超高齢者の心房細動に対する脳卒中予防 エドキサバン15mg |ELDERCARE-AF

久々に面白い RCT の論文を読みました。

割と掘り下げて読みましたので,自分の備忘録がてら投稿します。

批評にあたり本文中のFigureも引用させていただきましたが,何か問題がありましたら申し訳ございません。権利者の方から御指摘があれば画像は掲載から下ろします。

尚,和訳はなかなかに雑な部分が多々あります。
明らかな間違いがありましたらご教示いただければ幸いです。

Low-Dose Edoxaban in Very Elderly Patients with Atrial Fibrillation

PubMed

In very elderly Japanese patients with nonvalvular atrial fi…

NEJMに2020年8月30日に投稿された,ホッカホカの最新論文。
現時点ではまだwebに先行掲載されたばかりです(2020年9月5日時点)。

日本発のエビデンスで,済生会熊本病院の奥村先生が 1st author です。

先日ぼけ〜〜っとNEJMのサイト見てたら目につきまして,
Abstractを読んだ瞬間 「おもろい」 と。

胸が熱くなって急遽ガツガツ読み込みました。

論文の要旨は以下の通りです。

  • 80歳以上かつ標準的内服抗凝固薬の適応としがたい出血ハイリスク群の超高齢日本人に対する,エドキサバン15mgとプラセボ比較の多施設共同二重盲検RCTELDERCARE-AF
  • Primary Efficacy Oucome は脳卒中と全身塞栓症の複合アウトカム(予防)
  • 追跡期間の中央値 466日(IQR 293 – 708日)
  • 複合アウトカムの発生はエドキサバン群 15/492(2.3% per patient-yr),プラセボ群 44/492 (6.7% per patient-yr),HR 0.34 (95%CI 0.19–0.61)
  • Death from any cause は有意差なし
  • 出血は明らかに増えるが,benefit を考えると許容範囲か(という主張)

▼元文献はこちら
NEJM
Clinical trials.gov
Pubmed; PMID32865374

以下,感想を交えつつ精読していきます。

問題提起

超高齢者の心房細動で,脳卒中予防をどうするか?

現場で実際困るんですよね…これ。
85歳も超えてくると,frail があったり体重 40 kgくらいしかなかったり,腎機能障害があったり,出血歴があったり…という超高齢者は実臨床ではわりと遭遇頻度が高いです。

実際腎機能が多少悪くてDOAC使えなかろうがWarfarin を入れればいいわけですが,超高齢者は INR の調整もかなり絶妙な匙加減を求められます。

そのため,なかなかハードルが高い。

実際うまくいかずちょっとしたことで過延長になったり,
逆にびびって low dose にしすぎて
内服している意味すら微妙なINRに落ち着いたりするわけです。

そうした背景があるため,現実的には

まあ…もうお歳もお歳ですしねえ…
予防薬をいつまでやるべきかは難しいところですよねえ…
出血リスクと天秤にかけたらどっちがいいかっていうことは,
このご年齢だとあまり明確なデータもありませんし…
まあ,施設に入られますしね…
INRもそうこまめに確認できませんし…

などと「なあなあな感じ」に予防内服を避けたりしてしまうことは,ままあることだと思います。

意味もなくアスピリンに変更されたりしていることも…

まさに今回のRCTはそうした日常臨床の困りどころというべきか,
現行エビデンスのちょうど隙間で宙ぶらりんになっている部分というべきか,
とにかく《痒いところ》にしっかり手を届けるような設計になっていると思いました。

そもそも85歳などの超高齢者相手に RCT なんてそうそう組めるものではない,
と,現場の臨床家はほとんど誰もがそう思っています。
この年齢になるとさすがに background もヘテロすぎますし。

多くの人が,そもそも前向きのデータを集めること自体を
半ば諦めかけているような領域ではないでしょうか。

しかしこの論文はあえてそこに focus して患者さんを集めているわけです。

当然対象が超高齢者なので
大量の途中脱落者を出してしまったりしている面もあるわけですが,
とにかくまずこの設計でやってみようという意思,
その上でしっかり完遂して一定の結論を導いた,
というそこだけでも面白い trial です。

尚,ここで,
そんな歳の人まで実験台にするのか!
そんな歳の人まで薬を飲ませ続けるのか!
といった批判の声もあるかも知れませんが,私はむしろ患者さんの同意が得られているのならデータは集めるべきだと思います。もはや 80歳でもピンピンしている高齢者は少なくありませんから,こうした地道な知見の蓄積はこれからの日本にとっても世界にとっても必要なことだと感じています。

Trialが組まれた背景

【背景】

  • AFの有病割合は年齢と共に増加し,年齢もAFもいずれも脳卒中リスク
  • AF高齢者に対する塞栓症予防目的のDOAC処方はガイドラインでも推奨
  • しかし超高齢者に対しては日常臨床では多くの臨床家が避ける傾向
  • 超高齢者は腎機能障害や出血既往のために risk/benefit が微妙に
  • 本邦では超高齢者の人口が増えており,超高齢者対象のエビデンス確立は急務
  • ENGAGE AF TIMI-48 phase 3 trial では,非弁膜症性のAf患者に対して,1日1回のエドキサバン60mg(または減量基準を満たす場合30mg)であっても1日1回のエドキサバン30mg(または減量基準を満たす場合15mg)であってもワーファリンに対して stroke と全身塞栓イベントの複合アウトカムの面で非劣性,かつ major bleeding のリスクの面では優越性を示した.
  • しかしこの study には80歳以上の高齢者がわずか17%
  • 現在,特定基準を満たすときのみ 15mg という dose は(AF患者の脳梗塞予防では)オフラベルである(=薬事承認されていない)が,出血リスクの高い患者にとっては一定の benefit が見込まれる.

➡︎ そこで組まれたRCTが,
The “E”doxaban “L”ow-“D”ose for “E”lde”R” “CARE” “A”trial “F”ibrillation patients (ELDERCARE-AF) trial

80歳以上の日本人高齢者を対象にした,
エドキサバン15mg1日1回のプラセボ対照二重盲検 RCT
※ NCT02801669 (ClinicalTrials.gov)

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COI

第一三共が出資
… まぁphase 3 trial なので当然ですね。
… エドキサバンの商品リクシアナ®︎の会社です。

その他個別の細かい COI はNEJM.org に記載とのこと。
詳細は確認してませんが皆さんお偉い先生方なので,
色んなお金が動いてることでしょう☺️

Methods

設計

Phase3, multicenter, 二重盲検プラセボ比較RCT
Event-driven,優越性試験

ランダム化

  • プラセボと 1:1 にランダム割り付け
  • 層化無作為割付けの一種:置換ブロック法:permuted blocks of four で割付
  • 層化ランダム化割り付けはCHADS2スコアについて施行(2点か3点以上)
  • 患者も研究者もスポンサーも,割付けについては盲検化

追跡

  • 4週間ごとに第4週目から48週目まで通院
  • 以降は8週ごとトライアル終了まで F/U
  • 追跡期間の中央値は 466日(IQR 293 – 708日)

統計解析

  • Event-driven なので,primary endpoint を満たす患者が65件になる時点を target として症例を集めた
  • 過去のデータから,プラセボ群では 年5% 程度の primary endpoint 発症を見込み,Edoxaban のグループでは50%のリスク低減を見込んだ
  • 上記より,プラセボ群と治療群で約400人ずつのデータが集まれば,優越性を示すのに80%の検出力があるだろうと推定(at a two-sided significance level of 5%;仮説検定で両側検定で αエラー5%を採択)
  • Primary efficacy outcome に関しては ITTで解析
  • Safety outcomeは,一回でも内服した人に関して解析
  • 患者背景に関しては分布と要約統計量を示した
  • Time-to-First-Event の解析は cox比例ハザードモデル
  • Primary outcome の ハザードの proportionality は log-log 生存 plotで求め,Relative risk は 95%CIつきの HR で示した. Secondary efficacy outcome も同様
  • Competing-risk 解析(競合リスク解析)は,Fine と Gray のモデルを用いた
  • 累積イベント数はカプランマイヤー法で解析
  • Adjustment は特に行ってない
  • P値は secondary outcome 等については記載していない

PICO

Patient

[Inclusion Criteria]

  • 80歳以上の超高齢者,日本人
  • 非弁膜症性のAfの罹患者
  • 合意を得る前の1年以内にECGの施行
  • CHADS2スコアが2点以上(75歳以上は既に満たしているので,CHF, HTN, DM,TIA/脳梗塞既往,のいずれかがあること,と取れる)
  • 下記の少なくとも1つを満たすが為に,通常推奨 dose や INR 管理での経口抗凝固薬使用が推奨されない患者
    • 推算クレアチニンクリアランスが 15–30
    • Criticalな部位(頭蓋内等)の出血や腸管出血,臓器出血の既往
    • BW45kg以下
    • NSAIDsの継続的使用
    • 抗血小板薬内服中
  • ICに書面で同意を得られた
[Exclusion criteria](Appendixより)

  • 何らか可逆性の病態を期に二次性に起きた一過性のAf
  • ランダム化前の8週以内に経口抗凝固薬内服歴あり
  • 4週以上あけて行われた直近3回中2回の血液検査結果でINR 1.6 以上にコントロールされた Warfarin内服
  • 下記のいずれかを満たしいかにも出血しそうなハイリスク患者
    1. ICの時点で活動性出血がある
    2. ICの時点で未治療の消化管潰瘍がある
    3. Hgb<9,Plt<10万
    4. 遺伝的な出血性疾患
  • ランダム化する30日前までにTIAないし脳梗塞を発症
  • リウマチ性弁膜症
  • 弁置換歴
  • IE罹患中
  • myxomaをお持ち
  • 左室内血栓や左房内血栓が確認された
  • 遺伝性の血栓傾向
  • 薬物的ないし電気的除細動の予定がある
  • コントロール不良の高血圧(持続的にsBP160, ないしdBP100)
  • 推算CCr < 15mL/min(Cockcroft-Gault)
  • 血液透析導入予定がある
  • IC時点で抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)中,ないしDAPTの予定があり,単剤にできない
  • 凝固異常を伴う肝機能障害がある
  • ランダム化の30日前までにMIを起こしている
  • NYHA分類3以上の重度心不全ないしUAP
  • IC時点から遡って2年以内に腫瘍の診断歴ないし治療歴がある
  • IC時点から遡って60日以内に他の trial drugsの内服歴がある
  • その他 investigator か subinvestigator が「う〜ん、不適格!」ってしたやつ

Intervention

エドキサバン 15 mg 1日1回内服

Control

プラセボ

Outcome

Endpoint内容
Primary Efficacy Endpoint
  • 複合アウトカム:脳卒中 or 全身の塞栓イベント
Primary Safety Endpoint
  • major bleeding(ISTHの定義に則る)
    ※致死的出血,後腹膜出血,頭蓋内出血,眼内出血,髄腔内出血,関節内出血,コンパートメント症候群を伴う筋肉内出血,Hb2以上の低下で輸血を伴う出血,など
Secondary efficacy Endpoints
  • 複合アウトカム:脳卒中 or 全身の塞栓イベント or CVD による死
  • 大きな心血管イベント:nonfatal MI, nonfatal stroke, nonfatal 塞栓イベント,CVDによる死亡,出血による死
  • Death from any cause
Secondary Safety Endpoints
  • 複合アウトカム:Major bleeding と clinically relevant nonmajor bleeding
  • clinically relevant nonmajor bleeding
  • Minor bleeding
  • All bleeding
「Clinically relevant non-major bleeding」とは
「臨床的に明らかな出血で,治療を要したもの」。
原則画像検査などで明らかに確定されたものを指す。
下記のプロセスを伴わない外来検査であれば「治療を要した」ものとはしない。

  • 入院治療や,既に入院していた場合の退院延期
  • 血液検査
  • 画像検査
  • 内視鏡検査(上部消化管内視鏡,大腸内視鏡,膀胱鏡,気管支鏡)
  • Nasal cavity packing(いわゆるボスミン®︎ガーゼ的なやつでしょう)
  • 圧迫止血
  • 超音波ガイド下の動脈瘤圧迫
  • コイル塞栓術
  • Cardioactive therapy(昇圧剤などでしょうか)
  • 手術,外科的止血
  • 臨床家の指示による trial drug の中断(まあまあのsituationですよね)
  • 臨床家の指示による concomitant therapy の変更(アスピリンの減量・中断など)
《所感》

  • この clinically relevant non-major bleeding,つまり「臨床的意義のある出血」というやつの扱いが,結構この論文の解釈のミソになるように思います(決して少なくはなかった)。
  • なお「複合アウトカム」というだけで誰か大切な人でも寝取られたんか?ってくらい強く嫌悪する人も時々見かけますが,この trial の複合アウトカムは十分妥当なラインだと思いました(もちろん複合アウトカムに欲張りセットみたいな詰め込み方をする trial はいただけませんが)。

Result

Figure1

※基本 ◯◯vs△△, ◯◯:△△としている記載は,治療群:プラセボの順です
《Enroll〜ランダム化〜解析について》

  • 2016年の8月5日から2019年の11月5日まで,1086人が164施設からenroll
  • そのうち 984人が合意を得てランダム割り付け(492:492)
  • 途中脱落 151:150, うち死亡 66:69,辞退希望 81:75
  • 死因は cardiovascular death が41:41で最多(特に心不全・心原性ショックが22:19で最多)。次点で感染症が 12:13。
  • 辞退理由の最多は「出血ではない何らかの有害事象(37:34)」「モチベーションを失った or 通院に難(29:30)」(TableS4).「出血関連の有害事象(2vs4)」は両群とも少ない。
《所感》

  • さすがに超高齢かつハイリスクな患者を対象にしていることもあり,
    両群ともかなりの脱落者数です(約30%も脱落)
  • とにかく死亡が多い(66 vs 69)…まあ平均87歳ですしね…
  • ただこのstudyの凄いところは,普通 RCT でこれだけ途中脱落していたら話にならないところを,「まあ平均年齢87歳だから…」と思えるところ,かもしれない。
  • むしろこれだけ集めただけでも十分凄いと思えてしまう。
  • もちろんかなりの脱落数なので,結果の解釈には+αの解析が必要
  • IPCW法や死亡を競合リスクとした競合リスク解析がappendixで行われています(➡︎ その上で結論は不変)

Table 1

《Trial参加者の背景因子について》

  • 全員80歳以上の超高齢,平均 86.6歳(!) SD 4.2歳
  • 体重も 平均 50kg±SD11kg と小柄
  • CrCL 平均 36.3, SD 14.4 となかなかの低腎機能(※CrCL15未満は除外基準)
  • CHADS2スコアに関しては層化ランダム割付で揃えられている(両群平均3点)
  • PAFとPeAFが両群とも半々程度
  • 認知症は全体の 16.3%
  • Frail とされる人が全体の41%(※Frailの定義は後述)
  • かつては抗凝固薬を飲んでいた人が43%
  • 「通常のOACのレジメンでは不適となる理由」が具体的にどの項目でinclusion criteria を満たしたかについて,群間差はない(TableS3;appendix)
    ※ Severe renal impairment 40.2% vs 41.7%,Low BW(<45kg) 38.2% vs 37.8%,抗血小板薬内服 52.8% vs 54.7%
《所感》

  • 概ね群間不均衡は少なそうで,背景因子は大体揃っている印象
  • ざっと見て偏りが出てそうな項目を挙げると,過去1年の転倒歴が 31.3% vs 37.8%,Robustな患者が 58.7% vs 51.4% で Frailな患者が 37.6% vs 44.1 %,認知症 14.2% vs 18.3%.
  • 上記は全てエドキサバンに有利に働きうる(エドキサバン群の方がわずかに健康エリート集団になっている)印象ですが,primary outcomeであるところの脳卒中や塞栓症の発症リスクとこれらの項目は直接的に強い関係性はないと思われるので,許容される範囲でしょうか。まあ細かいこと言うと DVT/PE のリスクは差がありそうですが。
  • 個人的には年齢の割に認知症患者が少ないなと思いました。定義次第ですが,「日常生活に差し障る認知機能の低下」はない人が多かったということでしょうか。曲がりなりにも4週間おきにフォローの外来受診しなきゃいけなかったりするので,家族のサポートがあったにしても,それなりの自立度じゃないとこういうRCTへの参加は厳しいでしょうね。
  • つまり Nursing homeとかにいる認知症の方たち(リアルワールドでは外せない層です)は今回の対象にはほぼ含まれていなさそうです。
●本文中のFrailの定義
下記のアンケート項目 or 検査に対してそれぞれ1加点して,
3点以上となる場合をFrailとする
なお0点がRobust, 1–2点がpre-frail と判定される

  • 半年以内に意図せず 2–3kg以上の体重減少があった
  • 直近2週間で,わけもなく疲れた感じがあった
  • 大体週に何日くらい低強度or中強度の運動を行うか➡︎ いずれも運動しないと回答
  • 利き手で握力測定:男性26kg未満,女性18kg未満
  • 5m歩行で1m/sを切る

Table2


NEJM

本論文のメインデータです。

[Primary Efficacy Endpoint]

  • ITT解析で,エドキサバン群では15人(2.3% per patient-year),プラセボ群では44人(6.7% per patient-year)がstrokeないし全身の塞栓イベントをおこした.
  • event-drivenな設計ということで65件のイベントが発生したところで試験終了となっているはずですが,実際上記 Table2では 59イベントとなっている(15 vs 44)
  • clinical efficacy event committee なる人達がイベントと認めなかったものが数件あることによるらしい
  • 途中脱落などの結果が影響した可能性を考慮して, inverse probability of censoring weighted (IPCW) analysis も行ったけど,結果は類似していたよ,とのこと(HR0.38 95%CI 0.21–0.71).
[Secondary Efficacy Endpoints]

  • death from any cause はエドキサバン群で66件,プラセボ群で69件(9.9% per patient-year vs 10.2% per patient-year)と,特に有意差無し(HR0.97 95%CI 0.69–1.36)
  • 他のendpointsも大体 HR1を95%CIが跨いでおり,統計学的有意差はない
[Safety Endpoints]

  • Major bleeding (20 vs 11)に関しては両群で有意差なし
  • Major bleeding はサブグループ解析もしている(FigS4)が,有意差の出るサブグループなし
  • Major bleeding 20 vs 11のうち,頭蓋内出血は 2 vs 4 (0.3 vs 0.6 % per patient-year)
  • 消化管出血は結構増える(14 vs 5).95%CI もまたいでおり,統計学的に有意なリスク
  • Major or clinically relevant non-major bleedingも結構な人数差で,有意差あり.97 vs 62人.
  • fatal なものは 1 vs 2 で有意差無し.
《所感》

  • まず一目見て Primary outcome 以外 p値を列記していないだけで既に「ちゃんとした Table!」と思いました(普段,さして意味のない secondary outcomeの1つ1つに p 値を並べすぎ & 多重検定の補正をしていない論文が多い気がします…)
  • プラセボでも結構出血してるのは,まあこの年齢でこれだけハイリスク群を選んでいれば,そうだろうという感じでしょうか
  • 追跡期間が各患者バラバラなので,いわゆるちゃんとした NNT を暗算で計算することはできません。ただし outcome は % per patient-year で算出されているので,「追跡期間中,常に一定の罹患率(=Figure2Aの傾きが常に一定の直線であったという意味)」で「追跡期間が全患者同等であった」と仮定して計算すれば,一応NNTを推算値で出すことができちゃったりすると思います。
  • 早速計算してみます。 Primary outcomeは 2.3% per patient-yr vs 6.7% per patient-yr であったわけですが,要するに100人に1年投与するとイベント発生は4.4人分の差となるわけですね(常に一定の罹患率かつ同期間の追跡という条件下の仮定です)。このとき ARR=4.4/100。これでNNTを計算してみると 1/0.044 = 22.72 になります(1年単位の推算)。今回の対象となった患者層の方たち23人が1年リクシアナ15mg飲み続ければ,そのうち1人の脳卒中イベントを予防できるだろうということです。実際には追跡期間もバラバラですしそもそも両群とも追跡の打ち切り例が多すぎるなど色々制約があるので,この数字自体にあまり直観的な意味はないかもしれませんが,一応。
  • なお直線に近似するのではなくもう少ししっかり計算すると恐らく
    1/{(1-e-0.067)-(1-e-0.023)}
    という計算が必要になりますが,値としては NNT=23.77 になります.直線近似のざっくり計算結果(NNT=22.72)と大体一緒です。イベントの頻度が高いと両者の差はどんどん開きますが,このくらいの頻度のイベントであれば近似値でも概ね代用可ということでしょうか。(NNT計算に関しては【Clincalc】より)
  • なお同様にmajor bleedingや消化管出血のNNHを近似値で計算するといずれも NNH = 1/0.15 = 66.7(1年追跡とした場合の推算).※前者は統計学的有意差のない項目なので算出する意義は乏しいかも知れませんが,サンプルサイズ不足によるβエラーというだけで,2倍のサンプルでこの trial をやっていたら有意差がついた可能性はあるので注意深くみる必要があるところだと思います。
  • 直線近似しない場合(↓)
    • NNH(major bleeding) = 1/(1-e-0.033-1+e-0.018) = 68.38
    • NNH(GIB) = 1/(1-e-0.023-1+e-0.008) = 67.7
  • 一番イベント数の多かった「Major or clinically relevant non-major bleeding」では NNH = 1/0.07 = 14.3(1年追跡とした場合の推算)となります。
  • 直線近似しない場合(↓)
    • NNH = 1/(1-e-0.177-1+e-0.107) = 16.5
  • 上記の単純計算では「何らか臨床的意義のある出血が起きる」というNNH 14.3 と「脳卒中/塞栓症の予防」のNNT 22.7 で前者の方が起きやすいことになってしまうわけですが,major bleeding の NNH 66.7 や消化管出血の NNH 66.7と比較すれば benefit>risk となります。
  • 実際には全死亡や major bleeding では統計学的な有意差もついていないので,これらの risk と脳卒中予防効果の高い benefit を比較したとき,ある程度許容できるという論調でしょうか。
  • あとは個々のケースで,患者さんたちの narrative と臨床家の narrative をすり合わせて考えていくしかない部分かとは思います。
  • ただ clinically relevant nonmajor bleeding が,実際に定義を見てみると「まあまあな出血イベント」も含まれていそうなので,実際 risk/benefit はやはり慎重に考える必要がありそうです(そうは言っても輸血までは行ってないはずなので,許容内という論旨かもしれませんが)。

Figure2


NEJM

《所感》

  • Figure2AもFigure2Bも,縦軸を普通にとるとイベント発生率がいずれも少ないので,拡大表示されています。
  • Figure2Aが primary endpointの累積罹患率をプロットしたグラフですが,結構最初の1年(4〜12ヶ月あたり)で stroke/塞栓症の罹患率の群間差はグッと広がってる印象があります。
  • その後は概ね並行になっている点に関し,いろいろな可能性が考えられると思いました。例えばイベントが起きる人は割と早期に起きちゃうということかもしれません。脱落例も多いstudyだったので,最初に結構脱落するところが脱落して,イベントが起きる人もばばっと起きて,以降は概ねエリートだけが残って他因子の影響が減り,並行推移になったのかなとも思えます。ただの勝手な推論ですが。
  • Figure 2B は major bleeding の累積罹患率をプロットしたグラフです。割と最初のうちは差がつかず徐々に出血してくるような分布になってますね。見た目上は結構差のある両群の二曲線ですが,結局 p値は0.05を切れていないデータ(この二つの曲線が同じであるという帰無仮説を棄却できていないデータ)なので,実は差がないという可能性もある,だからOK,という論旨になっています。
  • ただしもう少し長い期間追跡できていれば,このまま曲線の差が広がっていき,有意差がついた可能性は十分にあると思います(24ケ月以降のデータがアテにできないグラフになっている点に注意)。
  • スタートラインが87歳なので,まあ3年4年と継続したら90代になってしまいますから,さすがにそこまでの追跡をこの trial に求めるのは酷だとも思いますが…😓
  • ただ,統計学的有意差とサンプルサイズの関係についてはよく考える必要があります。今回のサンプルサイズは primary efficacy outcome を示すためにパワー検定を行なって用意された人数に過ぎず,その他の項目でも有意差を出せるだけの検出力があるかどうかは完全に別問題です。つまり,有意差がつかなかった major bleeding については,単純に検出力不足であった可能性があると考えられます。もう少しだけサンプルサイズが大きければ,検出力が高まって十分に有意差が出た可能性は十分あるでしょう。
  • 穿った見方をすれば,evet-driven で絶妙なタイミングで trial が終わったことで,major bleeding の有意差がつかないところで逃げ切った,とも考えられます。

Figure3

primary endpoint のサブグループ解析ですね。
primary endpoint は大体どの群で見てもエドキサバンbetterに振れています。


NEJM

《所感》

  • ざっと見 95%CIがHR1.0を跨いでしまっている(つまり統計学的に有意にエドキサバンbetterと言えなくなっている)のは
    1. Paf
    2. 過去の脳梗塞/TIA既往
    3. NSAIDsの常用
    4. もともと抗血小板薬内服

    ですね。

  • あとは「過去に出血歴がある患者」もギリギリ95%CIの右端が0.99ですがサンプルサイズが小さくなってエラーバーがガバガバになってるので,微妙なところです。
  • もともとサンプルサイズがさほど大きいstudyではないので,サブ解析にするとさらにサンプルサイズが小さくなってしまいますから,エラーバーがデカくなっちゃってあんまり意義深い議論って難しいですよね。
  • ですからこういう大規模でない study のサブ解析は,専らただの確認と言いますか,シンプソンのパラドックスみたいな現象が起きちゃってないかのチェックくらいで良いのではないかと勝手に思っています
  • つまり「治療群ではなく対照群がbetterに完全に偏ってしまっている(真逆の結果になってしまっている)ようなサブグループが存在しないか確認する」くらいで良いのでは,ということです。ともかく読む側が「読みすぎない」ことが結構大事なのではないかと。まあこの trial のprimary outcome(脳卒中と塞栓症の予防)でプラセボ better になるようなサブグループなんて思いつきませんが(抗がん剤で新規薬と従来薬の比較の優越性試験,とかだと起きうる現象でしょうけれど)。
  • ②と④はおそらく一定数の患者層が被っていそうで,心原性ではない機序の脳梗塞リスクを抗血小板薬等がそれなりに下げていると思われます。脳卒中の予防というアウトカムでは差が出にくくなった可能性が想像できます。
  • ①は何故でしょうかね。PAfもPeAfも塞栓リスクはさほど変わらなかったと思いますが,この辺りまだ諸説ありますしまあこういうこともあるでしょうか。サンプルサイズも小さいので,ここは「読みすぎない」でいいかと。
  • ③もぱっとそれらしい理由は思いつきませんが,なんでNSAIDs常用してるのかという原疾患の部分が結構大事かもしれませんね。いずれにせよサンプルサイズが小さいので,やはり「読みすぎない」でいいかと。ごちゃごちゃ考えても仕方ないと思って割り切ります。

Discussion

本文内容+私見です。詳細はぜひ原著を読んで下さい。

  • 少量とはいえDOACを飲んだ方が脳卒中や塞栓イベントの予防効果は高いという普通に想像通りの結果でした。
  • 出血が増えたのも妥当な結果ですが,Major bleeding の差は not significant なので許容内という論調でした。
    • しかしこれは先述した様に「イベントが少なかったため今回の trial では統計学的有意差を出すだけの検出力がなかった」,つまり βエラー というだけで,現実には差がある可能性は高いと思います。もう少しサンプルサイズが大きければ普通に有意差が出ていたのではないかと。
    • また,個人的には clinically relevant non-major bleeding + major bleeding のイベント数も割と無視できない多さだと感じます。NNHの計算は先述の通り。
    • なお出血の内訳としては,明らかに消化管出血が増えており,PPIなどを内服していたかどうかが気になるところです(appendixを見るに上部消化管と下部消化管が半々くらいだったようですが)。
  • 最も多い死因は心不全や心原性ショック,感染症であって stroke や 全身性の塞栓症ではなかった,ということがここでも強調されていました。
    • まあAfベース+超高齢なんで,元々それなりに心機能は悪い方が多かったんでしょうね。ベースのLVEFとかLADとかその辺のデータは個人的に気になるところですが,特に記載はなさそうでした。
  • 「ガイドラインでは非弁膜症性の Af 患者に対し高齢者であってもDOACの内服を推奨しているが,実際その根拠論文となったものでは患者の年齢はせいぜい 70–73歳あたりが中央値となったデータ」というのがこれまでの問題。
  • そもそもAF患者のボリュームゾーンは実際もっと上(平均的には更に5~10歳上の年齢らしい)。
  • 結局これまで 80歳以上にまで DOAC の内服を一般化していいものか議論の残るところだったわけですが,今回のデータはそこに一つのヒントを与えてくれるものだと思います。
  • 設計として,エドキサバン 15mgを用いたのは,ENGAGE AF-TIMI 48 trial で,15mg 群はWarfarinよりも出血イベントが少なかった一方,strokeイベントの数はあまり変わらなかったというデータがあったからのようです。このデータはただのサブ解析ですし, そもそも 80歳以上は17%しか入ってないtrialの結果ですので,前向きのデータが必要だったわけですね。
  • 現在は適応の問題もあり基本的に 30mg までしか実臨床で使われることはないので,この15mgというのもなかなか面白いところではありました。
  • そもそもこの年齢のこれだけのリスクのある患者では標準治療がないので,(あえてワーファリン等との比較ではなく)プラセボとの比較で組んだ,というのは実臨床に即した英断と思いました(第 3 相試験の原義に立ち返っただけ,とも言えるかも知れませんが)。
  • アスピリンもAf患者の脳塞栓予防には効果が無いことが示されているので,アスピリンとの比較試験にはしなかったそうです(※日本の2006年のstrokeに乗ったtrialと,AHA GLと,PLoS one のシステマティックレビューより).
  • 年間のstroke/塞栓症の発症率は,15mgエドキサバンで 2.3% per patient-yr という結果でしたが,これはENGAGE AF-TIMI 48 trial における80歳以上の患者の 60mg, 30mg, Wf 群と比べほぼ同程度の数値だったようです(本研究では更にハイリスクの患者を選出しているので,15mgエドキサバンの有用性が示唆されるという論調).
  • 年間の出血イベントや脳出血の発症率は,今回 15 mg エドキサバン群で 3.3% と 0.3 % でしたが,これもENGAGE AF-TIMI 48 trial の結果と大体同じくらいだった様です(なお Wfグループの 6.2% と1.6% よりは明らかに少ない)。
  • 先行研究では,mean 81歳のCCrが15–30の患者で15mg CCr50以上の患者の 30mgや60mg内服の血中濃度と同等となることが示されている(Circ J 2015;79:1486–95)らしい。ので,今回腎機能の悪い患者さんを対象にして 15mg で類似した予防効果を示せたことは,先行研究と合致するものと思われます

Limitation

  • ハイリスクな超高齢者を対象にしたため,結構な数(30%!)が途中脱落している
  • しかしフォローアップを lostしてしまった患者はおらず,出血関連の懸念で参加取り下げをした患者は6人だけですよ,と
  • ほとんどの参加取り下げ希望は,出血と関連のない有害事象によるものか,通院困難などの事由(87 歳ですしね…)
  • これらの中断を加味した separate analysis も行っているが,概ね primary analysis と同等の結果
  • 日本人のみを対象とした試験なので,他の人種に拡大解釈は難しい
  • そもそも ENGAGE AF-TIMI 48 trialでは,東アジア人のほうが他人種と比べて脳梗塞も塞栓イベントも出血イベントも多かった(=アジア人というだけでリスク因子の可能性があり,他人種への拡大解釈は注)

全体通しての感想

いやあ、面白いですね。

  • まずトライアルの設計は,現場の疑問に合致していてよかったです。
  • このRCTでは結構出血リスクの高い患者ばかりinclusion criteria で拾っているため「エドキサバン15mgとプラセボの比較」という割り切った設計が良かった。
  • 対象となった患者層は 平均87歳(!)の痩せたり Frail だったり CCr30 みたいな人達なので,臨床家もワーファリンとか入れたりせず無治療という選択を十分とりうるんですよね(DOACはこの腎機能だとそもそもほとんどが選択肢から外れる)。
  • そこで下手にワーファリンだとかアスピリンだとかとの比較にせずプラセボとの比較にした,というのがシンプルで良いと思いました。実臨床に即した内容になっていると思います(もしワーファリンだとかアスピリンとの比較をしたRCTにしていたら,論旨が曖昧になったりしてあまり興味深いデータは出なかったのではないかと)。
  • まあ,そんな出血リスクの高いおじいちゃんおばあちゃんを実験台にするなよ,という批判はあって然るべきだと思います。ただまあ,RCT参加にあたって,よく研究内容はICされているはずなので,未来の医療のためには許容される範囲でしょうか(意見が分かれそうです)。実際重要なデータが得られたとは思います(この層の人たちに抗凝固薬を入れた方がいいのか,控えた方がいいのか,まともな前向きデータはほとんどなかったので)。
  • ただ,大変興味深い RCT とは思いますけど,このデータを見て製薬会社さんの思惑通りにお薬を処方するかどうかは別問題です🌝
  • 問題は,出血リスクの増加をどこまで許容するかという点に尽きると思います。major bleeding は統計学的有意差がありませんでした(ドヤァ)と言う論調ではありましたが,Figure2B 見れば明らかに増えてますし,単純に検出力不足だった可能性が高そうです(先述)。おそらく,もう少しサンプルが多かったり追跡が長ければ,普通に有意差は出ていたことでしょう。つまりリアルワールド(という膨大なサンプルサイズに)に出せば,統計学的有意差を持って major bleeding は増えるはずです。
  • さらに,臨床的意義のある出血イベントに至っては普通にこの小さな trial ですら統計学的有意差がついていて,NNHは efficacy outcomeの NNT を上回ります。
  • こうした risk/benefit の中で,どこまで脳梗塞を本気で予防したいか?というのは,個々の患者背景による部分が大きくなるわけです。つまり患者さん個人の考え方と,医師の判断によるところになります。つまりお医者さんの仕事です。
  • 行動経済学的な話になってきますが,処方時にはどう IC するかもポイントになりそうです。HRで見ると 0.34 と一見立派な数字なわけですが,以下の様にICするとどうでしょう。
  • 「このお薬の元の試験だと,100人の同じ様な患者さんにお薬を1年間飲んでもらうと,1年間で6.7人が脳梗塞になるところを,2.4人まで防げました。ただし,何らか対処を要する出血は,10.7人だったのが,17.7人に増えてしまいました。ちなみに輸血したりするくらいの大出血は,100人中 1.8人だったのが,3.3人に少し増えましたが,これは誤差の範囲とされています。さて,このお薬,飲みたいですか?それとも,やめときますか?」

医療費の問題も

  • リクシアナ15mg は2020年9月現在,1錠224円です
  • この年齢の高齢者は基本,1割負担なので,もし処方するとしたら彼らの脳卒中予防のため毎日200円分くらいは国民の皆さんの納めたお金から捻出されることになります。
  • NNTがざっくり計算で1年追跡の試算で23くらいで,「何らか臨床的意義のある出血」のNNHがざっくり計算1年追跡で16くらいでした。
  • 要するに平均87歳で心房細動持ち(+α で出血素因のある)おじいちゃんおばあちゃん達に,毎日200円(=73000円/年)ずつ国民の皆さんの納めた医療費から投資すると,23人に1人くらいは脳卒中(や塞栓症)を防げる一方,16人に1人くらいはなんらか対応を要する出血を起こすわけですね(あくまでこの研究データに基づく限定的かつザックリとした試算ですが)。
  • 結局出血を起こしてなんらか処置をしたり入院,となるとそれなりの医療費がかかりますし,結局患者さんも体調を崩して寿命を縮めてしまうかもしれません(ベースが87歳なので,1イベントでも結構尾を引く可能性があります)。脳卒中と違って後遺症を残したりするものではないので,許容できるリスクと言う意見もあるかもしれませんが,人によって個別の判断を要するところです。
  • 今回の研究データを基に個々人でrisk/benefitの天秤を考えられる,というのは臨床的に非常に意義深いことですが,日本全体で考える際には「医療経済的にどうか」というのも考えなければならないポイントだと思います(もちろんエドキサバンのゾロが出れば医療費の問題はもう少し解決しますが)
  • サブ解析を見るに,特にNSAIDs常用の患者さんや既にSAPTが入っている患者さんはエドキサバン15mgの優越性が有意差を出せていませんし(もちろんサンプルサイズ不足という問題はあります),こうした背景の方々にはやはり無理に処方しなくても良いだろうと感じます。
  • 結局,このデータをどう解釈してどう用いるかは,完全に narrative based medicine というわけです。
  • 行動経済学的には,以下のいずれのパターンで ICをすると何人が内服を希望するか,気になるところです(そういう試験を組んでみたいくらいに)。
    1. このお薬を飲むと,脳梗塞になるリスクが,飲まない場合と比べて 3分の1にできます!ただ,出血は1.6倍くらいに増えてしまいます。でも輸血とか命に関わる出血は,誤差の範囲の差くらいしかありませんでした。どうでしょう,このお薬,飲みたいですか?それとも,やめときますか?
    2. このお薬の元の試験だと,100人の同じ様な患者さんにお薬を1年間飲んでもらうと,1年間で6.7人が脳梗塞になるところを,2.4人まで防げました。ただし,何らか対処を要する出血は,10.7人だったのが,17.7人に増えてしまいました。ちなみに輸血したりするくらいの大出血は,100人中 1.8人だったのが,3.3人に少し増えましたが,これは誤差の範囲とされています。さて,このお薬,1日220円(自己負担は22円),1年間で 73000円(自己負担7300円)なんですけど,飲みたいですか?それとも,やめときますか?

個人的な期待

  • 本研究の意義深さは,抗凝固薬導入を躊躇するような患者層で一定のデータを示せた,という点に尽きます。
  • 現状この年齢でこの腎機能の高齢者が相手ではDOAC導入は避けられることが多いですし,Wfも「管理がねえ・・」とか言ってなあなあな感じにしてアスピリンがなんとなく入ったり,それすらやめて合掌するか祈祷するかしかないというのが現場の実情でしょうから,データとしては大変興味深いとおもいました(繰り返しになりますが「処方する価値がある」と考えるかは別)。
  • こういう超高齢者対象のRCTみたいなエビデンスは,当面日本でしか出せないものと思われるので,個人的にはドンドン増えてほしいと思います。
  • などと無責任なことをいうと,高齢者を実験台にするな!とお叱りの声を受けそうですが,今後どんどん高齢者ばかりになる日本医療の中で,「データのない手探り診療」をいつまでも続ける,というのもどうかと思いますし,集められるデータはやっぱり集めて欲しいものです。「いや,なにも介入試験で比較しなくても…」という意見もあるかも知れませんが,難しいところですね。ただでさえ hetero な高齢者で後ろ向き研究なんて,もう何もわかりませんから。やっぱり RCT がエビデンスの基本だとは思いますし。
  • まあ,それだけ元気な高齢者が日本には多い,という positive な捉え方もできます。
  • 平均87歳の患者をこれだけ集めてフォローするなんて,その年齢の人たちがそれなりに健康に生きてる日本みたいな稀有な社会でしか絶対に設計し得ないRCTだと思います。
  • 査読者もおったまげたんじゃないでしょうか。87歳でRCTなんてやっぱりJAPANは crazy だぜ HAHAHA ってなったに違いないです(なってないか)。
  • 普通に臨床のデータを集めたりしたところで中国のサンプルサイズにかなう訳がありませんが,こうしたニッチ領域で日本発のエビデンスが世界に発信され続けたら面白いですし,嬉しいですね。
  • 日本は世界最先端を突っ走る超高齢社会なので,こういう「高齢すぎてどうすればいいんだかわからない」みたいな人たちを対象にしたプラセボ比較のRCTって,世界が日本を注視している領域だと思います(実際これだけ大量の脱落者を出しつつも,NEJMという一流誌に掲載されているわけですし)。
  • 今後日本で「超高齢者での前向きエビデンス創出」という流れが来るのか?!という期待を抱かせてくれるという意味では,なかなか胸アツな論文でした(第3相試験の読み方としては,完全に脇道に逸れているわけですが)。

まとめ

  • 平均 87 歳で,認知症はあまりないけど Frail 気味で腎機能も弱め(CrCL 36)だったり過去に出血既往があったりして 通常 dose の OAC を導入しがたい AF 罹患者に
  • エドキサバン 15 mg を導入して 1〜2 年追いかけると
  • 脳卒中は,予防できる(NNT 23)。
  • 出血は,増える(臨床的意義のある出血 NNH 16)。
  • Major bleeding は,今回の trial では有意差なしだが,検出力不足の可能性。
  • この天秤をどう考えるかは,その人次第。

さて,これで薬事承認が通ったら,この薬はどのくらい「売れる」でしょうか。
なかなか適応判断が難しそうな印象です。
ここから先は,narrative-based medicine の世界ですね。

「このお薬の元の試験だと,100人の同じ様な患者さんにお薬を1年間飲んでもらうと,1年間で 6〜7人が脳梗塞になるところを,2〜3 人まで防げました。ただし,何らか対処を要する出血は,11人だったのが,18 人に増えてしまいました。ちなみに輸血したりするくらいの大出血は,1年間で100人中 1.8人だったのが,3.3人に少し増えましたが,これは誤差の範囲とされています。このお薬,1日220円(自己負担は22円),1年間で 73000円(自己負担7300円)なんですけど,飲みたいですか? それとも,やめときますか?」

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