「その情報、ソースはどこから?」医学・健康情報の階層を考える

健康情報・医療情報は本当に玉石混交です。

不適切情報や誇大広告の問題は以前からありましたが,COVID-19 の流行はこの問題をさらに痛々しく明確なものとしました。

SNS の流行に伴い,私たち自身のヘルスリテラシー向上が求められています。

この記事では,混乱を招く「情報」はどこからきているのか? その問題を整理するため,各情報源を便宜上 以下のように分類してみたいと思います(▼)。

医学情報の階層

  1. 1次情報:原著論文・臨床試験データ・疫学データ
  2. 2次情報:専門家集団による上記の要約と推奨(WHO,CDC,学会)
  3. 3次情報:専門家個人の意見や解釈(レビュー論文・書籍・寄稿)
  4. 4次情報:他の誰かの意見や解釈(ニュース記事・SNS)
  5. そのまた伝聞
医療情報の階層

皆さんのお手元にある「その情報」は,上記のどこに分類されるものでしょうか?

以下では浅い層から順に,その特徴についてまとめてみたいと思います。

*)また具体的ケースとして以下もご一読いただければ幸いです。

  • イベルメクチンの 1 次情報 まとめ|別頁
  • イベルメクチンの 2 次情報 まとめ|別頁
  • イベルメクチンの 3 次情報・4 次情報の例|別頁

4次情報(最表層)

まずは 4 次情報です。

  • ニュース記事
  • 個人の SNS・ブログ(※非専門家)

この階層の情報は,最も目につきやすいという特徴があります。

4次情報は最も表層的で解釈を含む

表層的な情報ほど目につきやすい

問題なのは「解釈がまじって」加工された情報ほどセンセーショナルに拡散されやすい,ということです。

しかし結局この階層の情報は「表層的なもの」に過ぎません。

〈1次情報〉という本来のデータの姿から遠く離れた表面部分を掬っているに過ぎず,飛躍した解釈をおこなっていたり,最悪の場合,シンプルに間違っている可能性があります。

3次情報(専門家個人の層)

そこで,もう少し深い情報源に潜ったとき行き着くのが,「専門家個人」が発信している情報です。近年ではこの階層の情報にも容易にアクセスすることが可能となりました。

この階層の情報としては,以下のものが挙げられます。

3次情報の例

  • 書籍
  • 寄稿・レター論文*
  • 総説論文(ナラティブレビュー*)
  • 専門家のブログ・SNS

この階層の情報には大変有用で示唆的なものが多いのも事実ですが,ものによっては大きく偏っていたり,ポジショントークであることもあります。しかし〈権威効果〉があるために,偏った情報であってもそのまま鵜呑みにされやすい,という点で注意が必要です。

3次情報は専門家個人の層
イベルメクチンの場合

前回の記事で,医療情報を階層に分けて考えることの重要性についてまとめました。[sitecard subtitle=合わせて読みたい url=/med/medinfo/]しかし総論的な内容で少し抽象的になってしまったので,具体的なケー[…]

|レター論文とは
レター論文(Letter)とは,ちょっとした意見や展望を比較的短い文面にまとめ論文雑誌の編集者に向けて送るものです。まさに「手紙レター」です。
|ナラティブレビューとは
ナラティブレビュー NR とは,システマティックレビュー SR ではない総説論文レビューのことです。SR と違い,データベースで検索した全該当論文を「系統的に網羅」しているわけではありません。専門家個人〜数人が,彼らの思う「目星い原著論文」をまとめた上で展望を紹介してくれます。業界のプロが書くことが多く,既存のエビデンスをそのプロがどう解釈しているかなど,勉強になります。しかしその論文選択は恣意的なものなので,必ずしもフェアなまとめでないこともあります。
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医師や専門家の意見なら信頼できるか

書籍や論文を発表している「専門家」の意見であっても,信頼性が高い情報であるとは限りません。

いかに専門家の発信といえども,その内容は彼らの「個人的な信念・思想」や「経験」などにバイアスされている可能性があるからです。情報を不適切に取捨選択してしまっているかもしれません。

加えて,特定企業との利益相反(COI)が隠れている場合もあります。特定の製薬会社と結び付きのある医師は,その企業の薬品の効能をさりげなく宣伝しているかもしれません。

その「専門家」がきちんとフェアな発信を行っているかは,プロでない限りそう簡単に見抜けるものではありません。

これが,この階層の情報がもつ限界です。

また,一口に「専門家」と言ってもいろいろあります。本当にその業界で信頼されている専門家もいれば,特定のメディアや偏った情報源でしか見かけないような「専門家」もいます。両者を容易に鑑別できるのは,実際にその業界で働くプロだけです。

盲目的になりやすい危険領域

しかし,この領域の情報には人を惹きつける魔力があります。

偏った情報であっても「専門家」や医師が発言することで〈権威効果〉に裏打ちされ,「もっともらしく」見えてしまうからです。

ネットニュースなどは受け取り手も眉唾だと思いながら読んでいることがほとんどだと思いますが,この領域の情報はしばしば鵜呑みにされてしまいます。

デマ情報が拡散される大元をたどると,そうした「専門家」(あるいは専門家 "風" の人物)の発信(SNSや書籍)が元になっていることがしばしばあります。

確証バイアスとエコーチェンバー効果

この領域の情報に触れる際,最も危険で避けなければならないのが,

確証バイアス × エコーチェンバー効果の泥沼

です。

確証バイアスとは,はじめから自分の中で結論が決まってしまっている物事に対し,その結論に都合のよい情報だけを収拾し,他の情報を切り捨ててしまうような姿勢のことです。

エコーチェンバー効果とは,閉鎖的空間内でのコミュニケーションを繰り返すことによって,特定の信念が増幅または強化されてしまう状況を指します。

閉鎖的 SNS の怖さ

COVID-19 に関しても,「とある薬が効く」「とあるワクチンが有害」「とある製薬会社の陰謀」といった情報は無数に錯綜しています。それらは一部正しいものの偏った側面を誇張していたり,生粋のデマであったり,本当に色々です。

いずれにしても,SNS などでそうした「偏った情報」を発信しつづけるコミュニティに浸ってしまうと,それが確信となり〈確証バイアス〉を形成してしまうことがあります。

厄介なのが,一度〈確証バイアス〉を形成してしまうと,誤りや偏りを指摘してくれる人がいても,敵対者からの攻撃であるかの様に感じてしまうことです。他の意見は全て排除し耳を閉ざしてしまい,自説への確信は益々 強く深くなっていきます。

結果として自分の意見を心地良く肯定してくれるコミュニティばかりと付き合う様になり,極度に閉鎖的になってしまいます。この連鎖が〈エコーチェンバー〉です。

こうしたエコーチェンバーの中心には,しばしばカルト的影響力を誇る「専門家」やインフルエンサーがいます。

こうした問題は COVID-19 が流行する前からあったことですが,COVID-19 は影響を受けている人の規模が大きいこともあり,特に深刻になっています。

専門家個人ではなくクラスターのフォローを

上記はなかなか解決が難しい問題ですが,もし SNS 上で専門家を直接フォローし,この階層の情報に触れるのであれば,専門家個人ではなく 「専門家のクラスター」を追いかけるのがよいかもしれません。

専門家クラスターとは,「専門家個々人」の「集合体」のことです。要するに一人ではなく,色々な専門家の言っていることを確認しましょう,ということです。

具体的には以下のような手段を用いれば,一人の偏った意見に左右される危険性を減らすことができると思います。

  • Twitter の「リスト機能」でいろいろな医療関係者をまとめる
  • 専門機構が発表している まとめ・推奨を確認する〈2次情報〉

自分が専門外である領域の情報については,なんであれ偏った発信源ばかりに集中しないよう注意しなければなりません。医療・健康情報であれば尚更です。

2次情報(専門家集団の層)

というわけで,より高い信頼性を期待してもう一段降りた先にあるのが「専門家集団」の層です。

ここでは専門家集団が玉石混交の1次情報をふるいにかけた上で現時点での総括をしてくれているようなもの(▼)を想定します。

2次情報の例

  • 学会のガイドライン
  • 特定専門機関(WHO・FDA・CDCなど)による推奨
  • UpToDate®︎ や Dynamed®︎ といった臨床支援サービス
  • 良質なシステマティックレビュー&メタ解析*(コクラン共同計画など)
二次情報は専門家集団の層
イベルメクチンの場合

この記事では,COVID-19 に対するイベルメクチンの適応について,2021 年 8 月 時点で筆者が確認できた〈2次文献〉や〈推奨〉を列記していきます。※ 関連記事として以下もご参照ください。医学情報を階層別に分けて取り扱うこ[…]

* ただしメタ解析の質には注意
注意すべき点は,一口に「メタ解析」といってもその全てが良質なエビデンスであるわけではないということです。バイアスだらけの研究や,サンプルサイズが小さい研究ばかりを「統合」したメタ解析は,結局 Garbage in, Garbage out で,バイアスの塊でしかありません。「統合すべき良質な論文」をきちんと評価する「システマティックレビュー」のプロセスが大変重要です(▼)。

安心な最深到達点

この階層の情報は,プロでない人も概ね安心して潜ることができる最深部です。

少なくとも専門家複数人のコンセンサスを得たものであるため,大きく偏ったり飛躍した内容になっている可能性が低いからです。

センセーショナルな〈3次情報〉〈4次情報〉を見かけた時には,まずこの段階の情報源を確認することで,そうした情報がコンセンサスから外れたものなのかどうか判断する助けになります。

プロにとっても入口

また,この領域の情報は,医師や専門家個人にとっても「1次情報への入口」として機能しています。

医師や専門家は当然ながら直接〈1次情報〉を吟味すべきですが,〈1次情報〉の中には取るに足らないジャンク情報が無数にあります。そうした情報の海へ泳ぎ出し,良質なものだけを取ってくるのには,相当な時間と労力を要します。

そもそも「その後の診療を変えるような一次情報」 practice changing update は,新しい論文の 100分の1 とも 1000 分 の 1 とも言われます。その全てに目を通すのは明らかに非効率です。

そのため,よほど関心のある内容や自身の専門領域に関わるものでなければ,医師や専門家であっても直に〈1次情報〉を収集しにいくことは多くありません。

ではどうしているかというと,まずこの〈2次情報〉から目を通しています。「フィルターにかけられたもの」から目を通した上で,特に関心のある論文については直接自分の目で確かめる ── というのが多くの医師や専門家にとって一般的な方法ではないでしょうか。

エビデンスピラミッド以前のものがたくさんある

たとえ RCT でもメタ解析でも,デザインに重大なバイアスがあったり統計処理に大きな問題があるなら,上図における Garbages に該当します。

2次情報だけでも診療はできる

なおこれは余談ですが,実は医師も最低限この〈2次情報〉さえ押さえておけば,臨床現場で困ることは多くありません。

世間では全ての医師が〈1次情報〉を吟味するトレーニングを受けていると思われているかもしれませんが,実際にはそのようなことはありません。

医師が現場でトレーニングされるのは,現場をまわすスキルだけです。そしてとりあえず現場をまわすにあたって,統計リテラシー(サイエンスリテラシー)は不要です。医師国家試験でもほぼ問われません。最低限〈2次情報〉の推奨にしたがってさえいれば現場をまわすことは十分可能だからです。

バリバリ現場を回している医師だからと言って〈1次情報〉を科学的に・客観的に・批判的に解釈できるとは限りません。

一人の医師の言うことを鵜呑みにすべきではない

つまり何が言いたいかと言うと,医師の発信であっても全く科学的でないことはある,ということです。

医師個人が何か強い主張をしていても,簡単に鵜呑みにすべきではありません。その情報の妥当性はしっかりと確認することが大切です。その人物にサイエンスリテラシーがあるかどうかは,臨床医としてのキャリアとほとんど無関係だからです。

また,統計的なトレーニングを受けた医師であっても,常に情報をフェアに吟味できるわけではありません。自身の信条や経験則に影響され偏った発信をしてしまうこともあります。

こうした問題がある為,医師や専門家の「個人的な発信」は,「専門家集団のコンセンサス」に比べて客観性・信頼性が一段階落ちたものとして扱われます(先述の3次情報)。

だからこそ,一度はこの〈2次情報〉の層を確認し,現時点での業界のコンセンサスを知ることが重要です。

2次情報にも欠点はある

ただし,この階層の情報にも欠点はあります。端的に以下の3つが問題となります。

2次情報の弱点

  1. ワンテンポ遅い
  2. 保守的である
  3. 利益相反 COI が入り込むことがある

1. ワンテンポ遅い

まず第一に,この階層の情報はどうしても〈1次情報〉の発表からワンテンポ遅れてしまいます。

これは原著論文や疫学データを複数のプロが吟味してコンセンサスを得た上でまとめているという性質上,やむを得ない部分があります。

特に各学会が監修しているガイドラインはワンテンポどころか数テンポ遅くなります。内容も 4-5 年に1回しか改訂されないため,残念ながら情報の鮮度としては低くなってしまいます。

2. 保守的である

第二に,この階層の情報は原則保守的となります。複数の専門家のコンセンサスを得る必要があるので,当然といえば当然です。

再現性が十分確認されていない知見や,たとえ RCT でもバイアスリスクが高いと考えられる結果は,ここでは重視されません。そのため十分なデータが集まるまで,なかなか「推奨」は変わりません。

後から「本当はあの時点、、、、で『効果がある』って分かってたのに!」と言われることもありえます。

しかし実は,これは良い点でもあります。「本当は『効かない』かもしれないものを,いたずらに推奨しないため」には,保守的である方が良いのです。

医学・健康情報は多額の「公費」を投入するという性格上,最大限合理的な情報解釈が求められます。「データの統計的扱いに関し保守的である」ということは,αエラー(※)に強いということであり,必ずしも悪いことではありません。

αエラーとは「本当はない差をあると言ってしまう統計学上の推定間違い」のことで,どのような研究論文であっても,通例最低 5 % はこのリスクを抱えています。また,試験デザイン自体にバイアスがあったり,何度も統計学的検定を繰り返しているような場合には,もっとはるかに大きい確率でこのエラーを犯しています。|詳細別頁

3. 利益相反が入り込むことがある

第 3 の問題は,結局この領域の情報も COI の影響を受けていることがしばしばあるということです。

特定の製薬会社と専門家に資金の流れがあると,その製薬会社の薬剤を不当に高く評価し推奨することもあります。

GRADE アプローチなど信頼性の高い手法を取っていないガラパゴス化した一部ガイドライン等では,そうした傾向を感じることがあります。

|日本のガイドラインの問題
本来ガイドラインは無料かつ英語で広く公開されるべきものですが,残念ながら本邦のガイドラインはほとんどが有料です。また英語公開もありません。国際的な批評の目に晒され難いため,ガラパゴス化しやすい構造に陥っています。特に本邦のマイナー学会が発行する一部の有料ガイドラインはガラパゴス化が著しく,十分検証されていないローカルドラッグを強く推奨するものもあります。複雑な利益相反があるのでしょうが,是正して頂きたい問題です。

だからプロは〈1次情報〉に降りる

上記のような問題があるため,専門家は〈2次情報〉であっても内容を鵜呑みにすることはありません。

まず〈2次情報〉からチェックすることがほとんどではありますが,そこで取り上げられている〈1次情報〉を直接自分の目で確認したうえで,最終的には自ら意思決定を下します。

|それが専門性
同じ医師でもある分野が「専門領域」かそうでないか,というのはこの点で区別されるかもしれません。つまり〈1次情報〉を踏まえた上で突っ込んだ診療やトラブルシューティングができる領域は専門であり,「ガイドラインをなぞるだけが精一杯」な領域が非専門,という具合でしょうか。

1次情報(生データ・原著論文)

さて,上記の2次情報を窓口にして,あるいは直接データベース* で検索することによって,私たちはいよいよ情報の最深部にたどり着くことができます。

それがこの〈1次情報〉です。以下の情報がここに含まれます。

  • 原著論文(original article)
  • 公衆衛生上の疫学データ(各国統計局が発表する生データ)
1次情報
イベルメクチンの場合

この記事では,2021 年 8 月時点のイベルメクチン〈1次情報〉について,目星い報告を簡潔にまとめます。「イベルメクチン効くかも仮説」はどのように提唱されてきたのか,そしてその仮説の検証は「どこまで来ているのか」。辿ってきたエビデンス[…]

* 代表的なデータベース:pubmed.govclinicaltrials.gov

1次情報も客観的とは限らない

重要な点は,

原著論文のほとんどは全く「客観的でない」

ということです。

むしろ〈2次情報〉というフィルターを介していないため,かなり問題のある統計解析やバイアスだらけの研究論文が無数にあります。

真っ黒な腐海がそこに広がる

ほとんどの〈1次情報〉は,上図の真っ黒な腐海領域に該当します。

粗悪なジャンク情報に要注意

特に COVID-19 の流行に伴い,査読がほぼ素通りレベルという粗悪なジャーナルや,査読前論文(preprint)など,極めて低質でバイアスの塊のような情報も脚光を浴びるようになってしまいました。

そうした論文は「査読」という最低限のフィルターすら経由していませんから,当然ほとんどはジャンクです。さらにそうしたジャンク情報を篩い分けすることなく「統合」したジャンクジャンク解析が SNS で拡散されることもあり,カオスそのものの様相です。

自説に都合のよいジャンクな〈1次情報〉はネットで簡単に見つけることができます。偏った情報発信をおこなう「専門家」はしばしば好んでそうしたジャンク文献を引用しますが,業界人以外にはなかなか見抜かれにくい,という問題があります。

出版バイアス

更に言えば,そもそも不都合な結果になった研究は論文化されにくい,という重大な問題もあります(=出版バイアス)。

特にサンプルサイズが小さい RCT や後方視的な〈観察研究〉で結果がよいものを見た際には,同じような小規模研究で結果がふるわなかったものは葬り去られているだけかもしれない,という可能性を想起すべきです(▼)。

つまり「私たちの手元に論文がある」という,その入口の時点からすでにバイアスされているということです。

最低限の前提知識3つ

このように魑魅魍魎が跋扈する腐海を泳ぐには,最低限の知識的防護が必要です。

ここでその全てを取り上げることは致しませんが,特に重要と思われる以下の3つについて簡潔に御紹介します。

  1. 論文中のファクトとオピニオン
  2. アウトカムのソフトとハード
  3. 探索的試験と検証的試験

1. ファクトとオピニオン

まず,いかなる原著論文であっても,その文中には「著者らの主張したいこと」や「著者らの目的」という恣意性が入り込んでいます。

データ収集や解析もそうした目的にあわせ恣意的に行なったものかもしれません。

また,Discussion ではしばしば著者らの主張に沿うデータ解釈ばかりが披露されます。その内容は彼らの「認知的バイアス*」を含んでおり,鵜呑みにしてよいものとは限りません。

格式の高いジャーナルは「査読」が厳しいため論理の穴や統計的な問題はクリアされていることが多いですが,必ず limitaion はあります。バイアスをゼロにすることはできませんし,製薬会社との COI も取り除けません。

論文読者は本文中のファクトとオピニオンを分離して読むスキルが重要であると言えます。

ファクトとオピニオンを分離すること
|* 認知的バイアス
認知的バイアスとは,要するに「メガネをかけて情報を見ている」状態のことです。自分の主観や意見に影響を受けた状態で「データを都合よく解釈してしまう」わけです。

2. ソフトとハード

また,原著論文で評価されているアウトカムには,人の解釈が混じりにくいハード、、、なものと,解釈が混じりやすいソフト、、、なものが混在しています。

疫学データや臨床試験で最もハードなアウトカムは「死亡」です。その数字は決して誤魔化しや解釈の余地がありません。一方,ソフトなアウトカムの代表は「自覚症状」や「診断」です。それらは大いに解釈の余地、、、、、を含んでいます。

ソフトなアウトカムは,実験手法や集計方法によって得られるデータが大きく変わってしまうため注意が必要です。「どう集めて,何とどう比較するか」が特に重要になります。

非盲検的なデータ収集をしている場合は特にバイアスされやすく,注意が必要です。

ソフトなアウトカムとハードなアウトカム

入院・手術・挿管・ICU入室などは,自覚症状などと比べてハード寄りではありますが,基準が現場の判断・解釈で多少恣意的に変更できるため,ソフトな要素も併せ持ちます。
本質的でないアウトカムのことも

また,「本質的でない代用アウトカム」ばかりを見た研究も問題です。具体的には,以下のようなものたちです。

  • 新規抗がん剤で「腫瘍のサイズ縮小」というアウトカムを達成できたとしても「生存期間」を縮めているのでは本質的には意味がない。
  • 糖尿病薬で「血糖値を下げる」というアウトカムを達成できたとしても,心血管イベントがむしろ増えているのでは本質的には意味がない。
  • 新型コロナに対する治療薬で「RT-PCR陰性化までの日数」が多少短くなっても,「酸素投与の回避」「挿管・死亡の回避」が達成できていないのであれば本質的には意味がない。

3. 探索と検証

語弊を恐れず端的に言ってしまえば

  • 「薬が本当に効くかどうか」の検証
  • 「どの程度効くかどうか」という推定

に関して信頼性が高い手法は 〈ランダム化比較試験 RCT〉しかありません

しかも,ただ RCT であればよいということではありません。

  1. 事前にプロトコルを開示し「後出しジャンケン」的解析をしない
  2. 必要十分なサンプルサイズを集める(=βエラーを避ける)
  3. 仮説を多重に検定しない(=αエラーを避ける)
  4. 盲検化を行う(=バイアスを避ける)

…といった厳密なプロセスに沿って行われた〈ランダム化比較試験 RCT〉だけが特別です。そうした RCT は「検証的」な試験として扱われ,その主要評価項目 primary endpoint の検定結果は 信頼性が高いものとして扱われます。

現状,これ以上の検証プロセスはありません。

同じ RCT であっても上記のプロセスを踏まないものや,それ以外のすべての研究(観察研究など)は,バイアスやエラーのリスクを十分取り除くことができません。

そのため,そうした研究で結果が〈統計的に有意〉であっても,その仮説は「検証、、」されたものとしては扱われません。あくまで「探索、、」「提唱、、」されたものという扱いです(▼)。

そのようなものをまるで真実かのように強く主張するのは明確な誤りです。

詳しくは別頁

この記事では,医薬品に関するリテラシーとして必須知識である「仮説検証」と「仮説探索/提唱」の違いについて解説します。「統計的に有意」は等価ではない医学研究には多くの種類がありますが,ほとんどの研究で最終的に〈統計的に有意[…]

1次情報との付き合い方

こうしたことは,〈1次情報〉に触れるために必要な前提知識の極一部に過ぎません。冗長となるため別頁に譲りますが,実際には以下の知識も必須となります。

〈1次情報〉をフェアな視点から「建設的・批判的に吟味する」ためにはそれ専用の知識とトレーニングが必要だということです。

自らの思考のバイアスも

また,トレーニングを積んだ人同士でも「データ」の解釈で意見が分かれることはよくあります。

皆それぞれ個別のメガネ(認知的バイアス)を介してデータを見ており,そのメガネの付け外しはそう容易なことではありません。そうした「観点の違い」によって意見の相違が生じることは少なくありません。

しかしリテラシーがある者同士で意見対立が生じる時には,大抵どちらも「部分的には確実に正しい」ことを言っていて「一方が 100 % おかしい」ということはないはずです。

だからこそ,1つの解釈に固執しすぎないことが重要です。科学的議論は,相互に批判的ではあっても,あくまで建設的なものです。個人攻撃を目的としたものではありません。

  • 専門家のクラスターがどういう風に考えているか?(=3次情報)
  • 専門家機関がどう考えているか(=2次情報)?
  • その根拠は何か? 彼らはどのようにデータを見ているのか?

こうしたことを踏まえ,自らの認知的バイアスに自覚的になりながら〈1次情報〉を読めるようになりたいものです。

まとめ

医学情報の階層

  1. 1次情報:原著論文・臨床試験データ・疫学データ
  2. 2次情報:専門家集団による上記の要約と推奨(WHO,CDC,学会)
  3. 3次情報:専門家個人の意見や解釈(レビュー論文・書籍・寄稿)
  4. 4次情報:他の誰かの意見や解釈(ニュース記事・SNS)
  5. そのまた伝聞

今回は以上です。

「手元の情報」はこれらのうちどこに分類されるものなのか?

まずそこから考える──そんな習慣が広く普及してくれたら嬉しく思います。

余談
なお,こうした無数の情報の中から「何を信じるか」は,究極的には個人の自由です。しかし自ら〈1次情報〉を吟味できない人は,結局「誰かの解釈」を押し付け植え付けられているだけの状況で,本質的には不自由なのかもしれません。SNS 下の大情報革命時代,少しでも多くの方が


  • 1次情報を批判的に吟味するための統計知識を得て
  • 自分の認知的バイアスに自覚的となり
  • 建設的な科学的議論に参加できる

そんな世界にステップアップできたら嬉しく思います。

ケーススタディとして,イベルメクチンに関しても 1 次情報,2 次情報,3-4 次情報と個別にまとめた記事も作成しました。あわせてご確認いただければ幸いです。

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[おすすめ本紹介]

User’s Guides to the Medical Literature


EBMを学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶとしたら間違いなくコレ,という一冊です。著者 Gordon Guyatt 先生は「EBM」という言葉を作った張本人。かなり網羅性が高く分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


表紙が全然違いますが「User’s Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版です。一生言い続けますが,EBMと言えばこの1冊です。唯一の欠点は,Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。

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