完全主治医制の4つの問題と「医学生」が握る変革のカギ

この4月もたくさん病院間で人の出入りがあり,「医師の働き方」という点について色々考えることがありました。

まわりでもバーンアウトが多くあり,何とも悲しい気持ちになります。

この記事では,医療現場の最前線で奮闘する「市中病院の若手勤務医👨‍⚕️👩‍⚕️」たちを食い潰す

魔の「完全主治医制」の問題

について私見を述べたいと思います。

この記事の要旨
  • 〈完全主治医制〉により主治医は疲弊し,診療の質が下がる
  • 若手医師に症例が集中することで,若手医師が潰れる(バーンアウト)
  • 最低限,休日・夜間は当番医で対応する制度の徹底が急務
  • 鍵を握るのは医学生!

完全主治医制とは

まず〈完全主治医制〉とは何かという点ですが,これは

入院患者さんに何かあれば,夜間/休日を問わず原則全て主治医が対応

という制度で,勤務医を疲弊させる要因の代表格として悪名高いものです。

入院症例の夜間対応は3パターン

では〈完全主治医制〉の他にはどのような体制があるのでしょうか。はじめにまずこの点を整理しておきましょう。

体制の種類

入院患者さんを担当する医師の分業パターンとしては,大きく以下の3つに分類されると思います(名称は便宜的なものであり,一般的な呼称ではありません)。

医師の夜間対応パターン

完全主治医制,当直当番医制,チーム制


  1. 完全(単独)主治医制
    • 夜間・休日を問わず何かあれば主治医(単独)が対応
  2. 当番当直医制
    • 主治医はひとりだが,休日・夜間は病棟当直医師や各診療科の当番医師が対応。主治医は原則コールされない。
  3. チーム制
    • いわゆる “主治医” がはじめから複数人いる。完全交代制。
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完全主治医制は完全に撤廃されるべき

私は個人的には,〈完全主治医制〉は完全に撤廃されるべきだと考えています。言うまでもなく,現場の医師にかかる負担が大きすぎるからです(詳細は後述)。

このムチャクチャな体制のうえに,「教育」と称して若手医師にたくさんの患者さんを「主治医」として担当させる 「やりがい搾取主義」,さらに「時間外無賃労働」が組み合わさることで,この業界は数多のバーンアウト,うつ病,過労死を生み出してきた経緯があります。

厚生労働省が年 1860 時間の残業を認めているあたり,この業界の闇は述べるべくもありません。

医師の残業上限、年1860時間案 過労死ラインの2倍
厚労省が提示 労働組合などの反対根強く
──日本経済新聞(2019年3月13日 6:00 )

今回はこの〈完全主治医制〉が抱える問題と,その対案としての〈チーム制〉の是非について論じたいと思います。

完全主治医制が抱える4つの問題

まずは〈完全主治医制〉が構造的に抱える以下の代表的問題について,順に述べていきます(▼)。

完全主治医制が抱える4つの問題
  1. 主治医に対する責任の一極集中
  2. 主治医の疲弊(毎日 24 時間拘束される)
  3. 主治医の押し付け合いが起きる
  4. 診療が見直されにくい

① 主治医に対する責任の一極集中

何が起きても「主治医」が対応

〈完全主治医制〉の第一の問題点は,その患者さんの状態に関する全責任が主治医に一極集中することです。その患者さんの情報を把握しているのは主治医だけ,ということになっているため当然です。

いつでもどこでも,主治医が責任を負うことになるのです。

「責任」にやりがいを感じる面もあるが…

もちろん〈完全主治医制〉も,メリットが全くないわけではありません。

かかる責任が大きいほど,やりがいを感じやすいというのも事実です。そのため医師の自主学習のモチベーションを高める側面もあります。

「自分の患者さん」という意識によって,医師はその状態も含めしっかりと把握するようになります。医師患者間の信頼関係も形成されやすくなります。重大な意思決定のさい,完全チーム制などと比べてフットワーク軽く前に進んでいける可能性があります。

また,たとえば自分の診療方針に自信があり他人から指図を受けたくないタイプの医師には〈完全主治医制〉がよく合っています。〈完全主治医制〉であれば他の医師からの横槍は一切入りませんから,自分の信念を貫いた診療を行うことができます。

ただし,これが父権主義といわれる問題のある医師患者関係の一因でもあります。

重い十字架

しかしそのために休日・夜間であっても,その患者さんに起きるイベントの全責任を負うことが求められます。これは非常に重い十字架です。

② 主治医の疲弊(毎日 24 時間拘束)

いつでもどこでも責任を問われる主治医

結局,この「責任を負えるのは主治医だけ問題」によって,休日・夜間であっても急変時などはすべて主治医にコールがかかってしまいます。

つまり〈完全主治医制〉の病院に勤務する医師には,「仕事から解き放たれて心休まる時」が1秒もないのです。

状態が不安定な患者さんを持っている主治医は,夜寝ている時でさえも全く気が休まりません。そして実際,何かあれば電話は鬼のようにかかってきます。

一人の患者さんが急変して ICU に入った結果,主治医が病院に泊まり込んで数日過ごすというようなケースもあります。

もちろん「全く予期せぬ急変のために挿管してICUに移動しなければならない!」みたいな場面では,最も病態を把握しており家族とも信頼関係の形成ができている医師が出動すべきです。

しかし実際に休日や夜間によくある問題は,そうしたいわゆる「本物の急変」ではありません。その場で誰かが補液の量をいじったり薬剤を少し調整すれば解決する問題がほとんどです。

夜間の小さな変化も主治医コール

つまり「ちょっとした対応がされれば,少なくとも数日内にどうにかなるようなものではない」──そんなマイナートラブルで毎回(深夜でも!)主治医がコールされてしまうことに問題があります。

例)点滴ルートが抜けてしまったが再留置できません,経鼻胃管が抜けました,労作時息切れがあります,食事量が少ないです,尿量が少ないです,etc…

本来こうしたトラブルであれば,病棟で寝泊りしている「病棟当直」の医師がしっかり対応してくれれば,その夜はそれで済むハズです。そうすれば夜中にわざわざ院外の医師を 鬼電して叩き起こし,病院に呼び出すなどということはどう考えても不要です。

しかし病棟当直医がおらず(あるいはいても機能しておらず)実質的に夜間も〈主治医コール〉が常態化している病院では,そうはいきません。

そうした病院では,どんなマイナートラブルでも,主治医に電話がかけられ,対応を確認される形となってしまうのです。これでは当然,主治医の気が休まることは1秒たりともありません。24 時間 365日,心身ともに拘束されることになります。

実際は医師も年に1週間程度は休める病院が多数であり,その7〜9日間だけは不可侵とされている場合が多いです。

患者側にも大きな不利益

そうして疲弊しきった主治医の診療を受けるのは,他ならぬ翌日の患者さんたちです。

ほとんど眠れていない状態の医師の診療や処置を受けたい人がいるでしょうか?

誰しも,万全の状態の医師に診てもらいたいはずです。

しかし〈完全主治医制〉の病院では残念ながらそうは行きません。目の前に立つ医師は,深夜 5 時まで別の担当症例の夜間対応に追われていて,ほとんど一睡もできていない状態かもしれません。

睡眠不足は,飲酒後の状態と認知機能的に同等レベルという学説もあります。飲酒運転はあれだけ強く法律で規制されているのに,もっと直接的に人命を預かる医師の深夜連続勤務の常態化が是正されていないことには大きな危機感を覚えます。表面化していないだけで,多くのインシデントが隠れているかもしれません。

③ 主治医の押し付け合いが起きる

大きな責任問題と夜間呼び出しのリスクがあるため,〈完全主治医制〉の病院では,「できれば主治医になりたくない」という心理が特に顕在化しやすくなります。

できれば主治医になりたくない医師たち

誰だって夜中に突然電話で起こされるのは嫌です。

主治医としての受け持ち症例が少なければ少ないほどそのリスクは下がるのですから,どの医師も担当症例の増加を避けたがるのは当然の摂理です。

また多くの病院では医師の給料は「患者さんを見れば見るほど…」といった歩合性ではありません。ほとんどの場合シンプルな年功序列制であり,患者さんを実際にみた仕事量や拘束時間は年収と全く関係ありません。

主治医症例を何人見ようが「同じ給料水準」なのだとしたら,なおのことわざわざ自分で複雑な症例を抱えたいというモチベーションが出るわけがありません。

「この病気はウチじゃない」問題

こうした問題の行き着く先が「この病気はウチじゃない」論争です。

たとえば高齢者の方は,多くの併存症を持っていることがありますが,「そのうちのどれがメインプロブレムだから入院なのか」といったことで問題になることがあります。いわゆる「狭間症例」です。

なにか特定の臓器や疾患が悪いというより,「総体として悪い」のですから,結局言い合ったところで「何科がメインとなるべきか」結論なんてないものです。

しかし〈完全主治医制〉のもとでは,そのようにいつ状態が悪化するかわからない患者さんをなるべく主治医で抱えたくない,という心理が働き易くなります。ただでさえ疲弊しているのに,さらに重大責任を負うことになるなんて,可能であれば御免被りたくなるのが人情というものです。結果として「この病気はウチじゃない論争」が始まってしまうことになります。

これは医師のやる気だとか心情といった単純な問題ではなく,構造的な問題です。

医師のモチベーションを枯らせる要因の代表格が〈完全主治医制〉(+時間外無賃労働+やりがい搾取主義)による疲弊であり,負のスパイラルになっています。
|狭間症例の行き先
尚,上記のようなケースはしばしば若手医師が「主治医」として担当させられることになります。勉強,という体ではありますが,実質的には押し付けに近いことも少なくありません。そして悪いイベントがあるたび,日夜問わず呼び出され続けることになります。

④ 診療が見直されにくい

〈完全主治医制〉が抱える問題の4つ目は,診療が見直されにくい,という点です。

「他人の患者」は「他人事」に…

自分の担当症例のことで精一杯な医師たちは,他人の症例に対してはどうしても「他人事」になってしまいます。〈主治医─患者関係〉はどこか「不可侵」なものとして扱われてしまい,誰もその治療方針に介入する余地がないのです。

これは患者さんにとっても不利益で,主治医が誰になるかによって治療方針が大きく変化しうる,と言うことです。

標準的治療を行わない医師にあたると…

残念ながら,医師の質は非常に幅広いので,いわゆる「ヤブ」なお医者さんに当たってしまうと,診断が遅れたり,不適切な治療を受けてしまう可能性があります。

そうでなくても,医師ひとりの目しか通らないことは,見落としなどの面でもリスクがあります。常に100%確実な診療を提供できる医師は存在しないからです。

〈完全主治医制〉の下では,個々の症例の細かい診療内容に関して,主治医以外の医師の目を通ることはほとんどありません。

入院後に1回カンファレンスで上がれば良い方で,医師の少ない病院や教育体制がしっかりしていない病院では,カンファレンスですらほぼスルーされている可能性もあります。

そうなると,誰もチェックしない主治医だけの診療が行われ,それが適切か適切でないかは主治医のみぞ知る ── そして主治医は問題を自覚していない ── という状態になってしまいます。

その主治医が常に一定程度の診療の質を担保できるのであれば問題はありませんが,なかなかそうもいきません。

独善的な経験的治療を行う医師も一定数いますし,グローバルスタンダードと大きく外れたことをしてしまう人もいます。また,医師も人間ですから,どこか重要な場面で判断を誤る可能性もあります。

そうした時,〈完全主治医制〉のもとではチェック機構が働きません。これは患者さん側にとって不利益となる問題です。

しかもその主治医が「きちんと病態を把握してくれている」とは限りません。もしその主治医の担当症例が 20 いれば,患者さんは 20 分の 1 の注意しか受けられないことは現実です。たった一人の主治医が日夜 20 人も担当しているとなると,そのうちの一人くらいは,何らかの不利益を被るというリスクも高まります。

医師が自らの診療を見直す機会がない

診療内容について他の医師と相互批判を行ったり議論を行ったりすることは,医師のスキルアップに欠かせないプロセスでもあります。

〈完全主治医制〉の元では,その機会が少なくなる,というのも問題です。

特に,人手が少なくカンファレンスが活発に行われないような病院だと,医師個人個人が自ら積極的に学ぶ姿勢をとり続けない限り,どんどん進むグローバルスタンダードからは遅れていってしまいかねません。

結果として,人手が少ない上に〈完全主治医制〉の病院では,ガラパゴス化した診療を続けてしまう医師が一定数出てきてしまいます。特に医師の年次が高くなれば高なるほど,そこに誰かが口をさしはさむことはますます困難となります。

むしろ高齢の医師が対応するよりも若手医師が担当した方が患者の死亡率が低いという報告もあるようです。Yusuke Tsugawa, et al. BMJ 2017;357:j1797

そこで〈チーム主治医制〉

以上の問題を解決する対案として最もよく提示されるのが,チーム主治医制,いわゆる〈チーム制〉です。

これは特定の個人を「主治医」にすることなく,複数人の医師が「チームとして担当」する,というシステムです。

完全交代制が可能となる勤務形態で,欧米では比較的一般的とされています。一方,本邦では非常に少数派で,一部の医療機関で実際に取り入れられているのみです。

チーム制のメリット・デメリット

チーム制を導入するメリットは,以下のようなものが挙げられます(▼)。

チーム制を導入するメリット
  1. 医師達の責任が分散しストレスが減る
  2. 診療が見直される機会が増える
  3. 医師達の休日・夜間が守られて日中パフォーマンスが高まる

いずれも〈完全主治医制〉の問題点を解決した内容になっています。

一方,デメリットとしては以下のようなものが挙げられます(▼)。

チーム制が抱えるデメリット
  • そもそも医師の絶対数が必要
  • 医師間の診療能力のバラツキが問題になる(教育機会にはなる)
  • 判断が分かれるケースの意思決定が難しい
  • 情報共有が煩雑

一長一短ではありますが,全体的な診療の質を保つことや,医師達を疲弊させないためには,〈チーム主治医制〉を導入するのは十分に合理的だと思います。

きちんと医師間で相互批判やコミュニケーションができるチームなのであれば,教育的観点からも優れたシステムです。

しかし問題は,医師の絶対数が不足しているために,物理的に〈チーム制〉の導入が難しい医療機関が多いということです。実際,ほとんどの日本の病院ではうまく導入できていません。

米国ではほとんどの病院が完全チーム制だそうです。

最低でも〈当直医制〉の完備を

そこで最低限,主治医が休日・夜間にしっかり休んで体力を回復できるような仕組みづくりだけでも作り上げることが次善策となります。

これがいわゆる〈当直当番医制度〉です。

チーム制は難しくても,夜だけは守る

ふだんは〈単独主治医〉だとしても,休日・夜間はまず当番医/当直医が対応する ── すなわち〈当直当番医制度〉は,全病院が命がけで実装すべきシステムだと思います。

このシステムの実装には,

  1. 救急外来の当直医とは別に,病棟の当直医が設置されていること
  2. 病棟の当直医が最低限のプライマリケア能力を有していること

が最低限必要になります。

①だけでなく,②も重要なポイントです。

基本的な対応能力のない医師が当直することで,すぐ「手に負えない」となって結局主治医が呼び出されてしまっては意味がありません。ちょっとした急変対応は卒なくこなせるくらいの医師でなければ,夜の病棟の守り神にはなれません。

結局,病棟当直医となる医師達の基本的診療スキルを日頃からしっかり高めておくことが,その病院の夜間カバー力を高く保つためには必須です。

「医師の働き方」を是正するためには,病院のシステムを是正するだけでなく,当直医師のスキルアップも必要だということです。

研修医の先生も含めて,

全員で働き方を改革しよう

という思いで一丸となって教育システムを構築し,そのための人材をたくさん集めることが,全医師の QOL を高めることに繋がるのではないかと思います。

「バーンアウト」は誰のせい?

医師はサイボーグではなく人間

そもそも,常識的に考えて,〈完全主治医制〉で休日・夜間も全く心身が休まらない生活を送り続けた医師が,まともな仕事のパフォーマンスを保ち続けることが可能でしょうか?

医師は人間であって,サイボーグではありません。

〈完全主治医制〉の病院で,一人で20人といった主治医症例をみて,睡眠時間も削り続け,その行き着く先は何があるでしょう。

そのレッテルはおかしい

そこまで尽くして,とうとうやる気を失って現場を離れてしまう医師が出たとして,それを「バーンアウト」などとレッテル貼りするのは適切でしょうか?

ああ……前にウチにいたあの先生,ちょっとバーンアウトしちゃってね……

──そんな風にまるで「腫れ物」に触れるかのように,あたかも個人の資質に問題があったかのように語ることは本当に健全でしょうか?

その医師を燃えカスの灰になるまで放置したのは,一体誰なのか。

繰り返しになりますが,これは個人の問題ではなく,構造的な問題です。有給もしっかり取りながらの 9時-17時勤務 で,休日・夜間は呼び出しがされない。それでもバーンアウトしてしまうのであれば個人の資質の問題はあるかもしれません。

しかし,現実には 7時-22時勤務が常態化しており,それに加えて休日・夜間も関係なく担当症例のトラブルでコールされ続けている,夜勤明けも普通にそのまま 36 時間連続勤務する──そんな現場だからこそ人が離れていくわけです。

そういう人の離職を,バーンアウトと一口に片付けてよいものでしょうか。

完全主治医制を廃するために

具体的なアクションプラン

この問題をどう解決できるか日夜考え続けた結果,私が思いついた最も実現可能性の高いアクションプランは,

医学生に動いてもらうしかない。

というものです。

実は影響力が大きい医学生

医学生の就職活動が医療現場に与える影響は大きいことが知られています。

なぜならどの病院も人手不足で,研修医がマッチングで何人応募してくれるかというのは死活問題になるからです。医局が人材を送ってくれない限り,病院が自ら人材を獲得できる機会は,ほぼ臨床研修のマッチングしかありません。

そのマッチングで万が一「定員割れ」が続いてしまおうものなら,ドンドン募集できる人員が減ってしまいます。ですからどの病院も,研修医確保にはメチャクチャ必死です。

売り手市場の医学生が医療現場を動かす

ということは,そこが逆手に取れるわけです。

医学生がこぞって

いまだに〈完全主治医制〉の病院なんて入りたくありません! 🙅‍♀️🙅‍♂️

という態度で受験控えをしてしまえば,その病院はどうしようもなく体制を改善せざるを得なくなる,というわけです。

もちろん受験者が減った原因が病院側に伝わらなければ解決につながらないため,アンケートなどがあれば,必ず記載するようにしていただく必要はあります。

他院は〈休日・夜間は完全当番制〉なので,そちらを受験しますね🤗

ということをキッチリ伝えてあげなくてはなりません。

そうしたことが立て続けに起これば,病院側も制度を見直さざるを得なくなるハズです。

医学生の皆さんへのお願い

というわけで,もし現役医学生の方がこの記事をここまで読んでいただけているのであれば,是非お願いしたいことがあります。

〈完全主治医制〉の病院は受験しないこと。
アンケートにその旨を明記して,病院側に伝えること。

── 是非お願いします。

最低でも休日・夜間は主治医が休める体制を ── 人間としてごく普通の働き方を ── 皆で一緒に取り戻しましょう。

そのうえで,医学生・研修医の時点から,

みんなの夜はみんなで守る

というモチベーションで,夜間急変などへの対応・プライマリケア対応能力を磨いていただければと思います。

そういう若い医師たちが現場に溢れれば,近い将来,大きな変革の力になってくれるのではないかと期待しています。

そして願わくば,かつて奴隷だった時の鎖の重さを自慢し続けて改革を行おうとしない医師たちの考えも改まって,普通の休日を普通に過ごせる現場が普通になってほしいものです。

現実を見据えた意識改革が必要

今後は女性医師の割合も増え,ゆくゆくは50%近くになると言われています。

子育てをしながら働く女性のキャリアを考えたら,休日夜間呼び出し上等の〈完全主治医制〉などというやり方では立ち行かないことは明白です。

この構造的問題に目を瞑り,そもそも女性を医学部に合格させないだとか,男性医師をボロ雑巾になるまで使い倒すだとかいうのは最低な思考停止です。

この先の超高齢多死社会,単独完全主治医制を維持して医者達を使い潰してしまったら,損害を受けるのは社会そのものです。

夜,ほとんど眠れず疲弊した医師の診療や手術を受けたい人は一人もいないはずであり,これは受診者側にとっても重大な問題です。

東京医大、女性受験者を一律減点「医師不足解消のため」
──朝日新聞デジタル (2018年8月2日 14時10分)
医師の残業上限、年1860時間案 過労死ラインの2倍
厚労省が提示 労働組合などの反対根強く
──日本経済新聞(2019年3月13日 6:00 )

業界全体の意識改革を

「休日でも時間外でも主治医や専門医が病状説明してくれる,駆けつけてくれるのが当たり前」という考えも,意識改革が必要だと思います。

夜間は非専門医が対応します。

──そんなのは世界からみればごく標準的なことです。

個々人の犠牲や献身によってギリギリ回るような現場は,そもそも保ち続ける意味がありません

一刻も早くタスクシフトが進み,全ての医師がオンオフをしっかり分けて日中バリバリ働けるような環境が整って欲しいと願ってやみません。

医師一人の教育には大きな公費がかかっているのですから,医師のバーンアウトを防ぐと言うのは,経済的にも重要な課題だと思います。

まとめ

この記事のまとめ
  • 〈完全主治医制〉により主治医は疲弊し,診療の質が下がる
  • 若手医師に症例が集中することで,若手医師が潰れる(バーンアウト)
  • 最低限,休日・夜間は当番医で対応する制度の徹底が急務
  • 鍵を握るのは医学生の皆さん!よろしくお願いします!!

[おすすめ本紹介]

Users’ Guides to the Medical Literature


タイトル通り「医学論文を現場でどう応用するか?」迷える臨床家のためのユーザーズガイド。Tips 集のような構成で,どこからでもつまみ読みできます(通読向きではない)。医学論文の批判的吟味を学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶならコレ,という極めて網羅性の高い一冊です。著者 Gordon Guyatt 氏は “EBM” という言葉を作った張本人。分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

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