【解説】診断研究における情報バイアスと検証バイアス

前回の記事で,検査や所見の〈感度・特異度〉は,コンセンサスのあるリファレンス・スタンダードに照らし合わせたものである,ということを述べました。

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ところが実際には,その「照らし合わせ」の過程にも,バイアスの入り込む余地があります。そしてそれらのバイアスのため,研究結果で報告されている感度・特異度は「不自然に高く」なっている可能性があります。

論文読者である私たちは,その点をきちんと見抜いた上で割り引いて、、、、、考えなければなりません。

そうでなければ,臨床現場での選択を間違えてしまう恐れがあります。

この記事では,リファレンス・スタンダードとの照合に関連するバイアスとして

  • 情報バイアス(狭義)── 「答え」を知っていることで影響を受ける
  • 検証バイアス ── 陽性者でしか「答え合わせ」をしない

の2つについてまとめたいと思います。

情報バイアス information bias

情報バイアス information bias とは,

情報収集の手法に「限界」があるために起きてしまうバイアス全般

を指す言葉です。

医学研究は情報収集がすべて

医学研究 ── とくにマウスではなくヒトを相手にした「臨床研究」というのは結局のところ,突き詰めればすべて「情報収集」によって行われます。

  • ある要因への曝露(e.g. 喫煙歴)
  • アウトカム(e.g. 肺癌を発症するかどうか)
  • その他の関連する要因(e.g. 家族歴)

などについて「情報収集」して,それらの因果関係・相関関係を調べるのが臨床研究です。

「情報を持つこと」が判断を歪める

ところが,事前に情報、、を持った状態でデータ収拾をしてしまうと,それが先入観となって,データ収集に影響を与えてしまうことがあります。

無意識的に関連付けを行ってしまったり,より「仮説に合致する現象ばかりを取り上げる」といったことを行ってしまうわけです。

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診断研究における情報バイアス

新しく考案された診断法や身体所見などの有用性を評価する〈診断研究〉においても,このバイアスは大きな影響を与えます。

他の検査結果の情報は伏せる必要がある

とくに,リファレンス・スタンダードの診断結果(=答え)を知った状況で新しい手法が施行されると,その結果の解釈が大きく歪められてしまう危険性があります。

リファレンス・スタンダードの結論を知った状態では,適切な陽性・陰性判定ができない

結論を知っていることで,検査結果の判定が歪められてしまう

わかりやすく言えばこれは「カンニング行為」みたいなものです。

ほかの検査結果を見てしまうことで,「今回の検査結果」の「判定」が影響を受けてしまうわけです。

判定者は意図していなかったとしても,知らず知らずのうちに,その結果に影響された結果判定をしてしまうものです。

特にリファレンス・スタンダードの結果(=答え)をあらかじめ知ってしまっていると,現実を遥かに上回る「正答率」を叩き出す ── 偽陽性や偽陰性が極端に減る ── ことになります。

身体所見の場合は特に影響が大きい

この問題は,とくに身体所見の感度・特異度を算出する場合,顕著になりやすくなります。

たとえば,すでに別の検査で「乳がん」とわかっている人に対して乳房触診による異常を確認すると,検者は軽微な所見も陽性と取りやすくなってしまうでしょう。

また逆に,すでに「乳がんでない」と確定している人に対して乳房触診による異常を確認すると,軽微な所見であれば陰性と判断しやすくなります。

つまり,偽陽性・偽陰性が著しく減ってしまうのです。

これでは,「乳房触診」による「乳がんの組織診断に対する感度・特異度」は極端によくなってしまい,現実と乖離してしまいます。

結果を知っていると,この閾値がブレてしまう

他の検査の結果を知っていると,この閾値が「他の検査結果」と合致する方向に毎回ブレてしまい,リファレンス・スタンダードとの合致率も不当に高くなってしまう

情報バイアスを防ぐには

こうした〈情報バイアス〉を防ぐためのシンプルな手法は,きちんと盲検化を徹底することです。

つまり,それぞれの診断法は,他の診断法の結果を知らされずに,完全独立に行われなければなりません。

ランダム化比較試験 RCT の場合と同様です。

検証バイアス verification bias

もう一つの問題は〈検証バイアス〉 verification bias です。

検証バイアスとは

リファンレンス・スタンダードによる検証(確認)をしない、、、ことによって,偽陰性が極端に減ってしまうバイアス

のことを指します。

実際にはこのバイアスには複数の呼び名があって,精査バイアス work-up bias や,確認バイアス referral bias と呼ぶこともあります。

診断研究における検証バイアス

これは「検査陽性」となった場合にだけリファレンス・スタンダードの検査をおこなって答え合わせをおこない,「検査陰性」となった場合には答え合わせをサボってしまう,ということで生じるバイアスです(▼)。

所見があった場合にしかリファレンス・スタンダードによる答え合わせを行わないため偽陰性が不当に少なくなる

なぜそのようなことが起きるかというと,大抵の場合リファレンス・スタンダードの検査は高侵襲であったり高価であったりするためです。

患者さんや研究者に強いるコストが大きいため,これらの検査はそもそも,安易にバンバンおこなえるような検査ではありません。

そのため,検査特性を評価したい検査の陽性者でのみ「答え合わせ」を行い,陰性者は「答え合わせ」を行わずにそのまま経過観察する,といった手法がしばしば取られてしまいます。

結果,陰性者はそもそも「リファレンス・スタンダードによる検証」を受けることがないため,そもそも構造的に「偽陰性」が見つかりようがないのです。

そのため現実と比べ極端に偽陰性が少なくなり,感度が不当に高く見積もられることになってしまいます。

その意味で〈検証バイアス〉というよりは〈検証おサボりバイアス〉と言った方が現実に即しているかもしれません。

情報バイアスと検証バイアス

実をいうと〈検証バイアス〉も広義の〈情報バイアス〉に含まれます

検証バイアスも「情報収集」の手法的な問題によって生じるバイアスには違いないからです。

ただ,この〈検証バイアス〉は,先述した〈情報バイアス〉の一種と比べると,時系列が「逆」になっています。

結論をすでに知っているという「カンニング」によって,新しい検査・所見の「正答率」が異常に高くなってしまうのが先程のケースでした。

一方〈検証バイアス〉は,「検査陰性ではそもそも答え合わせをしない」ことによって成績が底上げされてしまうバイアスです。

検証バイアスを防ぐには?

検証バイアスも,結局のところ一種の〈情報バイアス〉ですから,これを防ぐ手法は先述したものと同様です。

「リファレンス・スタンダードの検査」と「検査特性を判定したい検査」を,それぞれ完全に独立に,全ケースに対して行うしかありません。

独立に両方の検査をおこなった上で,その一致率を算出しなければ,感度・特異度は現実にそぐわぬ高値になってしまいます。

診断研究においても〈盲検化〉は非常に重要

ということですね。

まとめ

リファレンス・スタンダードとの照合に関連するバイアス

  • 情報バイアス(狭義)── 「答え」を知っていることで影響を受ける
  • 検証バイアス ── 陽性者でしか「答え合わせ」をしない

検査や所見の〈感度・特異度〉は,コンセンサスのあるリファレンス・スタンダードに照らし合わせて算出されたものです。

いうなればリファレンス・スタンダードの結果をどの程度「代用しうるか」という指標が〈感度・特異度〉であると言えます。

しかしその「照らし合わせ」の過程で,上記のようなバイアスが入り込む余地がなかったかどうか,読者は批判的吟味を行う必要があります。

論文のデータを鵜呑みにしてしまうと,不当に高い感度・特異度であるかのように誤解してしまいかねず,注意を要します。

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