【解説】尤度比とは何か?|計算方法と使い方

|この記事は医療職の方向けです

この記事では,尤度比(ゆうどひ)とは何か?医療現場ではどのように使われるのか?という点についてまとめます。

本項のまとめ

  • 陽性尤度比:有病者が無病者と比べ何倍検査陽性になりやすいかという
  • 陰性尤度比:有病者が無病者と比べ何倍検査陰性になりやすいかという
  • 尤度比は,感度・特異度から計算することができる
  • 尤度比は,検査前オッズと検査後オッズのとも解釈できる
〈尤度比〉は,内科専門医試験などでもかなりの頻度で問われる,診断学上の必須知識です。このまとめ記事が皆様の学習の一助になれば幸いです。
|内科系試験でありがちな問題
背中の痛みを訴えて外来を受診した人がいた。その病歴と身体診察から,医師は「診断が尿路結石である確率」を 50 % 程度と見積もった。 その後,尿検査をおこなったところ,尿中赤血球を認めた。 この所見は「尿路結石症の診断」に対し 感度 80 %,特異度 96 % である。これにより「診断が尿路結石症である確率」はいくつになったか?
【解答:記事後半

尤度比とは何か?

尤度比ゆうどひ(LR:Likelihood Ratio)とは,その名の通り〈尤度〉〈比〉です。

まずはこの〈尤度〉とは何かについて考えてみます。

そもそも尤度とは

尤度とは,教科書的には「ある前提条件に従って結果が出現する場合に,逆に観察結果からみて前提条件が『何々であった』と推測するもっともらしさ」と説明されます。

と言われてもちょっと何を言っているのか分からないわけですが,端的に言ってしまえば,いわゆる〈条件付き確率〉です。

臨床医学においては,〈感度〉や〈特異度〉という概念が,まさにこの〈尤度〉の一種にあたります。

感度・特異度は尤度

  • 感度:ある病気と確定している人が検査陽性である条件付き確率
  • 特異度:ある病気でないと確定している人が検査陰性である条件付き確率

感度は尤度

数式補足
ある前提条件 B = b が確定している場合に, A が起きる確率(条件付き確率)を $$ P\left( A|B=b\right) $$ と表記します。
このとき,たとえば〈感度〉は「診断がbと確定しているとき,検査Aが陽性である確率」であり,以下のような数式で表現できます。
$$ P\left( \text{検査陽性} |\text{診断=b} \right) $$
※感度,特異度に関する詳しい説明は別頁を参照ください。
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|この記事はどちらかと言うと医療職の方向けですCOVID-19 のパンデミックで,世間でも検査の〈感度〉や〈特異度〉という言葉自体の知名度は上がったように感じます。しかしこれらをしっかり理解して使うことは,実は言うほど簡単ではあり[…]

尤度比とは

つまり,医学/診断学における〈尤度比〉とは,端的に言ってしまえば,これら感度や特異度の〈比〉を指す言葉です。

  • 陽性尤度比 =(感度)/(1ー特異度)
  • 陰性尤度比 =(1ー感度)/(特異度)

この点について,もう少し詳しくみていきましょう。

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陽性尤度比

陽性尤度比とは,「真に病気の人が検査陽性(真陽性)である尤度」(=感度)と,「病気でない人が検査陽性(偽陽性)である尤度」(=1-特異度)の〈比〉です。

もう少しわかりやすく砕いて言うと,

有病者が無病者と比べて何倍検査陽性になりやすいか?という〈比〉

です。

2×2 表における陽性尤度比

疾患あり疾患なし
検査陽性ab
検査陰性cd
a+cb+d

この表において,陽性尤度比(LR+)は

$$ \begin{aligned}\text{陽性尤度比} =&\frac{\text{真に病気の人が検査陽性(真陽性)になる尤度} }{\text{病気でない人が検査陽性(偽陽性)になる尤度} } \\ =&\frac{\text{感度} }{1-\text{特異度} } \\ =&\frac{a}{a+c} \div \frac{b}{b+d} \end{aligned} $$

と示すことができます。

名前が示す通り,検査陽性者にフォーカスした概念です。

陽性尤度比の解釈

ただ,実際に〈陽性尤度比〉という概念を解釈する際には

事前オッズ × 陽性尤度比 = 検査陽性のときの事後オッズ

という式の方が重要です。

これは,先程の式から変形することで得られる形です。

式変形
$$ \begin{aligned}\text{陽性尤度比} &=\frac{\text{感度} }{1-\text{特異度} } \\ &=\frac{a}{a+c} \div \frac{b}{b+d} \\ &=\frac{a}{b} \div \frac{a+c}{b+d} \\ &=\frac{\text{検査陽性者における有病オッズ(=事後オッズ)} }{\text{全体における有病オッズ(=事前オッズ)} } \end{aligned} $$

この式から,検査をする前の「有病の見込み」である「事前オッズ」が,検査が陽性であることによってさらに高まる ── その「高まり具合」が〈陽性尤度比〉であると解釈できます。

※ オッズについての詳しい説明は別頁を参照ください。
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クロこの記事では「オッズとは何か」についてまとめるぞ!ミケ「オッズ比」と「リスク比」の違いについても解説しますいきなりまとめ:本項のポイントオッズは〈比〉;あらゆる研究で定義されるリスクは〈割合〉;前向きに[…]

陽性尤度比のとりうる値

〈陽性尤度比〉は,分母に(1-特異度)があることからわかるように,特異度が高ければ高いほど(=1に近づけば近づくほど),∞ に近づいていくことになります。

値としては,〈比〉なので,上限がありません。0 〜 ∞ までの値を取り得ます。

一般的に〈陽性尤度比〉は1 より大きくなります。そして,無限大に大きくなればなるほど,検査陽性のとき疾患をより強く肯定できる(事前オッズから引き上げることができる)ようになります。

逆に,1 に近ければ近いほど,その検査結果によって「事前の有病オッズ」から「事後の有病オッズ」が変化しません。そのため臨床的意義の乏しい検査になります。

※)陽性尤度比が1未満の検査は,検査陽性である方がむしろ疾患の可能性を下げる方向になる

SpP-INの解釈

なお「特異度が高い検査ほど診断確定に適する(SpP-In)」というよく知られた法則は,以下の様に解釈できます。

「特異度 Sp が高い → (1-特異度)が0に近い → 陽性尤度比が大きい → 検査陽性(P)のとき検査後オッズを大きく高める(≒検査後確率を大きく高める)」

特異度と陽性尤度比の関係グラフ

陽性尤度比に対しては,感度よりも特異度の影響が大きいことはグラフからも理解できます(特に特異度 95 % 以上のとき)

陰性尤度比

続いて〈陰性尤度比〉についても考えてみましょう。理屈は〈陽性尤度比〉とほとんど一緒です。

陰性尤度比とは,「真に病気の人が検査陰性(偽陰性)である尤度」(=1-感度)と,「病気でない人が検査陰性(真陰性)である尤度」(=特異度)の〈比〉です。

もう少しわかりやすく言い直すと,

有病者が無病者よりも何倍陰性になりやすいかという〈比〉

です。

2×2 表における陰性尤度比

疾患あり疾患なし
検査陽性ab
検査陰性cd
a+cb+d

この表において,陰性尤度比(LR-)は

$$ \begin{aligned}\text{陰性尤度比} =&\frac{\text{真に病気の人が検査陰性(偽陰性)になる尤度} }{\text{病気でない人が検査陰性(真陰性)になる尤度} } \\ =&\frac{1-\text{感度} }{\text{特異度} } \\ =&\frac{c}{a+c} \div \frac{d}{b+d} \end{aligned} $$

と示すことができます。

陰性尤度比の解釈

ただ,やはり実際に〈陰性尤度比〉という概念を解釈する際には

事前オッズ × 陰性尤度比 = 検査陰性のときの事後オッズ

という式の方が重要です。

これは,先程の式から変形することで得られる形です。

式変形
$$\begin{aligned}\text{陰性尤度比} &=\frac{1-\text{感度} }{\text{特異度} } \\ &=\frac{c}{a+c} \div \frac{d}{b+d} \\ &=\frac{c}{d} \div \frac{a+c}{b+d} \\ &=\frac{\text{検査陰性者における有病オッズ(=事後オッズ)} }{\text{全体における有病オッズ(=事前オッズ)} } \end{aligned} $$

この式から,検査をする前の「有病の見込み」である「事前オッズ」が,検査が陰性、、であることによってさらに低くなる、、、、 ── その「低くなり具合」が〈陰性尤度比〉であると解釈できます。

陰性尤度比のとりうる値

〈陰性尤度比〉は,分子に(1-感度)があることからわかりますように,感度が高ければ高いほど(=1に近づけば近づくほど),0 に近づいていくことになります。

一般的に〈陰性尤度比〉は 1 より小さくなり,0 に近ければ近いほど,検査陰性のとき疾患をより強く否定できる(事前オッズから引き下げる事ができる)ことになります。

逆に,1 に近ければ近いほど,その検査結果によって「事前の見込み」から見積もりが変化しないので,臨床的意義の乏しい検査になるといえます。

SnN-Outの解釈

なお「感度が高い検査ほど診断除外に適する(SnN-Out)」というよく知られた法則は,以下の様に解釈できます。

「感度 Sn が高い → 1-感度が0に近い → 陰性尤度比が0に近い → 検査陰性(N)のとき検査後オッズを大きく下げる(≒検査後確率を大きく下げる)」

感度と尤度比の関係性のグラフ

陰性尤度比に対しては,特異度よりも感度の影響が大きいことはグラフからも理解できます(特に感度 95 % 以上のとき)

医師はいつも計算している

〈尤度比〉の概念上の説明としては,以上でおしまいです。

ではこの〈尤度比〉なる概念は,現場ではどのように用いられるのでしょうか。

臨床現場の診断プロセスにおいては重要なことが2つあります。

それは「事前のらしさ、、、の見積もり」と,「検査前後でどの程度らしさ、、、が変動していくか」という考え方です。

そしてこの「検査前後でどの程度らしさ、、、が変動するか」という概念が,まさにこれまで見てきた〈尤度比〉であると言えます。

事前リスク(事前確率)や事後リスク(事後確率)と言ってしまってもよいのですが,尤度比は「リスク(確率)の比」ではなく「オッズの比」なので,ここではあえてこのように表現しています。

医師は意識的にしろ無意識的にしろ,診断プロセスにおいて常に頭の中でこうした計算をおこなっています。

具体的にイメージしていただくため,外来に腹痛を訴えて女性が受診してきたときのケースを考えてみましょう。

診察前確率

まず,患者さんを部屋に入れる前から既にわかっていることがあります。

それは,患者さんの「年齢」「性別」「主訴」「来院手段」「来院した時間帯」です。

夜のウチの ERに,この年齢くらいの女性で「腹痛」を訴えてくる人は・・40%くらいは胃腸炎で,20%くらいは便秘で,5%ずつくらい虫垂炎,胆嚢炎/胆嚢結石,尿管結石,胃・十二指腸潰瘍 だよなぁ🤔

などと,医師は患者さんが入室する前から既にある程度の見積もりを立てています。

これが診察前、、、確率〉です。

補足|施設ごとに異なる診察前確率
〈診察前確率〉は,つまるところその医療機関ごとの受診者の有病割合です。当然ながら,三次救急病院に腹痛で受診する患者さんと,地域のクリニックに腹痛で受診する患者さんは疾患の構成割合が大きく異なります。そのため,診察前確率も施設ごとで大きく異なります。

問診後確率

そこで実際に患者さんを見て,問診を始めます。

すると,問診の中で「急激に発症」「こんなに痛いのは初めて」「吐き気もある」「右側が痛い」「少し熱っぽい」といった追加情報が得られます。

こうした病歴を踏まえて,また確率が変動します。

うーん,この病歴,さすがに便秘や胃腸炎ってことはなさそうだな。胆嚢が 30 %,尿路系が 20 %,虫垂炎 10 %くらいかな。あとは一応,潰瘍穿孔や卵巣出血の可能性も頭の片隅においておかないとなあ🤔

などと,鑑別疾患の順位が大きく様変わりしています。

これが問診後、、、確率〉であり身体診察前、、、、、確率〉です。

身体診察後確率

さらなる調査のため,医師は続いて,身体所見を取っていきます。

腹部を触診してみると,明らかに右上腹部〜季肋部に圧痛・反跳痛がありました。そして右上腹部を押さえながら深呼吸してもらうと,息を吸うときに痛みが増悪するようでした。腰背部の叩打痛はないようでした。

これで,医師の脳内でまた「確率」が入れ替わります。

これは胆嚢ですわ。もう。80%くらい。✋☺️

これが身体診察後、、、、、確率〉であり検査前、、、確率〉です。

もちろんこの時点では,残りの 20-30 %,他疾患を除外しきれたわけではありません。しかし医師の中で概ね結論は出かかっています。

その上で「疾患特異的な検査」をオーダーし,診断確定を目指します。

この場合,採血や腹部超音波を行い,必要に応じて造影CTやMRI(MRCP)を検討することになります。

検査後確率

採血で炎症反応が上昇しており,腹部超音波で胆嚢壁肥厚や結石を認めれば,「胆嚢炎である検査後確率」は 9 割以上,ほぼ確定的でしょう。

他に代替診断がないのであれば,胆嚢炎として治療を開始することになります。

確率計算と尤度比

このように医師はひとつの検査を行うまでの間,意識的にあるいは無意識的に,頭の中で何度も確率計算を繰り返しています。

そうした〈見積もり〉を適切に変動させる問診や身体診察こそ「よい問診」「よい身体診察」であり,そうした手段を上手に選んで短い時間で多数の患者さんを適切なふるい、、、にかけていくことが,臨床の極意であると言えます。

経験を十分積んだ医師には,パターン認識としてそうした確率計算が染み付いています。そしてほとんど自動的に適切な問診・身体所見・行うべき検査を選択できるようになります。

その際,医師が考えるのは,それぞれの問診・身体診察・検査プロセスの前後で「どの程度確率が高まったか」「どの程度確率が低くなったか」ということです。

そしてこの「どの程度らしさ、、、が変動したか」ということを数字で表してくれるのが〈尤度比〉という概念です。

事前確率と事後確率の比ではないため注意

ただ,一つ厄介なことがあります。

それは,尤度比は「事前・事後確率の比」ではなくあくまで「事前・事後オッズの比」だということです。

ここが直感的解釈を難しくしてしまう難点です。

陽性尤度比 20!といっても,検査後確率(事後リスク)が検査前確率(事前リスク)と比べて 20 倍になるわけではありません。

リスク比とオッズ比の違いについては別頁参照。
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その違いを呈示するため,前回記事でも扱った例をみて,尤度比計算をしてみたいと思います。

実例で尤度比を計算してみる

問題

  • 背中の痛みを訴えて外来を受診した人がいた。
  • その病歴と身体診察から,医師は「診断が尿路結石である確率」を 50 % 程度と見積もった。
  • その後,尿検査をおこなったところ,尿中赤血球を認めた。
  • この所見は「尿路結石症の診断」に対し 感度 80 %,特異度 96 % である。
  • これにより「診断が尿路結石症である確率」はいくつになったか?

陽性尤度比を用いた解答

この問題について〈陽性尤度比〉の概念を使って解いてみましょう。

使うのは,以下の2つの定義式です。

  • 陽性尤度比 = 感度/(1ー特異度) ── ①
  • 事後オッズ =(事前オッズ)×(陽性尤度比)── ②

ここで,検査前リスク(確率)が 50% ということは,

検査前オッズ = 50/50 = 1 (──③)

であると算出できます。

あとは定義式を用いて,以下のように計算が可能です。

陽性尤度比 = 感度/(1-特異度) = 0.8/0.04 = 20(∵①式)
検査後オッズ検査前オッズ × 陽性尤度比 = 1 × 20 = 20(∵②③式)

検査後オッズ = 20 と算出できたので,あとはこれを検査後確率に戻すだけです。

検査後確率 p = 検査後オッズ/(1+検査後オッズ)

|オッズの定義より
検査後オッズ= p/(1-p) なので,これの変形から上式が得られる

なので,ここに検査後オッズ = 20 を代入すれば,p=20/21=0.95 と算出できます。

以上から,検査後確率は 95 % です。

尿中赤血球陽性という検査結果によって,検査前確率50%から,検査後確率 95 %へと上昇したのでした。

陽性尤度比 20 だからといって,確率(リスク)が 20 倍になるわけではありません。検査前オッズから検査後オッズへの変化が 20 倍です。
|別解
なおこの問題は,尤度比の概念を理解していなくても解答可能です。その別解については以前の記事を参照ください。

表を使ってわかりやすく

以上の内容(事前確率 50 %,感度 80 %,特異度 96 %,陽性尤度比 20,陰性尤度比 0.21)を表にまとめると,以下のようになります。

オッズをベースに考える
疾患あり疾患なしオッズ
全体505050/50=1(検査前オッズ)
検査陽性40240/2=20(検査陽性の場合の検査後オッズ)
検査陰性104810/48=0.21(検査陰性の場合の検査後オッズ)
  • 検査陽性の場合の検査前オッズと検査後オッズの比が,陽性尤度比(20/1)
  • 検査陰性の場合の検査前オッズと検査後オッズの比が,陰性尤度比(0.21/1)
リスク(確率)をベースに考える
疾患あり疾患なしリスク(確率)
全体505050/100=0.5(検査前確率 50 %)
検査陽性40240/42=0.95(検査陽性の場合の検査後確率 95 %)
検査陰性104810/58=0.17(検査陰性の場合の検査後確率 17 %)
  • 特異度 96 % と高い(→ 陽性尤度比が大きい)ので,検査陽性のさいに事前確率 50 % → 事後確率 95 %と大きく高める。
  • 感度 80 % とさほど高くない(→ 陰性尤度比はさほど小さくない)ので,検査が陰性だとしても,事前確率 50 % → 事後確率 17 %になる程度。陽性のときほどのインパクトはない。

このくらいが検査のやりどころ

なお余談ですが,このように事前リスクが 50 % くらいの「臨床医が判断に迷う」領域でこそ,検査は最大の効果を発揮します。

事前リスクがもともと 5 %未満なら,そのまま検査をせずに帰宅していただき経過観察するのが妥当ですし,事前リスクがすでに 95 %以上なら,検査すら不要で治療を検討する場合もあるかもしれません。

その辺りの選択は各種疾患の重篤度や検査の閾値次第です(▼)。

検査閾値と治療閾値は疾患により異なる

Fagan ノモグラム

さて,ここまで見てきましたように〈尤度比〉は「事前・事後確率の比」ではなく「事前・事後オッズの比」であるわけですが,実際問題,ここが大きな難点となっています。

直感的に理解しやすい「確率」に読み換える時には,以下のような変換が必要だからです(▼)。

  1. 〈事前確率〉を〈事前オッズ〉に変換
  2. 〈事前オッズ〉 ×〈尤度比〉で,〈事後オッズ〉を算出
  3. 〈事後オッズ〉を〈事後確率〉に変換

……見るからに煩雑ですね。手計算にも限界がありそうです。

これが〈尤度比〉という概念があまり普及しない最たる原因なのではないかと思いますが,一応,便利なツールが提唱されています。

それが,Fagan’s Nomogram(Fagan 先生のノモグラム)です。

これは,事前確率の見込みから尤度比に向かって線を引くとその直線上に事後確率がある,という素晴らしいツールです。

ざっくり〈尤度比〉の感覚を視覚化してくれます。

事前確率50%・尤度比1の時の事後確率は50%

事前確率 50 % で,尤度比1なら,事後確率も 50 %.尤度比が1に近ければ近いほど無意味な検査であることが直感的に理解できます.
※ 画像はフリーソフトの「R」で出力しています(方法は別頁
Fagan TJ. Nomogram for Bayes theorem. NEJM 1975; 293(5): 257-61. [PMID:1143310]

陽性尤度比 20 のノモグラム

先程の尿路結石の例で,尿 RBC 検査結果が陽性だった場合をFagan 先生のモノグラムにまとめたものが,以下になります(▼)。

|事前確率 50 % 陽性尤度比 20
事前確率50%,陽性尤度比20のときの事後確率は95%

陰性尤度比 0.21 のノモグラム

また,先程の尿路結石の例で,尿 RBC 検査結果が陰性だった場合を Fagan 先生のモノグラムにまとめたものが,以下になります(▼)。

|事前確率 50 % 陰性尤度比 0.21
事前確率50%,陰性尤度比0.21のときの事後確率は17%

検査のやりどころに限定すると?

臨床医が検査を行うのは,その前後で臨床的決断が変わるタイミングです。

逆に,臨床的決断が変わらない場合(そもそも事前確率が 5 %未満や 95 %以上などほとんど結論が出ている場合),無意味な検査はおこないません

その検査閾値に着目して Fagan’s nomogram を見ると,以下のようになります(▼)。

事前確率10%未満や90%以上の状況では通常追加検査を行う必要がない

もちろん,上記の閾値は疾患によって異なります。絶対にあってはならない重篤な疾患などは,事前確率が 10 % だとしてもまだ否定のための(感度が高く陰性尤度比が低い)検査を重ねることがあり得ます。
よい検査適応の例

  • 事前確率 60 %程度 → 陽性尤度比 5 → 事後確率 90 %
  • 事前確率 40% 程度 → 陰性尤度比 0.2 → 事後確率 10%

余談:原著は Letter

なお,Fagan 先生のノモグラムは,いまやどんな診断学の本でも引用される非常に有名なツールですが,なんと原著は Letterです(NEJMですが)。

Letter でも価値ある論文は後世に名を残す,という好例ですね。

Fagan TJ. Nomogram for Bayes theorem. NEJM 1975; 293(5): 257-61. [PMID:1143310]

「R」で Fagan ノモグラムを出力

ちなみに上のようなノモグラムは,フリーソフトの「R」でメチャクチャ簡単に出力できるので,是非みなさんも色々数字を変えて遊んでみてください。

R のインストールから始めても5分以内に可能なので,ぜひトライしてみてください!
合わせて読みたい

[sitecard subtitle=尤度比についてはこちら url=/stats/lr/]この記事では,〈尤度比〉likelihood ratio の感覚を理解するのに極めて有用なツールである Fagan's nomogram を無料[…]

今回は以上です!

まとめ

本項のまとめ

  • 陽性尤度比:有病者が無病者と比べ何倍検査陽性になりやすいかという
  • 陰性尤度比:有病者が無病者と比べ何倍検査陰性になりやすいかという
  • 尤度比は,感度・特異度から計算することができる
  • 尤度比は,検査前オッズと検査後オッズのとも解釈できる

事前確率,検査閾値,尤度比 ── こうした確率推論的なアプローチは診断学の地盤となる極めて重要な考え方です。

なかなか掴みにくい概念ということもあり,十分に普及していないようにも感じますが,この記事が概要理解の一助になりましたら幸いです。

[おすすめ本紹介]

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