イベルメクチン「業界での扱い」は?|2次文献まとめ【新型コロナ】

この記事では,COVID-19 に対するイベルメクチンの適応について,2021 年 8 月 時点で筆者が確認できた〈2次文献〉や〈推奨〉を列記していきます。

※ 関連記事として以下もご参照ください。

  • 医学情報を階層別に分けて取り扱うことの重要性|別頁
  • イベルメクチンの 3 次情報・4 次情報の例|別頁
  • イベルメクチンの 1 次情報 まとめ|別頁
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この記事では,2021 年 8 月時点のイベルメクチン〈1次情報〉について,目星い報告を簡潔にまとめます。 「イベルメクチン効くかも仮説」はどのように提唱されてきたのか,そしてその仮説の検証は「どこまで来ているのか」。辿ってきたエビデンス[…]

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イベルメクチンの2次情報

〈2次情報〉というのは,専門家集団が〈1次情報〉を系統的にレビューして統合したり,推奨を示したりしたものを指します(▼)。2次文献とも呼びます。

2次文献の例
  • システマティックレビュー & メタ解析
  • WHO,CDC,学会,各国専門機関などによる統合と推奨
2次情報は専門家集団による統合と解析
注)上図の3次情報,4次情報は筆者による便宜上の分類であり,公的な用語ではありません

2次文献にも限界はありますが,多くの専門家の目にも触れる情報であるため,合理的でバランスの取れた発信になっていることがほとんどです。

2次文献を窓口に

もちろん2次文献も完璧ではなく,偏っていたり誤っていたりしている場合もあります。

しかし専門家の個人的意見やニュース・ゴシップ・SNSといった浅い情報源(3次情報・4次情報)よりバイアスリスクが低いことは確かです。

とくに〈1次文献〉を自ら吟味するノウハウを心得ていない非専門の方は,まずこの〈2次文献〉を確認するのが安全策です。そしてその場合も,複数の団体の推奨を確認するのがよいと考えられます。

|専門職にとっても入口
また専門職であっても,まずはこういった「ふるいわけされた情報源」から入って〈1次情報〉の吟味に移っていくことがほとんどです。その方が無数にある〈1次情報〉の海に直接潜るより時間効率が高いからです。

この記事で確認する情報源

というわけで,以下ではまずイベルメクチンについて

  • 査読済みシステマティックレビュー & メタ解析(SR & MA)
  • コクランレビュー

をみた上で,

  • WHO
  • 米国 CDC
  • 米国 FDA
  • 欧州 EMA
  • 米国感染症学会 IDSA
  • UpToDate®︎
  • 診療の手引き(本邦,厚労省)

などのポジションを列記していきます。

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最初に総括

最初に結論を述べてしまうと,どの団体も

検証的なデータに乏しく,益も害もよく分からない。

という発信をしています。

ただこれだけでは味気ないので,以下では個別に各団体の文章を引用・和訳してまとめていきます。

ナルホドこういう団体の推奨を見ればいいんだな〜🤔

という具合にあっさり流し読んでいただければ幸いです。

|ivmmeta.com は?
なおしばしば話題となる ivmmeta.com は一応,FLCCC(front line covid-19 critical care alliance:COVID-19 最前線治療連盟) という複数医師で構成されるグループが行っています。その点で「専門家集団」が提供する情報とも言えますが,統計的手法の明確な誤用や偏りが大きく(システマティックレビューや GRADE アプローチを行っていない),情報としては悪質なものです。そのため〈3次情報〉の1つとして扱わせていただき,本稿では扱いません。3次情報を解説した前回記事で詳細に解説していますので,ご確認いただければ幸いです。

イベルメクチンの系統的レビュー

では早速,システマティックレビュー & メタ解析(▼)の既報から見てみましょう。

査読済 SR & MA

現在出版されているシステマティックレビュー & メタ解析(SR & MA)としては,まず以下の4本が挙げられます。

  1. Kow CS et al. Pharmacol Rep. (2021 Mar 29) |PMID: 33779964
  2. Bryant A et al. Am J Ther. (2021 Jun 21) |PMID: 34145166
  3. Roman YM et al. Clin Infec Dis. (2021 Jun 28) |PMID: 34181746
  4. Hill A et al. Open Forum Infec Dis. (2021 Jul 6→撤回) |PMCID: 8420640

これらの研究の結論は二分しています。

Roman らの Clin Infec Dis. 掲載論文(③)では

プラセボや通常ケアのみに比べて,イベルメクチンの内服による治療効果は 統計学的有意差なし

と結論しています。

しかし他のメタ解析(①②④)は全て

比較対照群(*)と比べて統計的有意差あり

(*) 比較対照はプラセボ・通常ケア SOC,クロロキン,抗 HIV 薬 etc.. ごった煮

と結んでいます。

この違いは「どの研究を組み入れて足し算、、、するか」によって生じたものです。

|統計的有意差と臨床的意味
なお非常に誤解されやすい点ですが,統計的、、、有意差の有無は「臨床的、、、意味」があるかどうかとは全く無関係です。統計的有意差は,サンプルサイズや試験デザインに大きく影響を受ける概念です。「有意差あり」とはつまり,効果量がどの程度かということは置いておいて,プラセボよりは何らかの形で効く薬である可能性が高い,ということを言っているに過ぎません。臨床的、、、意味のある差とは限りません。効果量 effect size については別途確認が必要です。|【有意差に関するわかりやすい動画リンク】

メタ解析は統合する研究次第

複数ある SR & MA で上記のように結論が変わってしまうのは,つまり以下のような状況だということです。

ある研究 A を組み入れたメタ解析にしたら「イベルメクチンの効果は統計的に有意」という結論になるが,その研究を除いたら「有意」にはならない

これは裏を返せば「どの RCT 結果をどう組み入れるかで,簡単に結論が変わってしまう」ほどブレ幅、、、が大きく信頼性の低いエビデンスしか集まっていないということです。

|very Low QoE
③のメタ解析や後述するコクランレビューでも,very low quality of evidence(QoE)のデータしかないためデータの確実性が極めて低い,ということが強調されています。また,そもそも①②④のメタ解析は比較対照群がプラセボや SOC のみでなくごった煮である(クロロキンや抗 HIV 薬との比較試験なども含まれている)ため,何と比較してどの程度有効だったかという定量ができず,臨床的意義には疑問符がつく論文です。

1つの大きな論文の撤回

さらに,上記4本の SR & MA が発表されたあと,この問題を強調するような事件が起きました。

2021 年 7 月,イベルメクチンの有効性を主張する論文の中で当時最大規模だった Elgazzer らのRCTが,Introもコピペでカルテデータもコピペ&一部改竄,死亡者数も改竄してた疑いで撤回されてしまったのです。

Huge study supporting ivermectin as Covid treatment withdrawn over ethical concerns|15 Jul 2021 18.30 The Guardian.com

重要な点は,上で御紹介した 4 つのメタ解析のうち,Roman ら(③)の論文以外,全てこの RCT の結果を含んだ統合結果であった,ということです。

繰り返しになりますが,Roman らの論文は「有意差なし」としていた一方,他のメタ解析(①②④)はすべて「有意差あり」と結論していたのでした。

しかし①②④の論文は全て Elgazzer らの RCT の影響を強く受けた解析結果であったため,解析結果がおじゃんになってしまった,ということです。

実際,Hill らの メタ解析(④)はすでに撤回されています。

そもそも Elgazzer らの RCT は preprint(査読前論文)でした。そのような研究結果をきちんと吟味せずにメタ解析に加えてしまうこと自体,リスクを伴う行為であったと言えます。

メタ解析を見るポイント

上記は大変教訓的な出来事であったように思います。

メタ解析は結果としてアウトプットされた数字ばかりが強調され拡散される傾向にありますが,重要なのはむしろインプットに何を入れたか です。

「Garbage in, Garabage out(ゴミを入れてもゴミが出るだけ)」と揶揄されるように,メタ解析の質はどのような研究を統合するか次第です。低質な研究を統合しても低質なものにしかなりません(▼)。

GIGO

事実,Elgazzer らのコピペ疑い論文を加えていたメタ解析(上記①②④)は,低質どころか無意味なものになってしまいました。

結局「どの様な研究をインプットして統合すべきか」吟味していくプロセス(=システマティックレビュー SR)こそが,本質的に重要な部分だということでしょう(▼)。

システマティックレビューで non-GIGO に
このプロセスには一定程度の恣意性が紛れ込みますが,GRADE システム(後述)などある程度確立された手法で厳密に施行されたシステマティックレビューであれば信頼性があります。

コクラン共同計画

非常に厳格な〈システマティックレビュー SR〉を行うことで有名なコクラン共同計画も,イベルメクチンについてレビューを発表しています。

|コクラン共同計画とは
ご存知ない方のために簡単にご紹介しておきますと,コクラン共同計画は信頼できるシステマティックレビュー & メタ解析を世界に発信することを主な目的とした国際非営利団体です。医薬品や医療機器メーカーからの資金を受け取らない方針になっており,資金源はほぼ公的資金と,各契約機関・契約病院から得るライセンスフィーです。レビュー著者は学術ボランティア・ないし学術論文として認められるインセンティブで投稿しています。出版されていない RCT の結果などについても筆者に連絡を取り,執拗にデータを追求することで知られています。WHOの公式提携パートナーでもあります。

コクランレビュー

  • コクラン共同計画による SR & MA|CD015017

上記リンク先の右側のメニューにある view PDF → standard pdf と進んでいただければ全文を読むことができます。

常軌を逸したエビデンスへのこだわりで 140p にわたり各研究の吟味過程およびメタ解析の結果を記しています(2021 年 8 月現在)。

|コクラン長すぎ読めん問題
コクラン長過ぎ問題は私もよく苦しめられるポイントなのですが,コクランレビューは最初にサマリーがあるので,まずはそこから見る様にしています。上記 standard PDF においても,5p-10p の Summary of Findings(SoF)の表だけ見れば,大体のことはまとめられています。また,今回メタ解析に加えず除外された論文の除外理由は p62-64 に列記されています。あとは適宜つまんで読むのが限界です。コクランは原著論文ではありませんし,全文読む必要はないと思います。現在どの様な RCT が質の高いものとして評価されているか,あるいは逆に興味のある RCT がどう評価されているかなどをチェックします。

コクランレビューの結論

コクランレビューの下した結論は以下です。

現時点の(極めて低質な)データでは,COVID-19 の予防にも治療にも,イベルメクチンが有効か無効か,安全かどうかも分からない。


現在アクセス可能な信頼性の高いエビデンスから言えることは,「COVID-19 の予防や治療を目的としたイベルメクチンの使用」は「適切にデザインされた RCT 以外では支持されない」ということだ。

Based on the current very low‐ to low‐certainty evidence, we are uncertain about the efficacy and safety of ivermectin used to treat or prevent COVID‐19. The completed studies are small and few are considered high quality. Several studies are underway that may produce clearer answers in review updates. Overall, the reliable evidence available does not support the use of ivermectin for treatment or prevention of COVID‐19 outside of well‐designed randomized trials.(原文 2021.5.24 版より抜粋;太字・マーカーは筆者注)。

SR & MA まとめ

以上,コクランレビューを含め 5 本の SR & MA の結論を総括すると,以下のようになります(▼)。

色んな比較対照群ごった煮と比較し「有効性あり」(※)
※)上記 3 本は全て Elgazzer らの撤回論文を組み入れており,大きな影響を受けている(=再計算が必要な状況)。また,比較対照群がバラバラ(クロロキン・抗HIV薬・プラセボ・SOC などとの比較を合算したもの)であり,結局のところ何と比べてどの程度イベルメクチンがいいのか,という定量ができない(臨床的意義は乏しい)。1本は撤回済。

プラセボ・標準ケアと比較し「有効かどうか不確実」

  • Roman YM et al.|Clin Infec Dis. (2021 Jun 28) |PMID: 34181746
  • コクラン共同計画 (2021 Jul 28)|CD015017

GRADE システム

なお余談ですが,コクランレビューを「科学的に信頼できる情報源」たらしめている理由の1つには,GRADE システム・アプローチを厳格に適応しているという点が挙げられます。

GRADE システムとは,端的に言えば「エビデンスの質を一定の基準に沿ってランク付けしていく手法」のことです。

1つ1つの論文を根掘り葉掘り吟味した上で

  • バイアスリスクが高いなら減点(RCT であっても低質なら原点)
  • 結果の異質性が高ければ減点

という具合に「研究としての質の良し悪し」を個別に採点・評価していきます。

GRADE システムにおいては,

  • RCT がエビデンスピラミッドの頂点
  • 観察研究はその下

というような短絡的なランク付けは行いません。低質な RCT の信頼性は良質な観察研究に劣るからです。

広がる GRADE システム

近年ではコクラン以外にも,ガイドラインを策定する専門団体(学会)なども GRADE アプローチを採用するところが増えています。後述する WHO や NIH,UpToDate®︎ などもこの GRADE システムを採用しています。

また,ルールブック自体も,常にブラッシュアップが続けられています。

そのガイドラインは GRADE システムを採択したものか?

というのは,2次文献の質を端的に確認する上で近年重要なチェックポイントの1つとなりつつあります。

以下ではプロ集団の具体的〈推奨〉をみていきますが,多くはエビデンス評価として GRADE システムを採用している団体です。

各専門家集団の推奨は?

では,ここからは各専門家団体のポジションをみていきましょう。

業界全体としてはどう考えられているか?

を見る上では,各団体の推奨度をひと通り見ていくのが手っ取り早いです。

というわけで,以下の順で列記していきたいと思います。

各専門団体のポジションは?
  • WHO
  • 米国 CDC
  • 米国 FDA
  • 欧州医薬品庁 EMA
  • 米国感染症学会 IDSA
  • UpToDate®︎
  • 診療の手引き(本邦,厚労省)
各専門家集団は玉石混交の〈1次情報〉を独自に吟味した上で,各々の〈推奨〉を発信しています。独自にシステマティックレビューを行なっている場合もあれば,コクランや他のシステマティックレビューの内容を踏襲している場合もあります。

あまり補足は行わず,ガンガン列記していきます。

|更新日時について
なお,日付が少し古くなっているものもありますが,更新されていないのは「診療方針を変えるような新規情報(practice changing update)がないと判断されている」と考えてよいでしょう。サボっているわけではないと思います。

WHO

イベルメクチンの使用は臨床試験に限るべき

WHO advises that ivermectin only be used to treat COVID-19 within clinical trials|31 March 2021 WHO

米国 NIH(国立衛生研究所)

COVID-19 治療にイベルメクチンを使用することを推奨するか反対するかについて,エビデンスは不十分。より具体的でエビデンスに基づいたガイダンスを提供するには,適切なサンプルサイズで・適切にデザインされ・適切に実施された臨床試験の結果が必要である。

Recommendation:There is insufficient evidence for the COVID-19 Treatment Guidelines Panel (the Panel) to recommend either for or against the use of ivermectin for the treatment of COVID-19. Results from adequately powered, well-designed, and well-conducted clinical trials are needed to provide more specific, evidence-based guidance on the role of ivermectin in the treatment of COVID-19. |出典 NIH公式ページ

※上記推奨にあたり NIH のガイドラインパネルが参考にしたエビデンスは下表にまとめられている
NIHの図表|研究デザインや limitaion,Result が端的にまとめられており,非常に見やすい

米国 FDA(食品医薬品局)

あなたがイベルメクチンを COVID-19 の治療・予防に使うべきでない理由

Why You Should Not Use Ivermectin to Treat or Prevent COVID-19|09/03/2021 FDA
*)FDA は本来 ガイドラインなどを策定する団体ではなく,あくまで医薬品の承認を担う規制部署。しかし COVID-19 への適応が未承認であるイベルメクチンが濫用されている現状に対し,上記の苦言を呈している(9月3日)。以下のツイートも有名。

欧州医薬品庁 EMA

EMA は COVID-19 の予防・治療に対して RCT 以外でイベルメクチンを使用しないよう忠告する

EMA advises against use of ivermectin for the prevention or treatment of COVID-19 outside randomised clinical trials | EMA news(22/03/2021)
*) EMA は欧州における米国 FDA にあたり,薬剤承認などにあたる規制部署。

米国感染症学会(IDSA)

COVID-19 入院患者において,臨床試験以外でイベルメクチンを使用しないことを推奨する
(エビデンスの信頼性:very-low)。


COVID-19 外来患者において,臨床試験以外でイベルメクチンを使用しないことを推奨する。(エビデンスの信頼性:very-low)

In hospitalized patients with COVID-19, the IDSA panel suggests against ivermectin outside of the context of a clinical trial. (Conditional recommendation, very low certainty of evidence)
In ambulatory persons with COVID-19, the IDSA panel suggests against ivermectin outside of the context of a clinical trial. (Conditional recommendation, very low certainty of evidence)

IDSA Guidelines on the Treatment and Management of Patients with COVID-19|Published by IDSA
*)米国感染症学会 IDSA はインターネット上にフリーアクセスのガイドラインを公開している。上記はそこからの抜粋。

IDSAの SR & MA

また,IDSA は現在,2021 年 7 月 31 日公開までの文献を網羅したシステマティックレビュー & メタ解析(SR & MA)も公開している(GRADE システム準拠)。
たとえば現在,Pg136 では死亡をアウトカムとした RCT の統合結果を見ることができる|IDSA supplementary-materials
注)この SR & MA では,組み入れは「プラセボ比較試験」のみ。クロロキンや抗 HIV 薬との比較試験,比較対照群のない前後試験などは除外されている。用法・用量が各試験バラバラなど異質性が高いことや,バイアスリスクが高い RCT が多いことが触れられている。

害の懸念

加えて,IDSA はイベルメクチンで期待される益のみでなく Harms(害)の項目もメタ解析結果を公表しています(▼)。

  • 入院患者で有害事象をきたす相対リスク(RR: 0.80; 95% CI: 0.39-1.64; low CoE)
  • 外来患者で深刻な有害事象をきたす相対リスク(RR: 0.99; 95%CI: 0.14-6.96; low CoE)
※ 95%CI: 95%信頼区間,CoE: エビデンスの確実性 certainity of evidence
*)上記の相対リスクの信頼区間は 1 を跨いでいる。つまり「イベルメクチンは余分な害をきたすかもしれないし,きたさないかもしれない」ということ。

寄生虫治療に用いる場合,典型的な用法・用量ならイベルメクチンの安全性は担保されている。しかし COVID-19 に対する適応では,イベルメクチンを使わない場合に対して有害事象を増やす可能性を否定できない。In doses typically used for the treatment of parasitic infections, ivermectin is well-tolerated. We are unable to exclude the potential for adverse events in hospitalized and serious adverse events in non-hospitalized persons with COVID-19 treated with ivermectin rather than no ivermectin

UpToDate®︎

続いて,臨床支援ツールの記載も確認してみましょう。私が実臨床でよく利用している 2次情報源,UpToDate®︎ の記載をご紹介します。

COVID-19 に関連する内容については,現在フリーアクセスとなっています。

COVID-19: Management in hospitalized adults / COVID-19-SPECIFIC THERAPY / Others (Last Updated: Jul 12, 2021)|UpToDate
|UpToDate®︎ とは
UpToDate®︎は,臨床上の疑問が生じた時にサッと調べるのに適した臨床支援ツールです。複数のプロが査読した内容である上,更新も速く,臨床現場で頼りになる存在です。

UpToDate のポジション

私たちは臨床試験の場合を除き,COVID-19 の診療にイベルメクチンを使用しない。質の高いデータに裏打ちされていなければ,他の薬剤介入も行うことはないが,それと同様である。これは WHO の推奨にも一致している。

We do not use ivermectin for treatment of COVID-19 outside of clinical trials, as with other interventions that are not supported by high-quality data, consistent with recommendations from the [WHO].

*)WHO 推奨に準拠する立場のよう。理由として以下の記載あり。

COVID-19 治療に対し,イベルメクチンのデータは低質である。16試験(重症者は4試験のみ)のメタ解析では,死亡や挿管人工呼吸,入院期間に対する効果は極めて不確定的であった。これは試験デザインの limitation や サンプルサイズが小さいことによるものである。

Data on ivermectin for COVID-19 are of low quality. In a meta-analysis of 16 trials evaluating ivermectin (only four included patients with severe disease), the effects on mortality, need for invasive mechanical ventilation, and duration of hospitalization were all very uncertain because of limitations in trial design and low numbers of events [BMJ living systematic review].

UpToDate による補足情報

以下,補足情報の記載です。

イベルメクチンは当初,試験管内実験で SARS-CoV-2 への抗ウイルス活性が認められたことから治療薬となりうる可能性が提唱されたものである。しかし,試験管実験での濃度は,安全とされる用法・用量での投与で達成できる生体内での濃度を大幅に上回るものであった。

Ivermectin had originally been proposed as a potential therapy based on in vitro activity against SARS-CoV-2; however, the drug levels used in the in vitro studies far exceed those achieved in vivo with safe drug doses [J Antibiot (Tokyo). 2020 Sep;73(9):593-602.].

280 例の COVID-19 症例を検討した後方視的研究で,イベルメクチン治療を受けることは低い死亡率との相関関係があった。しかし,イベルメクチン治療を受けた患者層では,よりステロイドが使用されている傾向にあった。このことは,RCT でない研究における交絡因子の影響を強調するものである。

In a retrospective review of 280 patients hospitalized with COVID-19, receipt of ivermectin was associated with a lower mortality rate; however, patients who received ivermectin were also more likely to receive corticosteroids, highlighting the potential for confounders to impact the findings of nonrandomized studies [Chest
. 2021 Jan;159(1):85-92.]
.

最後は以下の一文で締め括られています。

ステロイド使用で糞線虫症が再活性化してしまうような患者層で予防的に使うため,私たちはイベルメクチンを確保するようにしている

We reserve use of ivermectin for prevention of Strongyloides reactivation in select individuals receiving glucocorticoids.

本邦の診療手引き(厚労省)

最後に本邦の〈2次情報〉を見てみましょう。

ここで取り扱うのは,厚労省が定期的にアップデートしている「新型コロナウイルス診療の手引き」です。

新型コロナウイルス診療の手引き 5.2版|厚労省

日本国内で入手できる薬剤の適応外使用

52p. から「日本国内で入手できる薬剤の適応外使用」の項となっており,冒頭に以下の記載があります。

以下の薬剤を用いた COVID-19 の治療について,いずれも有効性・安全性は確立していないことに留意する

そのまま読み進めていくと 54p に【その他の薬剤】という項目があり,その中にイベルメクチンに関する記載を認めます。以下,全文引用です。

イベルメクチン:現在,国内において,医師主導治験が実施されている(jRCT2031200120)。最新のメタ解析(10 のランダム化比較試験を対象)では,イベルメクチンによる治療は標準治療やプラセボと比較して,軽症者における全死亡,入院期間,ウイルス消失時間を改善させなかったと報告されている。

記載は上記が全文です。

使用の適否や推奨に関し,特に明記はされていません(イベルメクチンに限らず)。

なお上記の文面にて引用されているメタ解析は,先述した Roman Y.M らの Clin Infect Dis. の論文のようです。(根拠論文のリンクに通し番号や Pubmed リンクがないのは,正直改善して欲しいところです)

なお,日本感染症学会もイベルメクチンに関しては「今後の知見が待たれる」と端的に述べるに留めており,ほぼ紙面を割いていません(▼)。

COVID-19 に対する薬物治療の考え方 第 8 版(2021 年 7 月 31 日)|日本感染症学会
|本邦のプロ集団は発信力が弱い?
余談ですが,日本の専門家集団(学会や厚労省)の情報収集・発信は,英語圏と比べて貧弱なものが多いように感じます。上記の内容の薄さもその一端です。NIHIDSA くらい端的にまとめる能力がある人は日本にもたくさんいるはずなのですが…,やはり CDC のようなものが日本になく,「公的機関にプロが不在〜ごく少数」というのが問題の本質なのでしょうか。こうした「本当のプロ」たちの発信力不足が,誤り・偏りのある悪質な情報を拡散させる土壌になっている気がします。

総括

以上がプロ集団の意見・ポジションです。

科学的、、、に妥当性が高い手法(GRADE システムなど)に基づいて現在の知見を集積すると,

まだ risk/benefit バランスが不透明

ということです。

これが現時点で質の高いエビデンスから言えることの限界です。当然ながら,どのプロ集団も慎重な立場を崩していません。

2021 年 8 月現在,十分なサンプルサイズでよくデザインされた二重盲検 RCT(検証的、、、な RCT)がほとんどないため,こうした歯切れ悪い結論になるのはやむを得ないことです。

適切な用法・用量すらコンセンサスを得られておらず,各 RCT でバラバラなレジメンとなっている,というのが現実です(詳細は別頁)。

そしてこれには,製薬会社主導で大規模投資を行って質の高い臨床試験を推し進めるモチベーションがない,という問題も関与しています(特許切れのため)。医師や非営利団体が主導でやらざるを得ない状況です。これは完全に構造的問題なのですが,長くなるためこの記事では割愛します。

結論は不透明

上記のようにまだ結論は不確定的ですから,今の時点でどう考えるかは個人の自由です。

しかし「効く」「効かない」などと現時点で断言・確信できるような段階ではないはずです。いずれにしても,断定的口調の「専門家」の発言を見た時は,すこし警戒した方が良いかもしれません。

※ 専門家の個人的意見はあくまで3次情報にすぎません。

個人的には少しでも薬剤の選択肢は欲しいので「効いたらいいな」と思ってはいますが,少しずつ出始めた軽症者対象の〈検証的 RCT〉(プラセボ比較 2 重盲検試験)でも,プラセボへの優越性を立証できていないのが現実です(▼)。

検証的 RCT ではプラセボ比で有意差なし
  1. EPIC trial (JAMA) n=398
  2. IVERCOR-COVID19 trial(BMC Infectious Diseases) n=501
|power 不足の可能性
ただしこれらはそもそも悪化しにくい比較的若年の外来治療層を対象としているため,プラセボ群も重症化イベントが少なく,アウトカムで差がつけにくかった,という問題があります(power不足の可能性)。誤解されがちですが,有意差なしとは「プラセボと差がない」ことを示したわけではありません。「プラセボと差がない」という仮説を棄却できなかった、、、、、、、、だけです。より大規模な試験であれば有意差として検出できたかもしれません(※ 逆説的には,大規模 RCT でなければ検出できない程度の効果しか軽症 COVID-19 症例にはもたらさない,ということ)。

400〜500人規模の〈検証的 RCT〉で有意差が出せないということは,少なくとも軽症外来患者さんに対して「劇的に効く薬」「魔法の薬」でないことは確かです(そもそもそんな薬はほとんど存在しませんが…)。

外来処方できないなんて大問題! 早く緊急承認を!!

と悲劇的に報じなければならないような「特効薬」である可能性は,現状かなり低いと言えるでしょう。

そもそもほとんどの若年〜中年は重症化しないので,そうした患者層の外来治療というセッティングで RCT を組んでも「意味のある差を出す」こと自体が難しいのです。

FLCCC の ivmmeta.com などを見ると「イベルメクチンが承認されていないせいで沢山の人が無駄に亡くなっている」と言わんばかりですが,果たして本当にそうでしょうか。

高齢者などイベントが起きやすい(重症化リスクが高い)患者層に絞って検証するか,上記の数倍規模の RCT を施行できれば,効果があるのかないのか,よりハッキリしてくるでしょう。

外来 COVID-19 患者を対象としたモルヌピラビル(@メルク社)の第 II/III 相試験(NCT04575597)が現在進行中ですが,1850人の被験者集めを目標としています。イベルメクチンでも単発の検証的 RCT で有意差を検出しようとしたら,この程度のサンプルサイズは必要かもしれません。

私個人としては,より質の高いエビデンスの蓄積を静かに待ちたいと思います。

イベルメクチンの1次情報まとめ記事もあわせてお読みいただければ幸いです。
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[おすすめ本紹介]

Users’ Guides to the Medical Literature


タイトル通り「医学論文を現場でどう応用するか?」迷える臨床家のためのユーザーズガイド。Tips 集のような構成で,どこからでもつまみ読みできます(通読向きではない)。医学論文の批判的吟味を学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶならコレ,という極めて網羅性の高い一冊です。著者 Gordon Guyatt 氏は “EBM” という言葉を作った張本人。分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


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