イベルメクチンの1次情報・エビデンスまとめ|試験管実験 〜 RCTまで【新型コロナ】

この記事では,2021 年 8 月時点のイベルメクチン〈1次情報〉について,目星い報告を簡潔にまとめます。

「イベルメクチン効くかも仮説」はどのように提唱されてきたのか,そしてその仮説の検証は「どこまで来ているのか」。辿ってきたエビデンス構築の道筋にフォーカスを当ててみたいと思います。

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イベルメクチンの1次情報は?

結論から述べます。

現在イベルメクチンに関して存在する1次情報について端的に総括すると,以下のようになります(▼)。

イベルメクチン1次情報の総括

  • 試験管内実験レベル:高濃度でウイルス増殖抑制作用あり
  • 観察研究:ヒトで有効性があるという仮説を「提唱」するものが多数
    • 出版バイアスや cherry picking (*) の可能性
  • ランダム化比較試験 RCT
    • 検証的 RCT :単独で有意差を示したものは存在しない(2021.8月)
    • 小規模や非盲検試験:有効性を「提唱」するものが複数
    • 製薬会社のモチベーションがなく大型治験が行われにくい問題あり
* cherry picking:複数の統計モデルで解析し「有意差」が出た検定結果ばかり取り上げること

順に見ていきましょう。

試験管内実験レベル

どのような新薬のエビデンスも,最初は試験管実験や動物実験から始まります。「イベルメクチン効くかも仮説」も,この試験管内実験から始まっていきました。

実際,試験管内実験(in-vitro)では,高濃度のイベルメクチンが SARS-Cov-2 増殖を抑制することが報告されています。

しかし問題は,抗ウイルス活性を示したときの試験管内濃度が,疥癬などで承認されている用法・用量で到達できる生体内濃度を遥かに上回るものだったということです。

当然ながら,

ヒトの生体内で安全にこの濃度まで持っていけるのか?
そのときの risk/benefit バランスは取れているのか?

という議論が別途必要になります。

以降,人を対象とした研究が順次行われていきました。

観察研究

まず多く行われたのが〈観察研究〉です。

低コストで敷居が低く,比較的簡単にできる〈観察研究〉は,ヒト対象研究で最もよく施行される研究デザインです。

イベルメクチンに関しても,今日にいたるまで無数の報告が山積しています。そしてその多くは「効果がありそう」という仮説を提唱、、するものです。

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観察研究の重大な欠点

しかし,観察研究の結果は額面通りに受け取れないという問題があります。何故なら,あらゆる「観察研究」には以下のようなバイアスリスクが付き纏うからです(▼)。

観察研究の限界

  • 盲検化されない
  • プラセボ比較ができない
  • リスク因子・背景因子が揃っていない(要因曝露群 vs 比較対照)
  • 解析手法が事前開示されない(後出しジャンケンし放題)

これらは観察研究というデザインに伴う不回避の限界です。

特に後方視的な研究は「自説に都合のよい結果が統計的に示せた場合のみ報告・出版される」という出版バイアスの影響を大きく受けてしまいます(▼)。

出版バイアス

また,統計的な補正モデルも「ちょうどいい感じに有意差が出る」ように何度も微調整、、、されてしまっている可能性があります(overfittingや,広義の cherry-pickingの問題)。

仮説提唱としての観察研究

こうした問題があるため,観察研究は基本的に〈仮説生成、、〉や〈探索、、〉・〈提唱、、〉のための研究,という扱いです。

つまりそこで何か〈統計的に有意〉な結果が得られたとしても,エラーやバイアスの可能性が高いため,信頼性が高い〈仮説検証〉としては扱われないのです。

本当に意味があるのか?

については,改めて質の高い RCT を施行し〈検証〉する必要があります(後述)。

いかに観察研究で有効性が主張されても,原則的には現場の診療を変えることはありません。

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話題になった2論文

上記を踏まえ,ここでは本邦で話題になった2つの論文についてピックアップするに留めます。

  1. Cureus. 2021(インド)
  2. Chest. 2021(アメリカ)

Cureus の論文(インド)

1つ目にご紹介するのは,比較的最近 Cureus. という雑誌に掲載されたインドの観察研究です。

インドの単一施設(大学病院)の医療従事者がイベルメクチンを予防内服しながら診療に当たった場合と,そうでない場合の感染予防効果を「観察」した研究です。

Behera P, Patro B K, Padhy B M, et al. (August 05, 2021) Prophylactic Role of Ivermectin in Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Infection Among Healthcare Workers. |Cureus 13(8): e16897. doi:10.7759/cureus.16897

この論文は読売新聞の記事で「非常に信頼性が高い」ものとして取り上げられており,一時期,日本の狭い界隈では取り沙汰されていました(▼)。

「今こそイベルメクチンを使え」東京都医師会の尾崎治夫会長が語ったその効能|2021/08/19 10:55 @読売新聞(馬場錬成氏 著)

本当にそのような紹介をしてしまっていい論文なのかは疑問ですが,仮にも大手新聞紙で取り上げられている研究ですから,報道姿勢を批判するにしても十分な説明をおこなう責務があると考え解説記事を作成しました(▼)。

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上記記事は,背景知識があまりなくてもお読みいただけるように注釈を多く加えています。その上で「どう受け取るべきか」については,読者の皆様にご判断いただければ幸いです。
|業界での注目度は低い
なお掲載雑誌の Cureus. は(現在)いわゆるマイナー誌であり,業界での注目度はあまり高いものとは言えません。雑誌名で論文の質を決めつけるヒューリスティックは望ましいものではありませんが,ジャンク論文が多すぎる現在,そうしたふるいわけを行っている医師は少なくないでしょう。正直やむを得ないとは思います。実際,医療者が取り上げた記事も,私が作成したもの以外見かけたことがありません。

Chest の論文(米国)

もう1つご紹介したいのは,Chest. に掲載された論文です。呼吸器系の有名ジャーナルであるため,掲載直後はニュースなどでも取り沙汰されていました。

Use of Ivermectin Is Associated With Lower Mortality in Hospitalized Patients With Coronavirus Disease 2019: The Ivermectin in COVID Nineteen Study|Chest
. 2021 Jan;159(1):85-92

解析対象となった症例は 280 例。COVID-19 の実態がまだ掴めていなかった 2020 年 3月15日〜5月11日に重症化した患者さんたち(@アメリカ)です。

目の前に重症患者さんがいるのに,検証済みの治療法は全くない ── そんな時期に,現場の医師たちが(合意のもと)いちかばちか、、、、、、のカクテル療法と称していろんな薬を投与していた時期の結果を,後方視的に解析した論文です。

参加者の 8 割以上が クロロキンやアジスロマイシン治療を受けており,そこに加えてイベルメクチンまで入れられた 173 例と,イベルメクチンは入れられなかった 103 例の転帰を比較しています。

要するに多剤併用の中にイベルメクチンが入っていたか,入っていなかったかで転帰を比較したということです。結果は,イベルメクチンまで、、入れられていた方が予後は良い,というものでした。

重大な交絡因子

ただ問題なのは,実際にはイベルメクチンまで、、投与された人たちの方が,ステロイドも投与される傾向にあった(イベルメクチン群 39.8 % vs 非イベルメクチン群 19.6 %)ということです。

ステロイドはその後の大規模試験でも有効性を検証、、され結果を出した確かな治療法ですから,その投与を受けた人の割合に倍近い差があるというのは重大な交絡因子です。

一応,論文著者らは多変量解析(ロジスティック回帰)や Propensity score match でなるべく背景因子を揃えて解析し,それでも有意差を示しています(死亡 13.3% vs 24.5%;オッズ比 0.47;95% 信頼区間 0.22-0.99)。

年齢・性別・併存疾患(糖尿病,肺疾患,心血管疾患,高血圧)・喫煙歴・入院時の挿管の有無・白血球数・リンパ球数などに加えステロイドなども後付け、、、で「数学的、、、に揃えて」います。

しかしこうした後方視的なデータ補正には恣意性が紛れ込みやすく,バイアスリスクは高いものと考えられます。たとえば上記モデルから「リンパ球数での補正を除く」など,別の補正モデルを適応すると有意差にならない可能性もあります(※ 上記の信頼区間の右端は 0.99)。

注)データの詳細が公表されていないため別の研究者が追加解析をすることはできません。

後付け解析の限界

多変量解析はランダム化ほど便利に背景因子を揃えてくれるわけではありません。補正には限界があります。

重要なのはあくまで「現実におこなわれたこと」です。

結局,この研究は多剤カクテル療法の一環としてイベルメクチンが入ったり入らなかったりした集団を解析しています。しかし「現在本邦にそのような治療を受けている患者集団は実在しない」という重大な limitation があります。

※ 現在「使用すべきでない」という扱いになっているクロロキンが参加者の 90 % 以上で使用されている一方,ステロイドの使用割合には大きな差がある,など。

観察研究は無数にある

他にもイベルメクチンの観察研究は無数にありますが,小規模かつバイアスリスクの高い観察研究がいくつ集まろうが「早く検証、、しましょうよ」という話にしかなりません。

仮説の検証、、のためには,やはり良質なランダム化比較試験 RCT が必要となります。

ランダム化比較試験

しかし実は,2021 年 8 月現在,イベルメクチンの効果を示した質の高い「検証的、、、」 なランダム化比較試験はほとんどないというのが現実です。

検証、、的」というのは,

  1. あらかじめ検証する「1つの仮説」を開示
  2. 採用する統計手法も含め,研究プロトコルを開示
  3. 必要十分なサンプルサイズを計算(検出力分析 power analysis
  4. 公的データベースにそれらを事前公開
  5. 参加者をリクルート
  6. データを集め「本当に"差"があるか?」1回のみ仮説検定を行う

といった「厳密なプロセス」を踏んだ試験であることを指します。

逆に,上記プロセスを経なかった RCT の結果は,同じ RCT だとしても結果の信頼性を落とし,観察研究同様の扱いとなります。

つまり仮説〈生成〉や〈探索〉・〈提唱〉にしかなりません。

「後付け解析」で “有意” と示されたものや,サンプルサイズ不十分な研究結果は,バイアスやエラーを多く含んでしまうからです(▼)。

※詳細は別記事。また,この問題を本質的に理解するためには,αエラー・βエラー・多重検定の問題・power 分析などの用語理解が必須となります。

現在までの検証的 RCT

軽症外来患者を対象に行った検証的、、、な二重盲検以上のランダム化比較試験としては,2021 年 8 月現在,以下の2つが挙げられます。

  1. EPIC trial (JAMA) n=398
  2. IVERCOR-COVID19 trial(BMC Infectious Diseases) n=501
|試験内容の補足
  • EPIC:2020 年 7 月頃〜のコロンビアの試験。途中でプラセボのラベルを貼り間違えるなど,大きな手違いあり。初の査読済み〈検証的 RCT〉ということで JAMA に掲載されたが,中身は色々と杜撰(解説記事あり)。
  • IVERCOR-COVID19: 2020 年 8 月頃〜の アルゼンチンの試験。主要アウトカムの「入院」割合は実数値としてイベルメクチン群で低い傾向(14/250 vs 21/250)であったが,僅差であり〈統計的有意差〉とはならず(サンプルサイズ不足の可能性)。また,人工呼吸器導入や死亡も有意差なし。誤差範囲だが,実数としてはむしろイベルメクチン群の方が悪い(4/250 vs 3/250)。

この2件は,他の RCT(非盲検やサンプルサイズ2桁程度の極小規模)と比べ統計的信頼性が高いデザインとなっています。なにより,きちんとした査読済み論文です。

ただ,いずれもプラセボと比べて統計的に有意な有効性を示すことはできていません。

つまり軽症・低リスク群を治療対象にした場合,400 – 500 人規模の試験でも「プラセボ(偽薬)と比べ誤差で説明できる程度の差しかつかなかった」ということです。

しかし誤解してはならないのは,これは「効かないことが示された」という意味ではない,ということです(※)。

本来,ハイリスクな人こそ治療によって「重症化を防ぐ」という benefit が得られやすいので,そういう人を対象にした良質な二重盲検ランダム化比較試験が望まれます。

(※)統計的有意差がない,という言葉の意味は,「『プラセボと差がない』という帰無仮説を棄却できなかった、、、、、、、、、、、、、」ということです。「本当に(母集団で)差がない」ということを立証したわけではありません。「今回の標本データからは,母集団で効くとは言えなかった」という意味です(標本・母集団という言葉の解説動画はコチラ)。

「魔法の薬」である可能性は低い

なお 400 〜 500人規模の〈検証的 RCT〉で有意差が検出できないということは,少なくとも軽症外来患者さんに対して「劇的に効く薬」「魔法の薬」でない可能性が高いと思われます。

ひとまず ivmmeta.com(FLCCC)が声高に喧伝する「イベルメクチン未承認のせいで多くの人が無駄に亡くなっている!」という様な状況ではないでしょう。

そもそもほとんどの若年〜中年は重症化しないので,そうした患者層の外来治療というセッティングで RCT を組んでも「意味のある差を出す」こと自体が難しいのです。

※ 上記の2つの検証的 RCT でも,プラセボ群・イベルメクチン群ともに,人工呼吸管理や死亡イベントはほとんど無い(=差がつきようがない)

高齢者などイベントが起きやすい(重症化リスクが高い)患者層に絞って検証するか,上記の数倍規模の RCT を施行できれば,効果があるのかないのか,よりハッキリしてくるでしょう。

イベルメクチンの開発元であるメルク社が現在取り組んでいる外来 COVID-19 患者を対象としたモルヌピラビルの第 II/III 相試験(NCT04575597)では,1850人の被験者集めを目標としています。イベルメクチンでも単発の検証的 RCT で有意差を出そうとするのであれば,この程度のサンプルサイズは必要かもしれません。

検証的でない RCT

いや,そんなはずはない!
もっと効果を示している RCT がたくさんあったはずだ!

── という意見もあるかもしれません。

確かに,非盲検や小規模のサンプルサイズ(数十例規模)まで許容すれば,より多くの RCT が施行されているのは事実です。統計的に有意ではありませんが,単独で極端なデータを示している RCT も実在します。

しかし繰り返しになりますが,そうした試験はあくまで探索、、的なものに過ぎないのです。本当にプラセボよりも意味がある薬なのか?という検証、、にはなりません。

非盲検試験はバイアスリスクが高く,小規模試験は少数ケースに平均が引っ張られて極端なデータが得られやすいという問題があります。

また,小規模試験は事前にプロトコルが公開されていないことも多く,出版バイアスや後付け解析の影響も受けます(*)。

(*) いっぽう,検証的な試験は,きちんと事前にプロトコルが公開されます(それが検証的試験としての必要条件の1つ)。先述の EPIC trial も IVERCOR-COVID19 も, clinical trials.gov データベースに登録されています。

数十例規模の RCT で「若干数字が良かった(ただし統計的に有意な差ではない)」,というデータがいくつ集まったところで,科学的に信頼性が高いエビデンスとはなりません。

当ブログでも以前,こうした小規模 RCT を個別に吟味したことがありますが(注:2月時点),とても患者さんに投与しようと思えるようなデータではありませんでした(私見です ▼)。

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メタ解析よりもシステマティックレビューが重要

現在こうしたバイアスだらけの小規模試験や非盲検試験を統合した〈メタ解析〉がネット上で拡散されていることには大きな懸念を抱いています(ivmmeta.com)。

「効果が良い方向バイアスされた」研究を統合しても,バイアスの塊しかできません。

ただ既報の数字を鵜呑みにして「足し算」しているだけの〈メタ解析単体〉に,科学的価値はほとんどありません(▼)。

GIGO

研究の質をきちんと系統立てて評価し,統合する価値のある良質で均質な研究を抽出してくるプロセスこそが重要です(=システマティックレビュー ▼)。

高い質の研究をレビューした上でメタ解析すれば non-GIGO

現在の二次文献は?

ivmmeta.com のような低質なものを見ずとも,イベルメクチンの RCT に関してはシステマティックレビュー & メタ解析(SR & MA)の査読済み論文が複数あります。

また,そうした統合結果を元に,各プロ集団(*)もイベルメクチンの使用に関して提言を行なっています。

※ それらを〈2次情報〉や〈2次文献〉と呼びます。
  • 良質な SR & MA では,どの様な結論となっているか?
  • 各プロ集団では,どのような扱いになっているのか?

詳細は別頁にまとめておりますので,そちらも併せてご確認いただければ幸いです。

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* 各プロ集団:WHO,米国 CDC,米国 NIH,欧州医薬品局 EMA,米国感染症学会 IDSA ,本邦厚労省 など

なぜ検証的 RCT は少ないのか?

ところで,

イベルメクチンの検証的 RCT はなぜ未だにこんなに少ないのか?早くシロクロはっきりさせたらどうなのか?

という疑問は当然湧いて出るものと思われます。誰だってそう思います。私もそう思います。

COVID-19 のアウトブレークからすでに2年近く経ち,多くの治療薬が開発途上にある中,イベルメクチンはいまだに検証不十分です。

このような状況で膠着している理由は複数あるとおもわれますが,特に大きなネックとなるのが,検証的 RCT を施行するために必要な膨大なコストをどこから調達するか?という問題です。

製薬会社に利益がない

イベルメクチンはすでに「特許切れ」した古い薬剤です。

開発元のメルク社は既にイベルメクチンの生成・販売に関して独占権を失っており,世界中どこでも安価な後発医薬品が出回っています。そのため身銭を切って検証的 RCT を組んだとしても,投資に見合うような利益は見込めません。

いっぽう,メルク社は現在,モルヌピラビルという本命新薬の治験を進めており,既に 1850 例規模を目指した第 III 相試験(≒ 検証的 RCT )まで進んでいます。もしこの第 III 相試験でプラセボ比較で有意な効能を示すことができれば,メルク社はモルヌピラビルは独占的に販売することができます。先行投資に見合う利益が見込まれるため,コストをかけて RCT を施行するというわけです。

陰謀論的な枠組みで語られることが多い問題ですが,製薬という公益性の高いものを「資本主義」の枠組みの中におさめて話を進めている以上,やむを得ないことかもしれません。

資本主義だからこそ競争を煽れるという利点もあるため,難しい問題です。

こういうところにこそ「公費をしっかり投じて検証、、する枠組み」の整備が重要だと感じます。

医師主導治験をサポートする仕組みはありますが,数千人規模の大規模 RCT は金銭的コストのみならず人的コストも膨大であり,製薬会社主導治験より遥かにハードルが高いというのが実情です。制度的にも,金銭補助的にも,まだまだサポート不足と感じます。

総括

今回は以上です。

イベルメクチン1次情報の総括

  • 試験管内実験レベル:高濃度でウイルス増殖抑制作用あり
  • 観察研究:ヒトで有効性があるという仮説を「提唱」するものが多数
    • 出版バイアスや cherry picking の可能性
  • ランダム化比較試験 RCT
    • 検証的 RCT :単独で有意差を示したものは存在しない(2021.8月)
    • 小規模や非盲検試験:有効性を「提唱」するものが複数
    • 製薬会社のモチベーションがなく大型治験が行われにくい問題あり

結局,良質なデータが少なすぎるため,安易に「効く」「効かない」と結論できる状況ではありません。また,仮に効くとしても最適な「用法・用量」すらコンセンサスが得られていない状況です。

私個人としては効いて欲しい(というか早く治療薬が増えて欲しい)と思っていますが,残念ながら処方根拠とできるような良質なデータがありません(2021.8月)。

プロ集団の〈推奨〉も,全て「良質な RCT が出るまで控えるべき」という慎重なものになっています(▼)。

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その様な状況で,正しい用量かも怪しい海外のイベルメクチンを安易に自己輸入し内服するような行為は,果たしてリスクに見合った利益をもたらしてくれるでしょうか。

※ 疥癬への治療で承認されている安全性の高い用法・用量でも,日本の治験では 50例中8例に採血上の肝機能異常など少なからぬ有害事象が報告されています(薬剤添付文書より

その様な大冒険をするくらいなら,きちんとルールに沿って施行される治験(ランダム化比較試験)への参加を検討されたほうが良いかもしれません。

イベルメクチンも現在本邦で治験が進められています。治験参加者はきちんとフォローアップを受けることができるため,そういう意味でも自己責任の輸入内服よりは低リスクです。

治験等の情報について|厚生労働省

この記事を介し,冷静に〈1次文献〉と向き合うことの重要性を少しでもお伝えできたとしたら幸いです。

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[おすすめ本紹介]

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