この記事は医療職・研究職のかた向けです
今回は【意義ある抄読会】を継続するために行うべきこととして,今のところ「これがポイントではないか?」と私が感じている点について,まとめてみたいと思います。
あくまで極めて個人的な経験に基づいたものではあるのですが,抄読会を主催してみたいと考えているような方や,いまある抄読会がなんだかなあと感じておられるような方は,何かしらの参考にして頂けるところがあれば幸いです!
いつもの如く,最初に結論を書きます。
- 抄読会の 5W1H を明確にする
- システマチックに継続する
- 参加者には「批判的吟味」の手法について学ぶことを求める
そもそも 抄読会 とは?
と,その本題の前に,そもそもなのですが・・
「抄読会」って何なのでしょう。
私も最近知ったのですが,「抄読会」(しょうどくかい)という言葉は,どうやら医療や研究業界の人でなければ耳にすることのないものらしいです。
広辞苑にも掲載されていないよう。
実際的な意味としては,
「抄」という字に「古典などの難解な語句を抜き出して注釈すること」という意味があるので,おそらく「抄読」とは「難解な語句を抜き出して注釈しながら読む」ことと考えられる
ー田中和豊先生(医学書院連載記事にて)
ということで,実際私たちも「ショウドクカイ,ショウドクカイ」と言いながらそんなイメージを共有しているように思います。
いろいろなスタイルがあるとは思いますが,
【英語論文を印刷して和訳を述べる】
というものが最もスタンダードかもしれません。
学生時代や研修医時代,多くの診療科で行われていた「抄読会」がこのスタイルだったように思います。
では,その「抄読会」を続けることには,本当に意味があるのでしょうか?
その抄読会に意味はあるのか?
皆様の周りにも,
- なんでやってるか分からない,謎の抄読会
- プレゼンターしか喋っていない,静かな抄読会
- 「ふ〜ん」で終わる抄読会
- ほとんどの参加者が興味なさそうにボーッとしている抄読会
- 論文の著者の記載をそのまま鵜呑みにして終わる抄読会
は実在しませんでしたか?
あるいは現在進行形で開催されてはいませんか?
抄読会って,少なくともプレゼンターはそれなりの時間をかけて用意をしているわけで,上記のようなテンションの低い集まりのためにただただ時間を使って用意するのは非常にモチベーションを削がれますよね。
いったんそういう雰囲気に全体がなってしまうと,プレゼンターも
あ〜次自分が抄読会の担当か〜〜イヤだな〜〜
というようにモチベーションが上がりません。
結果,雑に論文を読んで,論文著者の意見を適当に参加者と共有して,みんな「ふ〜〜ん」で終わる。
あるいはそもそも,誰もきちんと聞いていない。
会の終わりに「どんな内容だったか」と参加者に問うても,
え〜〜っと,なんだっけ?
とりあえず XXX が良かったよ,みたいな論文だったかな
みたいなうっすい反応しか返ってこないような,非常に実りの乏しい会になってしまいます。
完全に負のスパイラルです。
そんな時間の浪費でしかない「謎の会合」に今日から決別するためにまず行うべきは,
「5W1Hを明確に設定し参加者で共有すること」
かもしれません。
① 抄読会の 5W1H を明確にする
5W1Hと言いましたが,個人的に一番重要だと感じているのはやはり,「モチベーションの明確化」や「目的の明確化」つまり「Why」の部分です。
まずはここをしっかり定めて,その後に
誰が,いつ,どこで,何を,どのように読むかを検討します。
結論から言いますと,オススメは下記の様なセッティングです。
次項から,1つ1つ順に紹介して参ります!
5W1H | ポイント |
---|---|
Why |
|
Who |
|
What |
|
When |
|
Where |
|
How |
|
Why:なぜ読むのか(最重要)
そもそもなぜ,私たちは臨床論文を読む必要があるのでしょうか。
- 新しい知識を取り入れるため?
- 自分では必要性を感じていないけれど先輩に強制されるため?
何を期待して臨床論文を読むのか,という点は,意外と論じられませんが,結構大事なポイントだと感じてします。
モチベーションの明確化ですね。
インプットとアウトプット
特に初期にやりがちな誤解として,
「論文は inputするために読む」つまり新しい知識を取り入れるために論文を読む,といった考えになってしまうことが少なくありません。
「インパクトファクターの高いジャーナルサマに載っている論文」をありがたく読んで
はぇ〜〜,こんなすごい結果が出たんですね〜〜,勉強になりました〜〜!
と言って,abstract に書いてあるような結果をそのまま頭に input しておしまい。
それが抄読会をやる目的,です。
と,誤解してしまっている状態です。
かつては私もそうでした。
しかしこれでは「論文を精読する」という意味では極めて不十分と言わざるを得ません。
大規模な RCT などの裏では必ず巨額が動いていますので,データはどれも一見それらしいものになっています。
しかしその「一見それらしいデータ」を見て誤解をしてしまうと,「本質的には意味がないもの」に騙されてしまいかねません。
Abstract などに記載されている情報を鵜呑みにしてしまうことは,たとえそれが一流紙に記載されている場合だとしても,非常に危険であると感じます。
あらゆる論文には必ず勉強になる点がありますが,それは「必ず input に使える」という意味ではない と思っています。
これはビジネス書や新聞記事を読むときと似ています。
ビジネス書や新聞記事を読むとき,そのすべてが input に使える様な新鮮な知識を提供してくれるばかりではありませんよね。
いや,それは言い過ぎでしょ!
とツッコミを入れたくなる言説だって少なくはないと思います。
「世の中には input 向きの本と output 向きの本がある」
と,何かの本で目にしたような気がしますが,この考え方は,論文を読む際にも使えるのではないかと思っています。
つまり,input のために論文を読む場合と, output のために論文を読む場合の両方があって良いと思うのです。
- 良い本(論文)は教科書として何度も読んで input 用に使えば良い。
- イマイチな本(論文)は,問題集として「それは違うんじゃないの?」などとツッコミを入れながら読むことで,自らの知識の output に使えば良い。
ということです。
- *例:input用の論文とは
-
- 日常臨床で抱く「臨床的疑問」の問いに答えるような論文
- 普段 使用頻度の高い薬品が薬事承認されるに至った「第3相試験」など大規模 RCT の論文(問題点も含めて知っている必要がある)
- 専門家がまとめた総説・レビュー
- コンセンサスペーパー
- Cochran レビュー
- *例:output用の論文とは
-
- 上記インプット用の論文の全て(完璧な研究は存在しない)。
- RCT でも種々の問題がある
- アウトカムの差が「統計学的には有意」だが「臨床的にはほぼ無意味」
- 限られた条件下でのデータで外的妥当性が低く,目の前の人に応用できない
- 観察研究は極めてバイアスリスクが高く日常臨床への応用は困難
- ただし「害」を検出するには適する
- 出版バイアスなどを加味していないシステマティックレビュー
アウトプットのために読む
論文を読むのも,本を読むのも,なにも input するためばかりではありません。
むしろ頻度としては圧倒的に,
ものであるべきだと感じます。
論文を批判的吟味する過程で,自らのリテラシーが向上していくのであれば,その論文は(いかに COI ズブズブでエグい統計解析してギリギリの有意差を出している様な真っ黒な RCT でも)読む価値があったということになります。
ビジネス書や新聞記事を読むときと同様で,すべての論文には「勉強になる部分」と「ツッコミ所」があるはずです。
統計的にも科学的にも 100 点満点パーフェクトです!すごい!
みたいな研究・臨床試験 はありません。
80〜90点くらいの研究はあっても,「完璧」な研究などこの世に存在しえません。
倫理,経済,人間の多様性,いろいろな制約がある中で実験的な手法で研究を行なっており,その結果から言えることには必ず限界があります。
どこまでその RCT の結果を信じていいのか?
どこからは 鵜呑みにしてはいけないのか?
それを踏まえて,この論文を知人に紹介するとき,どう紹介すべきか?
そう考えながら読むこと自体が,リテラシーを高めるためにもとても重要だと感じます。
EBM と批判的吟味
MRさん(薬屋さん)が営業で持ってくるビラに乗っているような一見ご立派なRCT やシステマティックレビューの論文にも,必ずバイアスのリスクは隠れています。
と言うよりむしろ,その様な「とってもインパクトファクターの高いジャーナルに掲載されている,一見ご立派な RCT や メタ解析」こそ,必ずツッコミ所が隠れているはずなのです(巨額が動いていますので)。
バイアスのリスクがない研究論文なんて 1 つもありません。
ですから,少し性格が悪いかもしれませんが,どの論文にも必ずある「伏せられたバイアスリスク」を「暴いてやるぞ」というつもりで読むクセをつけるべきです。
あくまでも,内容を鵜呑みにするのではなく,いわゆる「批判的吟味 critical apprausal 」を行うこと。
その批判がイチャモンではなく建設的な指摘であるのなら,それは歓迎されるべきものだと思います。
むしろそれこそが科学的な姿勢であり,正しい論文との向き合い方ではないでしょうか。
EBM は「既報の RCT やメタ解析の結果をありがたがること」ではありません。
ジャーナルの名前を聞いて,その権威効果にひれ伏すことでもありません。
研究データを用いて「いま,目の前のこの人にとっての最適解は何か?」ということを常に考えることが EBM の本質だと思います。
この部分がなおざりになってしまうと,薬屋さんの口車に乗せられて,不適切な新薬処方などを行ってしまうリスクがあります。
これは経済的・倫理的・医学的に大きな問題です。
目の前の患者さんへの最善を考えるため,
- その治療の妥当性があるかどうか,エビデンスに立ち返ること(検索能力)
- エビデンスの批判的吟味ができること(リテラシー)
- その上で,目の前の人にそのエビデンスを当てはめてよいか判断できること
は,今や全ての医療人が身につけるべき能力とされています。
今後もこうした「エビデンス重視」の状況は続くでしょうし,これからどんどん加速していくことでしょう。
しかしエビデンスと向き合う能力は,一朝一夕に身につく様なものではありません。
真の意味で EBM を実践するには,相応の訓練が必要です。
そして,そのスキルを磨くために行うのが「抄読会」ではないでしょうか。
こうした心構えって,意外と誰も教えてくれませんが,モチベーションの明確化のためにも結構重要な部分だと思っています。
抄読会の目的・趣旨を参加者に明示することは,その後の会を有意義なものにするため,結構重要な1ステップだと思います。
大切なことはいつも
ということですね。
- 真の意味でEBMを実践するためのスキル(批判的吟味力)を身につける
- 加えて,プレゼンターが output 力を磨く機会にする
Who:だれが読むのか
ここから先の 5W1H は,サラッといきます。
やる気のある構成メンバーを募る
抄読会というのは構成メンバーも非常に重要だと思います。
理想的には,ある程度統計学的な知識のある人,あるいは批判的吟味の手法に慣れている人物が1人はその場にいて欲しいものです。
そうした人物が一人いるだけで,論文を読むときの深みがかなり増すことは言うまでもありません。
ただ,
そんな人ウチにはいませんよ!!
という施設もあるでしょうし,私の周囲も最初は実際そうでした。
ですからそこに関しては「後から達成」で良いと思います。
後述する様に,要するに参加者(というか自分自身)が徐々にパワーアップして「批判的吟味の手法に慣れている人物」になってしまえばいいわけです。
そのためにポイントになるのは,やはりもともとモチベーションが高い人,批判的吟味ができる様になりたい!と思っている人を巻き込むことです。
あるいはこれを読んでいただいている貴方自身がそうなのであれば,貴方が抄読会の主催者として名乗りを上げることです。
「抄読会改革をします!」などと言って,5W1Hをきちんと明確に,モチベーションを明確にし,参加者全員に JAMA user’s guide(後述)の重要なページのコピーを配ってしまうことです。
人数は多すぎず,少なすぎず
人数も結構重要な要素だと感じています。
これは完全に個人的な所感ですが,
参加人数は最小で 3〜4人,最大でも10人そこそこくらいがいい
様な気がします。
1つのゼミ室に収まるくらいの人数で,全員がタブレットとコーヒーを片手にわいわいやるのが楽しいです。
あまりに大人数になるのは,個人的にはどうかなと感じています。
これでは,他の参加者がワイワイ横槍を入れたり質問したりしにくいので,ライブ感が損なわれてしまい,参加者も眠くなってしまいます。
なお「モチベーションが高い人」という縛りにしてしまうと,施設によっては同じ診療科内で 3〜4 人も集まらないことがあるかもしれません。
その時は,「診療科を揃えなければならない」という謎のこだわりを捨て去りましょう。
加えて,年次の垣根も捨てましょう。
あるいは職種の垣根すらも捨ててしまいましょう(医師・薬剤師合同など)。
とにかく,お互いのモチベーションを維持できるメンバーを集めることが,実りある抄読会のためには重要だと思います。
立ち上げメンバーは選りすぐりの「心からやりたいと思って参加する人」にしておいて,軌道に乗ってきたところで徐々に構成メンバーを増やしていけばいいのです。
- モチベーションの高い人をドンドン巻き込む
- 3・4人〜10 人規模で,ワイワイやれる人を集める
- 診療科や年次や職種の垣根も無視して「やりたい人」を集める
What:なにを読むのか
これは言わずもがなですが,
まずは RCT(第3相試験や大規模な市販後試験)から読むのが良い
と思います。
参加者の専門領域がある程度偏っていたら,関連する特定の疾患の総説(レビュー)も 良いですね。
ただしレビューを紹介する場合には,もっぱら input 用の会になってしまうので,少し退屈かもしれません。
なお,後ろ向きの観察研究は,参加者全員が「臨床論文を書く人」や「今から書こうと思っている人」だったりしない限り,当面は避けた方が良い様に思います。
バイアスリスクが高く,それを補正するための統計手法も煩雑で,読む側のリテラシーがかなり問われるからです。
そのため,ちゃんと批判的に読もうとすると, RCT を読むときとは比べ物にならないほど統計的な背景知識が必要になってしまいます。
まずはやっぱり RCT,というのが基本ではないでしょうか。
要するに,扱う内容としては
ということですね。
When:いつ読むのか
これに関しては取り立てて述べるべきこともないかと思いますが,ポイントは以下だと思います。
- 毎週特定の日時を決めておく
- 業務時間内(お昼など)か,業務開始前の朝などが集まりやすい
- 参加者に自動的にリマインドするシステムを作る(オススメ)
この最後のやつは結構オススメです。
というか,これを行わないと,プレゼンターが準備し忘れて
「あ,しまった,準備してなかった!」
という悲劇がまあまあ起きてしまいます。
リマインド方法
これを防ぐために,例えば「毎週木曜日のXX時にやる」と決めているのであれば,参加メンバー全員が参加している Line や Slack などに,定期的にリマインドを飛ばす IFTTT を組んだりするのがオススメです。
週に1回か,(忘れる人が多い場合)2回,土曜日か日曜日にリマインドが飛ぶ様になっていると,忘れにくいです。
また,google 共有カレンダーを作って,共通の予定として予めプレゼンターの名前とともに入れておく,というのもオススメです。
Where:どこで読むのか
- 毎週特定の場所を予め押さえておく
- マイクを使わずお互いの表情を見て discussion できる距離感がベスト
これはまあ,ごく普通のことで恐縮ですが,一応まとめておきます。
「予め場所を押さえておく」というのは結構大事なポイントだと感じます。
その辺の医局とかスタッフステーションで適当にやっても良いのですが,やっぱり環境が変わらないとスイッチが入らないというか,テンションが上がらないですよね。
こじんまりとしたカンファレンスルームで,お互いの表情をみて,周りを気にせずワイワイ discussion できる環境が理想です。
この論文の discussion やっばいっすね!
この NNT で「historical」とか言っちゃって・・
スポンサーに言わされてんですかね?!
などとギャースカ言っていても問題ない様に,個室が良いと思います(ニッコリ)。
Zoomでも良いのかもしれませんが,自分は zoom での勉強会というのを主催した経験がありませんので,どんな感じかあまり想像つきません。
ライブ感があってプレゼンター以外もガヤを入れられる環境であれば良いと思います。
How:どのように読むのか
最後に,実務的な話です。
どの様なテンプレートを使って,どの様な方式でやるのか?
紙を印刷して配るのか?
タブレット上で行うのか?
いろいろご意見はあると思います。
私たちもまだまだ試行錯誤中ではありますが,オススメのやり方はこうです。
- 紙で印刷はせずモバイルデバイスを積極的に用いる
- プレゼンターが「まとめノート」を用意し,そのページを全員で共有する
- 「まとめノート」用の特定のテンプレートは,予め主催者が用意しておく
順に見ていきましょう!
紙で印刷はせずモバイルデバイスを積極的に用いる
論文を full paper で印刷して人数分用意して配ると,とんでもない紙の枚数になってしまいますよね。
しかも多くの論文ではむしろ Appendix の方に重要な Figure が隠されていたりしますので,そちらまで印刷していたらとんでもない枚数です。
そして一生懸命時間をかけて印刷してホチキスで止めて配っても,
大抵,抄読会の後はほとんどがゴミ箱行きです。
資源の無駄であるばかりか,印刷する時間も無駄です。
そもそも抄読会の参加者はその会の短い時間で原著をウワァーーと一気読みする必要はないはず(そんな時間もないはず)です。
せいぜいその短時間で目を通すのは Figure と Table と Abstract くらいですよね。
つまり,印刷して配るのであれば,もはやそれだけ貼り付けた「まとめ文書」だけでも十分なハズです。
そこにプレゼンターが PICO などの基本設計を付け加えた上で,Results の図表に対する解釈や注釈をのせ,重要な Supplementary Figure も入れてくれていれば,そのまとめ文書だけで論文の全貌はつかめます。
「まとめノート」をみんなで共有する
じゃあその「まとめ文書」を印刷して配るのかと言えば,現代はもはやその必要すらありません。
要は全員でそのページを同時に見れたらそれで良いわけです。
ということで,抄読会では Onenote か Evernote の様な,複数人でノートを共有できるアプリを用いることをオススメします。
Onenote や Evernote であれば,論文原著の PDF から図表をスクショしてペチペチ貼るだけで「まとめ記事」が作成できてしまいます。
その図表の下に,プレゼンターが批判的吟味のコメントを付記したりするだけで OK です。
その「まとめ記事」に論文の PDF のデータや,pubmed へのリンクを貼っておけば良いわけです。
そうすれば,その抄読会ではとりあえずその「まとめ記事」をみんなでタブレットで読みながら,適宜原著の該当ページに飛んでみる,ということが可能です。
なお個人的には,
Powerpoint や Keynote を用いる様なスライドショー形式は全くオススメしません。
理由は3つあります。
第一に,プレゼンターも参加者もスライドばかり見て生データを吟味しなくなってしまいますし,プレゼンターばかりがその場の空気を支配してしまって,参加者全員でワイワイ吟味する様なライブ感がなくなってしまうからです。
第二に,スライドショーは性質上,可読性を意識すると1枚1枚のスライドに入れることができる情報量がかなり制限されてしまいます。「演者が情報を要約して伝える会」には良いのですが,みんなで論文の批判的吟味を行う「抄読会」には向きません。
第三に,「スライドにまとめる」という作業が単純にメチャクチャ面倒です。
というわけで,個人的には「ノート形式でまとめてそれをみんなで見る」というスタイルがオススメです。
もちろん色々なスタイルがあって良いと思いますので「絶対こっちの方がオススメじゃい!」というスタイルがありましたら是非ご教示いただければ幸いです。
特定のテンプレートを用意しておく
上記の様な,プレゼンターが「まとめノート」を作ってきて共有するというスタイルで行う場合,毎回その「まとめ方」が異なると,質が毎回バラバラになってしまいます。
そのため,このスタイルで行う場合には,主催者が予めテンプレを作っておき,それをある程度埋めてきてもらう,という形にするのがオススメです。
- *テンプレート例
-
【抄読会のまとめノートテンプレ例】
- 【論文タイトル】:pubmed IDや原著へのリンクを添えて
- 【3行 まとめ】:まず端的にまとめる
- 【背景】:background の記載を箇条書き
- 【COI】:記載のある資金源を箇条書き
- 【Methods】
- [Study Design] :前向き/後ろ向き,国, RCT なら何重盲検か etc..
- [PICO/PECO]
- [Patient]:組入基準・除外基準・フォロー
- [Intervention/Exposure]:介入・暴露群が何か
- [Control]:対照群が何か
- [Outcome]:エンドポイントが何か:Primary endpoint / Secondary endpoint / Other prespecified endpoints /Explaratory endpoints (後付け) をそれぞれ記載
- [統計解析]:ITTか? 生存時間解析か?等,云々。Power 分析を行っていればその内容,中間解析を行っていたらその詳細も記載
- 【Result】:Figure・Tableのスクショ添付;演者の感想を添えて
- 【Discussion】:最低 Limitation だけ箇条書き,何か問題発言があれば指摘
- 【Conclusion】:シンプルに結論,よほど 1 行
- 【参考資料】:あれば嬉しい
また,会のはじめにプレゼンターが
今回の論文は結構よかったですよ。 input 用です!
とか
いやあ,今回の論文はなかなかエグいですよ。スポンサー資本の臨床試験ですけど,まぁスレスレなことやっちゃってます。 output 用の論文ですね。(ニヤリ
などと
予め「煽り」を入れた上で,「3行まとめ」から入って上記テンプレに沿って進めていくと,議論が盛り上がりやすく面白いと思います。
テンプレとして手前味噌で恐縮ですが,当ブログの「RCT爆速チェックリスト」も是非ご利用ください。
職場の論文抄読会で,臨床試験論文の〈批判的吟味 critical apprausal〉をしたい! でもどういう部分に気をつけて読めばいいか分からない! そんな時,臨床試験の質を『爆速で』チェックできる手頃なリストがあったら,便利[…]
まとめ:5W1H
《Who》モチベーションの高い人を募って 3〜10人くらいで
《What》まずは RCT または総説
《When》毎週 特定の日時で
《Where》毎週特定の場所で顔を突き合わせて行う(not 講義形式)
《How》印刷なし,Onenote や Evernote で「まとめノート」を共有
と,大体ここまでが本題ですが,最後に
「継続する」という観点でできる工夫 と 「批判的吟味の手法をどう学ぶか」
についても少し触れさせて下さい。
② システマチックに継続する
せっかく良いメンバーが集まって良い抄読会ができそうでも,実際に定期的に行わないことには,何も始まりません。
そのためには,「構造的に習慣化する」工夫が必要だと思います。
人間は低きに流れるものですから,ともすると抄読会の当番をすっぽかしてしまったり,忘れてしまったりすることが少なくなりません。
メンバー全員でそういうことを許さない雰囲気を作る,あるいはリマインドするシステムをしっかり構築することが重要です。
5W1Hのところでも述べました様に,
- 定期的にリマインドされるシステムを構築する
という工夫のほか,
- 事前連絡なしで「すっぽかした」人は,次回に参加者全員分の飲料を持参する
- 事前連絡なしで遅刻した人も,次回に参加者全員分の飲料を持参する
といった半分遊び心の入ったペナルティがあっても良いかもしれません。
③ 批判的吟味の手法について学ぶ
意義深い抄読会にするためには,プレゼンターもその他の参加者も,全員がある程度「批判的吟味」のやり方に精通している必要性があります。
最初からそんなメンバーがあつまる可能性は高くないので,抄読会をやりながらそれぞれがそうしたスキルを高めていくしかありません。
そのためには,やる気に溢れたメンバーが自ら
- 批判的吟味のやり方を扱う本を読む(input)
- その上で,実際の論文で批判的吟味を行う(output)
これをひたすらに繰り返すしかないと思います。
そして,それがなかなか一人だけではできないからこそ,他の人を巻き込んで,「抄読会」という形を作り上げて「構造的に継続する」のです。
批判的吟味を磨くためにオススメの書籍
というわけで,最後にオススメの書籍をご紹介させていただきます。
とは言え,ご紹介するのは何も特別なものではなく,ここまで読んでいただけちゃっている様な読者の方であれば,すでに見聞きしたことがあるものばかりだと思います。
あるいはすでに読了済みかもしれません。
ただもしまだ読まれていないのであれば,絶対的な自信を持ってオススメいたします。
ぜひ,以下の書籍を読んで批判的吟味の手法を input し,
実際に論文を読んで output してみてください。
約束された勝利がそこにあります。
良き EBM ライフを 👍
推奨書籍
Users’ Guides to the Medical Literature
タイトル通り「医学論文を現場でどう応用するか?」迷える臨床家のためのユーザーズガイド。Tips 集のような構成で,どこからでもつまみ読みできます(通読向きではない)。医学論文の批判的吟味を学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶならコレ,という極めて網羅性の高い一冊です。著者 Gordon Guyatt 氏は “EBM” という言葉を作った張本人。分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。
医学文献ユーザーズガイド 第3版
表紙が全然違いますが「Users’ Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版。医学文献を批判的吟味するためのTips集としてかなりの網羅性を誇る代表的な一冊です。唯一の欠点は Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。鈍器としても使えます。
総まとめ
- 抄読会の 5W1H を明確にする
- システマチックに継続する
- 参加者は自ら「批判的吟味」の手法について本を読んで学んでおく
誰もやらないなら,自分がやるしかない
この記事が皆様のモチベーションに少しでも火をつけられたなら,それに勝る喜びはありません。