「大混乱」イベルメクチンの 3次情報・4次情報を考える【新型コロナ】

前回の記事で,医療情報を階層に分けて考えることの重要性についてまとめました。

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しかし総論的な内容で少し抽象的になってしまったので,具体的なケースの呈示があったほうがよいと考えました。

そこで,この記事では

3次情報・4次情報がいかに混沌としているか

「COVID-19 に対するイベルメクチン」を1つの例・ケーススタディとして取り上げます。

イベルメクチンに関する3次情報,4次情報はどのようなものがあったでしょうか。順に見ていきたいと思います。

本稿のまとめ
  • 4次情報:ニュースやSNSは,裏取りも甘くカオスそのもの
  • 3次情報:専門家の意見。権威効果・確証バイアスに注意。
この記事は質の低い情報を扱うので,質の高い情報が知りたい方は,各専門団体によるエビデンスの要約・推奨(2次情報)をまとめた別記事を参照ください。また,少し専門性は高くなりますが,原著論文(1次情報)のまとめも別記事で行っています。
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4 次情報

では早速「最も浅い」層の情報を見てみましょう。

便宜上ここでは〈4次情報〉と呼びますが,概ね以下のような情報源のものを指します。

  • ニュース記事・テレビ番組
  • 個人の SNS・ブログ(※非専門家)

この層の情報は最も目につきやすく拡散が早いという特徴がありますが,〈1次情報〉から遠く離れているという重大な欠点があります。そのためしばしば大きく偏っていたり,間違っていたりします。

こうした背景には,センセーショナルな内容の方がアクセスを増ばしやすいという市場原理もあるでしょう。

イベルメクチンに関しても,この層の情報はカオスそのものです。

有効性を過剰に強調する記事

SNS で拡散されていた記事をいくつか取り上げてみたいと思います。

サンデー毎日(2021.7月)

FLCCC が多くの臨床試験をメタ解析したところ,イベルメクチンを予防として投与すれば 85 %,初期治療で 76%,後期治療で 46% に効果があった。致死率の改善も 70% に上ったのだ(6 月 21 日現在)。

本誌独占!ノーベル賞学者・大村智博士が激白45分「予防はワクチン 治療はイベルメクチン」〈サンデー毎日〉| 2021年7月12日 週刊エコノミスト Online

この FLCCC のメタ解析は ivmmeta.com というウェブサイトに公開されていますが,かなり問題のある統計処理と非常に偏った発信をしており,結果を鵜呑みにすることは危険です。

この 85 % や 76 % といった数字は,実際には「どのような患者層で何と比較してどの程度どんなイベントが減少したのか」不明な数字です(後述)。

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読売新聞(2021.8月)

臨床試験を行った結果,イベルメクチンを 2 回投与された人は,新型コロナ感染が 83 % 減少したというのです。論文を発表したのは世界でも第一級の研究グループですから,非常に信頼性が高いものです

「今こそイベルメクチンを使え」東京都医師会の尾崎治夫会長が語ったその効能|読売新聞 2021/08/19 10:55

これもかなり偏った報道です。limitaion の多いインドの単一施設の観察研究を取り上げながら,あたかも「立証された事実」であるかのように記載しており,誤解を招きかねません。

この論文の内容については非医療職の方向けに噛み砕いて解説した記事がありますので,ご一読頂ければ幸いです。

論文の内容解説

話題の?イベルメクチン論文 去る 2021 年 8 月 5 日,インドで行われた「イベルメクチン予防内服の前向き研究」が Cureus という雑誌上で電子公開(Epub) されました。査読済み論文です。 Behera P, Patr[…]

害を過剰に強調する記事

一方,害を強調する記事としては以下のようなものが挙げられます。

KFOR

イベルメクチン過剰摂取の患者でオクラホマの地方病院や救急車は満杯

Patients overdosing on ivermectin backing up rural Oklahoma hospitals, ambulances| KFOR(オクラホマ州のローカルメディア)

この記事を支えているのは,たった1人の地元の医師のインタビュー証言なのですが,特に裏取りをされることもなく伝言ゲームのように報道各社によって伝えられました。

報道各社の追随
Patients Overdosing on Ivermectin Are Clogging Oklahoma ERs: Doctor|Newsweek
Ivermectin: Oklahoma doctor warns against using drug for Covid treatment(イベルメクチン:オクラホマ州の医師がコロナ治療目的の使用に警鐘) | BBC news 2021年9月5日日本語版
※ 他にも Insider(米),THE HILL(米),The Guardian(英)などが同じ内容を報道

伝言ゲームで大ごとに

KFORの元の記事では,まるでオクラホマ州の ER が過剰摂取の人で溢れかえっているかのような印象を与えるものでしたが,実際にはそうではありませんでした。

あまりに騒ぎが大きくなったため,この医師の派遣勤務先の1つの病院が「この医師はここ2ヶ月うちには派遣されていませんが,ウチではそんなケース一例も診療してませんよ」という趣旨のコメントを出しています(意訳です:原文はFacebook)。

これを受け,報道各社の記事が次々に訂正されるといった騒ぎがありました。BBC記事の一番下にも,以下のような注釈があります。

Update 6 September 2021: Since Dr McElyea’s comments were widely reported, a hospital served by the medical staffing group which employs him issued a statement advising that they had not treated any patients due to complications related to taking Ivermectin and our article has been updated to reflect this development.(注:マーカーは筆者)

4次情報はこのレベル

このように〈4次情報〉というのは,発信者がごく基本的な〈1次情報〉の確認すら怠っていることがあります。

驚くべきことですが,読者側が「そういうもの」として向き合っておかなければ,大きな誤解を植え付けられてしまうリスクがあります。

大手メディアですらこの状況ですから,個人の SNS や発信があてにならないことは言うまでもありません。

不適切使用が問題になっているのは事実

なお余談ですが,米国でイベルメクチン不適切使用に伴う副作用の問題が起きていること自体は事実のようです。

以下は米国 CDC のウェブサイトより(訳・マーカーは筆者)。

2021年 1月,米国の poison control centers が受けたイベルメクチン服用に関する問い合わせは,パンデミック前のベースラインと比較し 3 倍となった。イベルメクチンに関する問い合わせは急峻な増加を続け,2021 年 7 月にはベースラインから 5 倍にまで増えた。こうした報告は,増加する副作用や救急科/病院受診頻度の増加とも相関がある。


In 2021, poison control centers across the U.S. received a three-fold increase in the number of calls for human exposures to ivermectin in January 2021 compared to the pre-pandemic baseline.In July 2021, ivermectin calls have continued to sharply increase, to a five-fold increase from baseline. These reports are also associated with increased frequency of adverse effects and emergency department/hospital visits.

同一ページ内には実際の症例として以下が紹介されています(▼)。

  • ウシ用のイベルメクチンを内服して意識障害と幻覚・ふるえをきたした症例
  • インターネット経由で内容量不明のイベルメクチン錠を毎日 5 錠内服して意識障害をきたした症例

こうした問題には同じく米国の FDA も閉口しているようで,以下のような声明を出しています。

Why You Should Not Use Ivermectin to Treat or Prevent COVID-19| FDA

「あなたは馬や牛じゃないんだから(動物用イベルメクチンの内服は)やめてくれ」という tweet は話題になっていたので,ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

3次情報

さて,4次情報は上記のようにカオスの様相ですが,では医師や「専門家」の発信する情報(3次情報)であれば信頼できるでしょうか。

3次情報は専門家の「意見」

近年では SNS の発達により,専門家個人の意見にも直接アクセスすることも容易となっています。実際に twitter などを覗けば,

  • すでに自己判断でイベルメクチンを処方している医師
  • イベルメクチンの有効性を主張する〈1次情報〉ばかり拡散する専門家
  • 個人輸入を煽る識者 (?)

もいる一方で,

  • そうした適応外使用に批判的な医師・専門家
  • 「効かない」とまで言い切る医師・専門家
  • 慎重な立場で情報を吟味し静観している医師・専門家

もいらっしゃることがわかると思います。

個々人の信条や発言の是非,保険診療の問題,といったことは一旦置いておいて,非専門の方々がこの層の情報と向き合う時に重要なことはただ1つ,

盲目的にならないこと

だと思います。

確証バイアスに注意

この層の情報は,医師や専門家が発信することで〈権威効果〉を得ています。それらしい説得力、、、を伴っていることが少なくありません。

しかしそれがフェアな情報発信になっているとは限らず,ポジショントークや COI の影響を受けている可能性があります。その「専門家」は,自説に都合のよい偏った情報ばかりを発信しているかもしれません。

フェアな参照点(2次情報1次情報)に立ち返ることをせず,こうした情報を鵜呑みにしてしまうのは大変危険なことです。

確証バイアスの怖さ

特に問題となるのが〈確証バイアス〉です。

確証バイアスとは,はじめから自分の中で結論が決まっている物事に関し,自説に都合のよい情報だけを収拾してしまうような姿勢のことです。

たとえばイベルメクチンであれば,

  • 「効く」という結論を既に確信しており「効く」ようなデータばかり収集
  • 「効くとは言えない」という論文・データを見ようとしない
  • あるいは執拗に敵視してしまう

といった姿勢がこれにあたります。

もちろん逆パターンもあります(「効かない」「どうせデマ」という確証バイアス)。

いずれにしても,偏った情報源にばかり触れてしまう人は,こうした〈確証バイアスの泥沼〉に囚われてしまうリスクがあります。

自説を支持する情報は簡単に見つかる

今の時代,「情報の質」を問わなければ,自分の確信に合致した主張をする論文や専門家は簡単に見つけることができます。Google 検索をかけるだけですぐに出会えることでしょう。

そうした心地よい情報ばかりを無批判に集め,SNS の閉じたコミュニティなどでさらにどっぷりと浸かってしまうと,どんどん深い確証バイアスの沼に嵌ってしまうことになります(=エコーチェンバー効果)。

一度その状態に陥ってしまうと,他の意見を聞き入れることが益々難しくなってしまい,どんどん深く沼にはまってしまうことが知られています。

健康情報・医学情報を扱う中でこの状態になるというのは,いうまでもなく極めて危険な状態です。

人には見たい情報の見たい部分ばかり見てしまう,という思考のクセがあります。このクセに自覚的にならなければ,リスクの高い意思決定をしてしまう可能性があります。

ivmmeta.com の解析

たとえば,イベルメクチンの有効性を主張する人々がしばしば「海外の研究結果」として引用しているのが,ivmmeta.com というウェブサイトにあるメタ解析です。

これは米国の FLCCC というグループが更新しているものですが,データを少し見るだけでも,極めて不適切な統計処理が行われていることがわかります(後述)。メタ解析論文をきちんと吟味した経験がある人物なら,とても引用しようと思えるようなものではありません。

しかし実際には,このウェブサイトは日本語圏・英語圏を問わず広く引用されています。

何故このようなことが起きてしまうかといえば,

  • 米国の医師のグループ(FLCCC)という名前がもつ権威効果
  • この英語情報を引用している「専門家」自身がもつ権威効果

によって,情報が「それらしく」見えてしまっているからです。

そして情報の受け取り手が,それを無批判に鵜呑みしてしまっているからです。

ivmmeta.com の問題点

ivmmeta.com の問題点は,2021 年 2 月に当ブログでも取り扱っています(旧記事リンク)。

当時の記事は感情が昂りすぎて冗長になってしまっているので要点を述べますと,この解析の問題点は以下の 7 つに集約されます。

ivmmeta.com の問題点
  1. 用法・用量の異なる試験をそのまま統合
  2. コントロール群が異なる試験をそのまま統合(vs プラセボ,vs HIV 薬,vs クロロキンなど,本来統合しようがない試験同士も統合)
  3. 重症度の異なる患者背景の試験をそのまま統合(予防内服,軽症,重症)
  4. 評価アウトカムの異なる試験をそのまま統合(ウイルスPCR陰性化までの日数・症状改善・酸素投与・死亡など)
  5. 主要アウトカムと二次アウトカムの違いも無視してそのまま統合(=自由自在の後付け解析)
  6. 後ろ向き研究と前向き研究もそのまま統合
  7. 極めて少ない参加者数の研究も統合

一言で言ってしまえば,メタ解析の基本ルールである 「統合できる試験同士を統合する」 という原則すら守れていない,ということです(上記 #1-4, 6)。

統合できるはずがない試験の統合

ivmmeta.com のウェブサイト上には(2021 年 8 月)現在,既報の 63 研究を統合(足し算)して

RR 0.33 [0.26-0.41],67% improvement

※ RR: Relative Risk: 相対リスク,[0.26-0.41] は 95% 信頼区間

としている部分があります。しかし上記の 63 研究は,先述したように

  • バラバラな研究デザイン(観察研究も非盲検 RCT も二重盲検 RCT も含む)
  • バラバラな比較対照(プラセボ比較も抗HIV薬比較もクロロキン比較も含む)
  • バラバラな用法・用量

になっているものです。とても直接「合算」できるような均質性の高い研究ではありません。

そのようなものを闇鍋のように「足し算」して解析したところで,イベルメクチンが「何と比較して,どんなイベントを,どのような患者層で 67 % 減らしたのか」不明です。また「どの程度妥当な推定値なのか」も不明です。

上記の 67 % というのは,得体の知れない謎の数字でしかありません。

出版バイアスも無視

また「極めて少ない参加者数(数十人程度)のRCT」や「後ろ向き研究」を吟味なしに統合している(#6-7)のも問題です。

こうした研究は「そもそも結果が芳しくなければ報告されない」という出版バイアス publication bias の影響を強く受けてしまっているからです。

小規模研究ばかり集めてメタ解析をしても,出版・公表に至った「いい感じ」のデータしか統合されません。

当然結果は「いい感じ」に傾きますが,本質的意味のある統合結果とは言えません。

個々の研究の統計的な信頼性が非常に低いため,大規模で良質な RCT で効果が出なければ,まるごとひっくり返る可能性も十分にありえます。

統計リテラシーを疑わせる記述多数

他にも,作者らの統計リテラシーを疑わざるを得ない記載が散見されます。

たとえばこのウェブサイトでは,区間推定値(=95%信頼区間)がガバガバに広がって相対リスク1 をまたぐ(=統計的に有意でない)試験も positive study であるかのように紹介されています(▼)。

上表の All studies では “Percentage of studies reporting positive effects” が 92.1 %と記載されています。区間推定の結果は実際ほとんどが negative study(=統計的有意差を示せていない研究)であるにも関わらず…。

※どうやら統計学的有意差ではなく実数値だけを見て positive か negative かを判断しているようです

また,上表の 5列目は要するに P値 のことですが,それを「1兆分の1(1 in trilion)」などと書いて読者を煽っている(2021年8月時点)あたり,作者らが基本的な統計学を正しく理解していないか,煽りたいだけの確信犯かのいずれかだと感じます。

補足:P値の簡潔な解説動画はコチラ

バイアスリスクも無視

加えて,そもそも統合されている試験自体の質が低すぎる,という問題もあります(詳細は別頁)。いわゆる Garbage in, Garbage out の状況です(▼)。

garbage in, garbage out

これは,あらゆる研究結果を無批判に受け入れていることに起因しています。

通常〈メタ解析 MA〉の前には〈システマティックレビュー SR〉という「情報の吟味」のプロセスが求められます(▼)。

これによって,メタ解析は Garbage in, garbage out にならずに済むわけです(▼)。

システマティックレビューのプロセスこそが重要

しかしこのウェブサイトでは上記の〈システマティックレビュー〉の過程がありません。あらゆる研究結果をそのまま何も考えず足し算してしまっています。

バイアスだらけの低質な RCT も,その結果をまるごと鵜呑みにして足し算しているのです。

そのため結局

こんなにたくさん有効性、、、を示している研究があります!

という以上の情報になっていないというのが現状です。

そしてその「有効性、、、」の定義は各研究でそれぞれ全く異なります。それらの結果の足し算、、、を見て「XX%も効果がある!」という引用をすべきではありません。

他にも色々…

ivmmeta.com に関しては他にも色々と言いたいことがありますが,これ以上は少し専門的な話も増えてしまうため,この記事では割愛します。ご興味のある方は私の過去の記事をご覧ください。

また,疫学家の st先生(@styh131582)が note(▼)にわかりやすくまとめられています。よろしければそちらもぜひご一読ください。

note(ノート)

前回の記事でhttps://ivmmeta.com/のメタ解析の問題点について、観察研究とRCTを統合していることなどの…

st 先生の記事は理路整然とされていて,大変読みやすいです。私の記事は冗長すぎたので正直反省しています(今となっては書き直す気力もありませんが…)。

※ いずれの記事も 2021年 2〜3 月時点の ivmmeta.com の内容について記載したものです。現在 8 月時点では ivmmeta.com の内容が更新されているためご留意ください。

医師も確証バイアス

こうした数多くの問題があるにもかかわらず,FLCCC の ivmmeta.com がさかんに引用されてしまうのは,単にリテラシーの問題だけではなく前述した〈確証バイアス〉の影響があるものと考えられます。

つまり「イベルメクチンは効く」という情報のみを偏って拡散するコミュニティの中で,特に拡散されやすいということです。

大抵の場合,そうしたエコーチェンバーの中心には偏った発信をする医師や「専門家」がいて,このウェブサイトを「信頼性が高い」などと言って引用しています。

冒頭でご紹介したサンデー毎日の記事でも,あたかも信頼性が高い情報源であるかのような紹介のされ方をされています。

本誌独占!ノーベル賞学者・大村智博士が激白45分「予防はワクチン 治療はイベルメクチン」〈サンデー毎日〉| 2021年7月12日 週刊エコノミスト Online

専門家がフェアとは限らない

そうした「専門家」が全員,論文を批判的に吟味するトレーニングを受けているとは限りませんし,受けていたとしてもフェアな視点でデータを吟味しているとは限りません。

また,「専門家」だからと言って確証バイアスに陥らないとは限らず,むしろ「専門家」だからこそ退けなくなってしまうようなケースもあるでしょう。

ivmmeta.com のような極めて問題のあるデータを引用する一方で,JAMAの「有効性を示せなかった二重盲検 RCT(EPIC)」に対しては鋭い批判を繰り広げるような「専門家」もいます。

JAMA 掲載の RCT が問題だらけなのは事実解説記事なのですが,ivmmeta.com が統合している小規模 RCT の方が遥かに深刻なバイアスリスクを抱えています。

JAMAの論文ばかりを批判するような態度はダブルスタンダードであり,批判的吟味の仕方に一貫性を感じられません。まさに都合のよい情報ばかりを取捨選択する〈確証バイアス〉ではないでしょうか。

一度そういう凝り固まった状態になってしまうと,プロであっても中々脱するのが難しいのかもしれません。私自身,自戒として本当に気をつけたいと思っています。

やはり誰にとっても重要なことはシンプルで,

盲目的にならないこと

が大切な姿勢だと思います。

実際には,現時点(2021年8月)でイベルメクチンの有効性については非常に質が低いエビデンスしかなく,益があるか害が勝るかは極めて不確定的です。加えて,そもそも適切な用法・用量すら十分に検討されていないため,各研究でバラバラな用法・用量となっているのが実情です。詳細はイベルメクチン2次情報まとめ1次情報まとめをご覧ください。

まとめ

今回は以上です。この記事では,イベルメクチンに関して

  • 裏取り不十分なニュース記事(4次情報)
  • 不適切な統計解析 ivmmeta.com を拡散する専門家(3次情報)

の問題について実例ベースでご紹介しました。

一定の距離を置いて向き合わなければ危険である,ということを少しでもお伝えできたのであれば幸いです。

偏った情報に傾倒しないために

では,医療のプロでない人たちがこうした偏った発信に囚われてしまわないためにはどうしたらよいのでしょうか。 

端的には,以下の手段を適宜あわせて用いるのがよいのではと思います(▼)。

偏った情報に傾倒しないための工夫
  • 引用元の〈1次情報〉を自分の目で確認する
  • 信頼性の高い〈2次情報〉の立場を確認する(WHO,コクラン,学会 etc)
  • 〈3次情報〉は個人ではなくクラスターをフォローする
    • Twitter のリスト機能など

適切な参照点を持つこと,そして常に情報源を確認することがポイントです。

これまでの〈2次情報〉──専門家集団による既報の統合および推奨──がどうなっているかに関しては,別記事にまとめました。

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この記事では,COVID-19 に対するイベルメクチンの適応について,2021 年 8 月 時点で筆者が確認できた〈2次文献〉や〈推奨〉を列記していきます。 ※ 関連記事として以下もご参照ください。 医学情報を階層別に分けて取り扱うこ[…]

1次情報についても簡潔ですがまとめています。

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この記事では,2021 年 8 月時点のイベルメクチン〈1次情報〉について,目星い報告を簡潔にまとめます。 「イベルメクチン効くかも仮説」はどのように提唱されてきたのか,そしてその仮説の検証は「どこまで来ているのか」。辿ってきたエビデンス[…]

いずれも合わせてご確認いただければ幸いです。

[おすすめ本紹介]

Users’ Guides to the Medical Literature


タイトル通り「医学論文を現場でどう応用するか?」迷える臨床家のためのユーザーズガイド。Tips 集のような構成で,どこからでもつまみ読みできます(通読向きではない)。医学論文の批判的吟味を学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶならコレ,という極めて網羅性の高い一冊です。著者 Gordon Guyatt 氏は “EBM” という言葉を作った張本人。分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


表紙が全然違いますが「Users’ Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版。医学文献を批判的吟味するためのTips集としてかなりの網羅性を誇る代表的な一冊です。唯一の欠点は Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。鈍器としても使えます

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