世界初の経口内服治療薬モルヌピラビルの効果とリスク【COVID-19】

以下の内容は 2021.11.30 時点の公開データ(FDA審議資料)を元に作成しています

molnupiravir-matome


モルヌピラビル(molnpiravir; MOV)は,COVID-19 に対する世界初の経口内服治療薬として期待されている新薬です。

11月30日,米国 FDAの外部諮問委 advisory committee での審議が終了しています。

色々な懸念も指摘されていますが,既に英国では承認済みで,EUでも緊急的な使用は許可されています。恐らく近々米国での承認も降り,本邦での審議も進んでいくことでしょう。

この記事では,モルヌピラビルの治験データ,および FDA外部諮問委の審議資料(11月30日公表)をもとに,モルヌピラビルに関して「期待されている効能」と「懸念事項」についてまとめてみたいと思います。

結論から先に述べますと,以下のようになります。

期待される利益

  • ワクチン未接種,かつ重症化リスク因子の保因者が
  • 発症 5 日以内かつ軽症の時点から外来内服治療を開始すると
  • 入院/死亡のリスクがプラセボと比べ 30 % 減少する(6.8 % vs 9.7%)

┗━▶︎ ※ただし本邦への一般化可能性:低

現時点での懸念と限界

  • 入院患者を対象とした治験では有効性が示せなかった
  • 動物実験から骨髄抑制の懸念あり(臨床データでも軽度貧血の頻度上昇)
  • 動物実験から骨・軟骨形成不全の懸念がある(臨床データなし)
  • 動物実験から胚毒性・催奇形性の懸念がある(臨床データなし)
  • 安易に広く使用されるとウイルス変異を促す懸念がある

冗長を避けるため,省ける部分は箇条書きで記載していきます。

本記事の情報源は以下:

なお,モルヌピラビルは中間解析結果で「50%の重症化リスク減少!」と期待されていた経緯があります。しかしフル解析結果で「30%の重症化リスク減少」へと下方修正され,その点でも一時期に話題になっていました。その点については別記事で掘り下げていますのでご参照ください。
合わせて読みたい

モルヌピラビル(molnpiravir; MOV)は,COVID-19 に対する世界初の経口内服治療薬として期待される新薬です。しかし第 III 相試験(MOVe-OUT試験)の中間解析結果で「50%の重症化リスク減少!」と公表されたの[…]

薬の概要

  • RNAポリメラーゼ阻害薬(経口内服)
  • メルク社開発(日本法人は MSD 製薬)
  • 3本の臨床試験あり
    • 対象① COVID-19 軽症外来治療(MOVe-OUT試験)第 II/III 相
    • 対象② COVID-19 接触者の発症予防(MOVe-AHEAD試験)第 II/III 相
    • 対象③ COVID-19 入院治療(MOVe-IN試験)→ 第 II 相で中断
|補足:第 III 相試験とは
第 III 相試験とは,薬効が本当にあるのかきちんと〈検証〉するために行われる臨床試験のことです。このフェーズで一定の効能を示すことができれば,承認申請に進むことができます。

治験で示された「効能」

現在までのところ,各国で承認ないし審議中の効能は「軽症者の外来治療」のみです。

そのため本稿では該当する試験── MOVe-OUT試験(NCT04575597)──の結果のみ取り扱います。

|入院治療・予防内服
重症・発症後期の患者(=入院患者)を対象とした MOVe-IN 試験では,第 II 相の段階で効能を示せず,第 III 相試験に進むことなく中止されています。予防内服の MOVe-AHEAD 試験は第 III 相まで進んでいますが,現時点では結果未公表です。

試験の概要(PICO)

MOVe-OUT 試験(軽症外来治療の治験)の概要は以下の通りです。

─ ads ─

対象者(P)

  • COVID-19 発症 5 日以内の軽症者(外来治療)
  • 18 歳以上,ワクチン未接種者,重症化リスク因子*があること
  • 男女とも確実性の高い避妊手段を講じること(§)が要件
※診断要件は,割付 5 日以内の検体で SARS-CoV-2 が検出されていること。
*)60歳以上,現在活動性のある悪性腫瘍,慢性腎不全,COPD,肥満(BMI30以上),重症心疾患(CAD,心不全,心筋症),糖尿病,のいずれかを保因
|§ 避妊の義務付け
男女ともには最終内服より最低4日の避妊が義務付けられた。また妊婦・授乳婦は除外。高感度の妊娠検査を初回投与の24時間前までに確認された。RNAポリメラーゼ阻害薬は機序の観点から胚毒性が懸念されるため。なおアビガン®︎(ファビピラビル)も内服時に同様の強い避妊指示が行われた経緯あり。添付文書参照。

介入(I)

モルヌピラビル 800 mg 12 時間毎 5 日間投与

比較対照(C)

プラセボ 12 時間毎 5 日間投与

アウトカム(O)

【主要】入院 or 死亡者の割合(-29日),有害事象(-7ヶ月),有害事象による脱落(-6日)

【二次】症状持続期間(-29日),事前規定タイミングでの重症度(WHO 11点 scale)etc..

結果

主要アウトカムの解析結果は以下の通りです。

フル解析モルヌピラビル (n=709)プラセボ (n=699)差 [95%CI]NNT
入院または死亡48 (6.8%)68 (9.7%)3.0% [0.1, 5.9]33.3
死亡1 (0.14%)9 (1.29%)

相対リスクで言えば,入院/死亡のリスクがプラセボと比べ 30 % 減少する(6.8 % vs 9.7%)と表現できます。

NNT(number needed to treat)33.3 = 33.3人に投与すれば1件の入院を阻止できる
|中間解析で過大評価された経緯
なお中間解析の時点では「50 %のリスク減(7.3 % vs 14.1 %)」という結果でした。それがフル解析で「30%のリスク減(6.8 % vs 9.7 %)」に訂正されたことで一時悲観的な報道が相次ぎましたが,これ自体はプラセボ群の成績がブレたことによる影響に過ぎません。詳細は別頁

リスク保因者でない場合は?

上記結果から,

「ワクチン未摂取」かつ「重症化リスク因子の保因者」が
「発症 5 日以内の軽症段階」でモルヌピラビルを内服すると
入院/死亡リスクがプラセボ比 30 % 減少する(6.8 % vs 9.7%)

34 人に投与すれば 1 人の入院を阻止できる(NNT 33.3)

ということは分かりました。

しかし逆を言えば,今回の試験では「重症化リスク因子があるが,ワクチン未接種の人」という集団での成績しか調べることができていません。

臨床現場での有効性を正しく見積もる際,この点が大きな障壁となります(特に日本の場合)。

日本でも「効く」薬と言えるか

今回の治験の対象集団の特徴をまとめると,以下の通りです。

MOVe-OUT 参加者の特徴

  • ワクチン未接種かつリスク因子保因者のみ参加
    • リスク因子の最多は肥満(BMI30以上);約 74%
    • 他,糖尿病は約15-6 %,60歳以上が 18%,心疾患既往が 11%,COPDや慢性腎不全 は約 5 %程度ずつ,担癌は 2%。
  • 平均 45歳,約半数が発症3日以内の内服開始
    • 49歳以下が約 66 %(中間解析時点では 70%)
    • 50ー64歳が約 23 %,65歳以上はわずか 10 %
  • アジア人は 3-4 %(白人が 約 6割)
  • デルタ株 58%,ミュー株 20 %,ガンマ株 11 %
  • 除外:血液透析,eGFR30未満の腎障害,AIDS,肝硬変,血小板10万未満

問題は,この集団で「30%入院リスクを減らした」からと言って,ただちにこの結果を日本に応用できるのか?ということです。

日本の現場との大きな隔たり

日本の臨床現場への応用に際し,特に大きな隔たりとなるのが,以下の 3 点です。

  1. 「最低1つリスク保因」と言いつつその中身はほぼ肥満(BMI≧30)
  2. 治験に含まれた アジア人は 3-4 % のみ
  3. 本邦はワクチン接種率が非常に高い

今回の治験(MOVe-OUT)は要するにほぼ「肥満の非アジア系」かつ「ワクチン未接種者」に限ったデータであり,日本人に適用するには適正用量からして見直しが必要かもしれません。

有害事象の懸念

また,薬について考えるときは〈益〉の見積もりだけでなく〈害〉のリスクも検討しなければなりません。

モルヌピラビルにはどのような有害事象の懸念があるのでしょうか。

第 III 相レベルでは許容内

今回の治験中,スポンサーは実薬群に明らかに多い「有害事象」は検出されていない,と述べています。実際,今回の治験データで懸念されたリスクは以下の通りで,大きな差はなさそうです(▼)。

安全性解析モルヌピラビル (n=710)プラセボ (n=701)差 [95%CI]
1つ以上のAE216 (30%)231 (33%)-2.5% [-7.4, 2.3]
SAE49 (7%)67 (10%)-2.7% [-5.6, 0.2]
AEによる中断10 (1%)20 (3%)-1.4% [-2.7, -0.5]
*AE: 有害事象 adverse events / *SAE: 重篤な有害事象 serious adverse events

第 III 相試験で「害」のリスクは十分検出できない

しかし残念ながら,これで

よかったよかった,この薬は安全、、なんだ!

とはなりません。第 III 相試験で「安全性」は検証できない からです。

第 III 相試験は〈益〉を検出するために必要な最小限のサンプルサイズを事前に計算した上で施行されるので,〈益〉よりも頻度が少ないはずの〈害〉を有意差として検出するようにデザインされていません。

日本のスポンサーやメディアは「安全性が示された」などと報道してしまう場合もありますが,well-tolerated in this population(今回の対象集団においては許容範囲であった)というのが正しい解釈です。

あくまでこの規模で有意差になるようなレベルでバンバン害が出たわけではない,ということに過ぎません。

第 III 相試験で示すことができるのは,最低限、、、の安全性までです。

むしろ第 III 相試験程度のサンプルサイズで重篤な害が多く検出されるようであれば,薬というより毒物になってしまいます。

厳密な「安全性評価」は市販後から

多くの第 III 相試験では,せいぜい 1000 人程度の実薬投与しか行われません。そしてそのような標本数では,試験中に有害事象が多少あったからといって「それが投薬によるものなのか,全く関係ない偶発的な有害事象なのか」統計的な判断ができません。

たとえばその新薬が 500 人に 1 人「」アナフィラキシーショック/劇症肝炎/急性膵炎といった重篤な有害事象を起こす「危険なクスリ」だったとしても,第 III 相試験では報告が上がらないかもしれません。

もし1件や2件報告に上がったとしても,それがノイズなのか,薬の影響によるものなか,その段階では判断ができません。

害の検出には大量のサンプルが必要

しかしひとたび承認を受けた薬は,リアルワールドで膨大な人数に投与されることになります。

そのため 1000人ぽっちの試験では有意なものか不明だった〈害〉が,市販後から明確になる,ということはしばしばあります。

これはモルヌピラビルに限らず全ての新薬に対して言えることで,臨床家の中では「新薬は5年寝かせろ」という格言があるほどです。

どのような新薬にも,数年かけてウン十万人に投与されて初めて見えてくる〈害〉は多かれ少なかれ存在します。

だからこそ,製薬会社には〈市販後調査〉として有害事象のモニタリングを行うことが義務付けられています。

FDA諮問委で審議された懸念点

では,治験で十分検出できていない害として,モルヌピビラビルには具体的にどのようなリスクが想定されているのでしょうか。

FDA外部諮問委の審議資料の中では以下が指摘されています。

害の懸念

  1. 動物実験から骨髄毒性の懸念がある
    • 治験でも実薬群で「軽度の貧血」がより多く観察された
  2. 動物実験から骨・軟骨形成不全の懸念がある(臨床データなし)
  3. 動物実験から胚毒性・催奇形性の懸念がある(臨床データなし)
  4. 入院患者を対象とした治験では有効性が示せていない
  5. 安易に広く使用されるとウイルス変異を促す懸念がある
もちろんこれらは第 III 相試験で〈統計的に有意な差〉として検出されたものではない(むしろこの段階で有意差が出るようでは困る)。しかし先述したように,無視してよいシグナルとも言い切れない。

順に見ていきましょう。

懸念①:動物実験では骨髄毒性あり

  • Grade 1-2 貧血が MOV 800mg 群で多く観察された(4 %;プラセボ群1%)
  • Grade 3 以上の貧血は差なし(MOV800mg群 2/615,プラセボ群 4/616)
製薬会社のプレゼン資料(CC-39)では Grade 3 以上の貧血(男性Hb9未満・女性Hb8.5未満)しか図表化されていないが,FDA諮問委の審議内容 では,Grade 1-2 の軽症貧血が実薬群で多かった問題がしっかり指摘され議題になっている。リアルワールドの膨大な人数に投与されたとき,この有害事象がどの程度現場で問題になるかは注視する必要あり。

懸念②:動物実験では骨・軟骨形成不全あり

  • 動物実験で骨・軟骨の発達異常の懸念がある
FDA諮問委は「18歳未満への適応は通すべきでない」と勧告。そもそも小児はハイリスクではなく,治験にも 18 歳以下は参加していない|審議資料 p23-

懸念③:動物実験で胚毒性・催奇形性あり

  • 機序の観点から胚毒性・催奇形性の懸念あり(アビガン®︎と同様
  • 動物実験では実際に催奇形性が確認されている
  • ラットでは乳汁移行が確認されている
  • 以上より,そもそも臨床試験には妊婦・授乳婦を参加させていない。また男女ともに厳格な避妊を求められている。
FDA諮問委は「妊婦への使用は承認しないこと」「最終月経などから否定できない場合は妊娠検査を行って確認した上で内服すること」「授乳婦は少なくとも内服終了4日まで授乳を行わないこと」などを提案|審議資料 p25-

懸念④:安易な使用は遺伝子変異を促す可能性

  • モルヌピラビル群のほうが,プラセボ群と比べウイルスゲノムの変異を増やしていた(臨床試験データ)
  • モルヌピラビル群のほうが,プラセボ群と比べウイルスのスパイクタンパクのアミノ酸配列をより変化させていた(臨床試験データ)
市中で安易に使用された場合,ウイルスの変異を促進してしまう懸念あり。承認されたとしても,今回の治験参加集団に準じ「きちんと的を絞った適用」が望ましい|審議資料 p30-
|インフルエンザで先例あり(ゾフルーザ®︎)
ウイルス変異を促す懸念については,抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ®︎」の問題が記憶に新しいところです。「効く」薬だからといって安易に使いすぎると耐性化を促して刃を鈍らせてしまいます。これは抗菌薬・抗ウイルス薬全般に言えることです。

懸念⑤:入院患者を対象とした治験では有効性示せず

  • 入院患者対象の第 II 相試験(MOVe-IN試験)で,モルヌピラビルはプラセボに勝る〈益〉を示せず撤退している。
  • むしろ致死的有害事象 fatal adverse event がモルヌピラビル群合算の方でプラセボ群より多く観察された(14/218 [6.4%] vs 2/75 [2.7%] )
  • なおこの試験においても貧血(グレード問わず)は MOV 800 mg で 22.4%,プラセボで 8.3 %と,実薬群で多く観察されている。
発症後期・重症化後での使用は控えるべき。また,MOVe-IN, MOVe-OUT と複数の試験で「貧血」が多く観察されている点には留意|審議資料 p21-
プレスリリース:軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症の経口治療薬として開発中のmolnupiravirの臨床開発プログラムの進捗状況を公表 外来患者を対象とするmolnupiravirの第3相試験MOVe-OUTを実施へ 入院患者を対象とする第2/3相試験MOVe-INは移行せず|Apr 19, 2021. MSD製薬

FDA 諮問委の結論

これらの懸念に関してFDA諮問委は「安全性を論ずるにはサンプルが少なすぎる」「継続的な安全性データの収集が必要」と結論しています。

その上でモルヌピラビルに EUA(緊急使用許可)を出すことに関しては,23人の諮問委員のうち13名が賛成,10名が反対を表明しています。

反対が多かったのは,特に「安易な普及はウイルス変異を促すのではないか」という懸念が根強かったためです。

ちなみにFDA 諮問委で行われた議論は,全て youtube でライブ配信され,その後も一般公開されています。

https://www.youtube.com/watch?v=fR9FNSJT64M

この素晴らしい情報透明性は,日本でも是非取り入れて欲しい文化です…

今後各国では承認されるか?

米国 FDAが実際に承認するかどうかは,現時点では不明です。上記の諮問委はあくまで外部のシンクタンクであって,直接的な決定権は FDA 内部にあります。

とはいえ,諮問委も多数決としては承認賛成が上回っていますし,なによりモルヌピラビルは「初の経口内服薬」です。おそらく米国でも承認されるのではないかと思います。

実際,英国では一足先に承認が下りています。EU(EMA;欧州医薬品庁)でも現在審議中ですが,緊急的な使用に関しては許可を出しているようです。

Molnupiravir: First pill to treat Covid gets approval in UK|BBC news 2021-11-04
EMA receives application for marketing authorisation for Lagevrio (molnupiravir) for treating patients with COVID 19| EMA news 23/11/2021

日本では承認されるか?

では本邦ではどうでしょうか?

本邦での審議がどの程度進んでいるのかは分かりませんが,米国(FDA)や欧州(EMA)の決定に追従する可能性が高いと考えられます。

実際,すでに政府が一定人数分を確保契約しているようです。

軽症から中等症の新型コロナウイルス感染症治療の経口抗ウイルス薬として開発中のモルヌピラビルの供給に関して日本政府と合意| MSD 製薬プレスリリース 2021年11月11日 00:00

特例承認となる可能性も

本邦には米国や英国の承認結果をそのまま引き継ぐ〈特例承認〉というシステムがあるので,FDAの決定があればすぐに動きがあるかもしれません。

しかし先述したように,MOVe-OUT試験が対象としたのはほとんどが 非アジア系の肥満者であり,さらに,全員ワクチン未接種であったという limitation があります。

現在の日本の状況への一般化は難しく,ましてリスク因子のない若年者などに関しては,投与する意味があるか(benefitが本当に riskを上回るか)どうかわかりません。

安易な使用はウイルス変異や耐性化を促す懸念もあります。

仮に承認されたとしても,近医クリニックで「タミフル®︎みたいにポンと処方される」ような状況にはならないと見ています。

|理想的には日本で治験をやり直すべき
現在の日本での「risk/benefitバランス」を見極めるためには,本邦でも第 II 相試験(用量の決定)からやり直すことが望ましいでしょう。しかし現実問題として,現在は患者さんの数も少ないため(これ自体は素晴らしいことですが),そうした治験を組み直すとなるとデータ収集が非常に遅くなります。おそらくレムデシビルやワクチン同様〈特例承認〉制度を用いて「海外承認をそのまま日本に広げよう」という論理になるのではないかと思います。
合わせて読みたい

COVID-19 関連で注目度が高くなっており,また混乱のタネになっている様にも思われる医薬品の〈迅速承認〉あるいは〈緊急承認〉制度についてまとめてみます。その上で,記事後半ではこうした制度が抱える問題点についても述べたいと思います。[…]

まとめ

期待される利益

  • ワクチン未接種,かつ重症化リスク因子の保因者が
  • 発症 5 日以内かつ軽症の時点から外来内服治療を開始すると
  • 入院/死亡のリスクがプラセボと比べ 30 % 減少する(6.8 % vs 9.7%)

┗━▶︎ ※ただし本邦への一般化可能性:低

現時点での懸念と限界

  1. 動物実験から骨髄毒性の懸念がある
    • 治験でも実薬群で「軽度の貧血」がより多く観察された
  2. 動物実験から骨・軟骨形成不全の懸念がある(臨床データなし)
  3. 動物実験から胚毒性・催奇形性の懸念がある(臨床データなし)
  4. 入院患者を対象とした治験では有効性が示せていない
  5. 安易に広く使用されるとウイルス変異を促す懸念がある

今回は以上です!

後半に懸念事項を持ってきてしまったためネガティブな印象を与えてしまったかもしれませんが,新薬の審議というのは大体こういうものです(むしろ平素の注目度が低すぎるように感じます)。

MOVe-OUT 試験の全 10 死亡のうち 9 はプラセボ群であったことをみると,やはり「ハイリスク群の外来治療」という点で一定の benefit が見込まれます。

今後も新型コロナウイルスがどのような変異を起こしてどのような流行状況になるか見えない以上,臨床家として「使える武器」が増えることは歓迎したい所です。

ただ,本邦の状況に一般化できるデータが限られている以上,武器としての「使いどころ」はまだこれから吟味していかなければなりません。

少なくとも当面,安易に振り回してよい「武器」であるとは言えず,扱える人は絞った方がよいのではないかと感じています(私見です)。

おまけ:他の経口内服薬

おまけとして,他剤についても箇条書きで列記しておきます。

パクスロビド PAXLOVIDTM

  • ファイザー社開発
  • プロテアーゼ阻害薬(内服)
  • 試験薬品+リトナビル(抗HIV薬)合剤
  • 軽症・ワクチン未接種・リスク因子保因者を対象に第 III 相試験(NCT04960202)施行
  • 中間解析では良好な成績
    • 試験中の入院は 1.0 % vs 6.7 %(6/607 vs 41/612,p<0.0001)
  • フル解析のプレスリリースでも良好な成績を発表
    • 試験中の入院は 0.8 % vs 6.3 %(8/1039 vs 66/1046, p<0.0001)
    • 試験中の死亡は 0/1039 vs 12/1046
Pfizer Announces Additional Phase 2/3 Study Results Confirming Robust Efficacy of Novel COVID-19 Oral Antiviral Treatment Candidate in Reducing Risk of Hospitalization or Death|Pfizer社プレスリリース December 14, 2021
私見)

  • モルヌピラビルより成績いいのでは?という話が今後出てきそうですが,単純比較はできません
  • プラセボ群の入院割合を見ると,パクスロビドの試験(6.3%)はモルヌピラビルの試験(9.7%)と比べて低く,どこかにズレがありそうです(対象集団か入院基準か)。inclusion criteria 自体はほぼ同じハズですが,実際に集まる患者さんにはズレがあるかもしれません。
  • また「入院」というのはどうしても恣意性を含むアウトカムなので,確実なのは死亡抑制数を見ることです。モルヌピラビルもパクスロビドも,実薬群側は死亡をそれぞれ 1/709, 0/1039 に抑えています(プラセボ群はそれぞれ 1%程度死亡)。その意味で,最もハードなエンドポイントの達成はほぼ同程度とも捉えられます。
  • またパクスロビドは,含有するリトナビルの方に併用禁忌薬/併用注意薬が非常に多いため,臨床現場では取り回しにやや難がありそうです(添付文書参照)。
    • ※)リトナビルとの合剤にするのは,通称リトナビルブースト(プロテアーゼ阻害薬の作用増強)を起こすため

こちらも FDA の審議資料か論文か,何らかプレスリリース以外の信頼性のたかい情報源が開示されれば,当ブログで取り扱いたいと思っています。

治験中・データ未公表

  • ロシュ社「AT-527」;第 III 相 MORNINGSKY|NCT04889040
  • 塩野義製薬「S-217622 」;第II/III 相試験|press release
  • 富士フィルム「アビガン®︎」;第 III 相試験|NCT04694612
  • 興和「イベルメクチン」;第 III 相試験|NCT05056883
これらの結果も期待しつつ待ちたいところです。イベルメクチンに関しては色々と情報も錯綜していますが,質の高い第 III 相試験となることを期待しています。
合わせて読みたい

この記事では,2021 年 8 月時点のイベルメクチン〈1次情報〉について,目星い報告を簡潔にまとめます。「イベルメクチン効くかも仮説」はどのように提唱されてきたのか,そしてその仮説の検証は「どこまで来ているのか」。辿ってきたエビデンス[…]

[おすすめ本紹介]

User’s Guides to the Medical Literature


EBMを学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶとしたら間違いなくコレ,という一冊です。著者 Gordon Guyatt 先生は「EBM」という言葉を作った張本人。かなり網羅性が高く分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


表紙が全然違いますが「User’s Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版です。一生言い続けますが,EBMと言えばこの1冊です。唯一の欠点は,Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。鈍器としても使えます。

─ ads ─
>医療統計の解説チャンネル

医療統計の解説チャンネル

スキマ時間で「まるきりゼロから」医療統計の基本事項を解説していく Youtube チャンネルを 2 人で共同運営しています。

CTR IMG