意水準 5%を採択)
解析手法
- Primary efficacy outcome に関しては ITTで解析
- Safety outcomeは,一回でも内服した人に関して解析
- 患者背景に関しては分布と要約統計量を示した
- Time-to-First-Event の解析は cox比例ハザードモデル
- Primary outcome の ハザードの proportionality は log-log 生存 plotで求め,Relative risk は 95%CIつきの HR で示した。Secondary efficacy outcome も同様
- Competing-risk 解析(競合リスク解析)は,Fine と Gray のモデル
- 累積イベント数はカプランマイヤー法
- Adjustment は特に行ってない
- P値は secondary outcome 等については記載していない
おまけの漫談
本研究の意義深さは,抗凝固薬導入を躊躇するような患者層で一定のデータを集めることができた,という点に尽きると思います。
先述の通り「処方する価値がある」と考えるかは個別検討が必要ですが,こういう超高齢者対象の検証的試験は,当面日本のような高齢先進国でしか出せないものと思われます。
たぶん日本でしかできなかった RCT
とにかくこの論文を読んで最初に思ったのは,
平均 87 歳で検証的な RCT なんて,日本でしかあり得ない試験や…
ということでした。
こんな攻めたデザインは,この年齢でもそれなりに健康に生きてる日本みたいな稀有な社会でしか実現し得ません。
査読者もおったまげたんじゃないでしょうか。
平均 87 歳 で phase III なんてやっぱりJAPANは crazy だぜ HAHAHA👨🦰
ってなったに違いありません(なってない?)。
これからの日本発エビデンスのあり方?
超高齢エビデンスの創出はチャレンジングな領域ですが,日本が世界にリードできる数少ない部分ですし,今後もこういう「現場の困りどころ」にフォーカスした検証的試験が日本から出てきたらありがたいなと思いました。
「いや,なにも介入試験で厳密に検証しなくても…」という話もあるかも知れませんが,そのあたりの倫理的な問題は私個人としても結論を出すのが難しい領域です。
ただイチ臨床医としては,この先も加速度的に高齢者ばかりになる日本で,「データのない手探り診療」をいつまでも続けるのもどうかとは思います。集められるデータはやっぱり集めて欲しいものです。
問題は今回の試験がそうであったように,どうしても途中脱落がめちゃくちゃ多くなってしまうだろうということでしょうか。あとは結局,製薬会社の資本力とモチベーション次第になってしまいそうだという所ですね。
これから世界が突入する超高齢社会に向けて
日本は世界最先端を突っ走る超高齢社会なので,こういう「高齢すぎてどうすればいいんだかわからない」みたいな人たちを対象にした検証的試験は,世界中が日本を注視している領域だと思います。
日本人限定かつ大量の脱落者を出している試験でも NEJM という一流誌に掲載されているのは,そういうことではないかと。
今後,日本で「超高齢者での前向きエビデンス創出」という流れは来るのでしょうか? 期待を込めて注視していきたいと思います。
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