告知
告知です。
スキマ時間でまるっと医療統計を解説する Youtube チャンネル「スキマル」において,動画 第 4 弾を up しました(▼)。
推測統計とは?
今回は,〈推測統計〉とは何か?そして〈標本〉や〈母集団〉とは何なのか?
ということをテーマに動画をまとめました。
今回も,内容は基本事項に絞っています。目次は以下の通りです。
- 00:27|今回の結論
- 00:45|ランダム化比較試験の例
- 01:32|ランダム化比較試験の問題点
- 02:21|ランダム抽出とは
- 02:51|推測統計とは
- 03:34|記述統計と推測統計
- 04:22|小括 ①
- 04:51|推測統計の問題点
- 05:45|確率的な誤差と系統的な誤差
- 05:57|確率的な誤差とは
- 06:41|系統的な誤差とは
- 07:59|準母集団
- 09:28|小括 ②
- 10:01|実際の論文の仮想例
- 11:44|まとめ
以下,漫談です。
余談:医師は推測統計を知っているか
ところで〈推測統計〉という概念について知っている医療職の方は,実際どの程度いらっしゃるのでしょう。
多くの医療者が抄読会などで臨床試験(ランダム化比較試験など)の論文を読んだ経験があると思いますが,実はこの〈推測統計〉あるいは〈母集団〉〈標本〉というごく基本的な統計用語を知らないまま読んでいる人が少なくないのではないか,と感じています。
少なくとも私の周囲では,こうした概念を「なんとなく雰囲気として理解している」人はいても「概念としてきちんと理解している」「人に説明できる」という医療者は多くありませんでした。
これはおそらく構造的なもので,医学部のカリキュラムの中に基本的な統計の授業が十分組み込まれていないことと,医療統計の講義をできる人材が日本に多くないことが原因ではないかと思っています。
医師はサイエンスの手法を本当に理解しているか?
かくいう私自身も,数年前までは臨床現場を回すのに手一杯で,その辺りの知識を全く持ち合わせていませんでした。
しかし,その時期の私も論文は読んでいて,何となくわかった気になっていました。今思えばほとんど理解できていなかったにも関わらずです。
これは多くの医師が陥りがちなポイントだと思うのですが,結構重大な問題だと感じています。
あらゆる科学論文において基本中の基本言語である〈推測統計〉や〈αエラー〉〈βエラー〉といった概念を十分理解していないにも関わらず,医学というなまじサイエンス感のあるジャンルに通じているために,サイエンスを理解していると感じてしまっている。
統計学の教科書をひらけば1ページ目の目次に書いてある〈推測統計〉のスの字も知らないまま,サイエンスや創薬,薬剤のエビデンスについて理解している気になってしまっているわけです。
実際,私はそうでした(恥ずかしい)。
医師であることとサイエンスの理解は別
医師という職業は,実は頭脳労働ではありません。医師を含むあらゆる医療職は言わばブルーカラーで,現場で「手を動かしてやるべきことをやる」のが仕事です。
医療行為というものは,多少の裁量はあれどほとんどの工程がマニュアル化されており,それに沿って行っているだけです。そして医療の質を均等に保つためにも,実際そうあるべきだと思います。
裏を返せば,マニュアル通りにやるだけで,現場は回っていくわけです(そのマニュアルが,とうの昔にガラパゴス化していたりする問題は別途ありますが)。
現場をただ回すだけであれば,論文を批判的に吟味して取り入れたり,まして統計の勉強をしたりなどは一切不要です。そうしたトレーニングを受ける機会は,医療現場で「ただマニュアル通りこなす」限りにおいては存在しません。
要するに「サイエンス・医療統計に通じているか」と「医療職として現場を回しているか」は,全く無関係だということです。
医師でない方からすると,「医師は医学論文を批判的に吟味できるはず」と思われるかもしれませんが,実際には全くそんなことはありません。
「科学的には明らかにおかしなこと」を主張してしまう医師(や自称医師)が絶えず SNS に現れ,それを「医者が言っていることだから正しいのだろう」と盲目的に支持してしまう人が現れるのは,こうした背景があってのことだと思います。
医療職こそ無知の知を
私たち医療者は,いかに自分がサイエンスに対して無知であるか,もう少し自覚的であるべきかもしれません。
統計学の基本的な教科書を開いて学習したり,批判的吟味のトレーニングをしたことがない人物が医学論文を読んでも,どこが正しくてどこが「言い過ぎ」なのかピントを合わせることは困難です。
ですから,その様な状態で新薬の RCT 論文を読んでも,論文の主張を鵜呑みにするのが関の山です。
その難しさをまずは受け入れなければなりません。
認知的バイアスの脅威
さらに,人間には「認知的バイアス」というものがあります。つまり,自分の見たいものばかり見てしまう。
結果,自分の意見に都合の良い論文ばかりピックアップしてしまい,自分の意見に都合の悪い論文は無視してしまう。あるいは,それぞれの論文について同じレベルでの批判を行わない(都合のいい論文は甘く読み,都合の悪い論文はこき下ろす)。
COVID-19 の蔓延は,痛々しいほどにこの問題を白日の元に晒しました。専門家と呼ばれる人たちですら,いかに認知的なバイアスをもって論文を読んでいるか。
私自身,この点については本当に気をつけたいと思っています。自らの無知を自覚し,また棚に上げることなく,謙虚な気持ちで勉強し続けたい。これは自戒として,常に頭に置いておきたいことです。
スキマ時間で基本をおさえて頂くために
話がどんどん明後日の方向に行ってしまいそうなので戻しますと,結局,最も根本的な問題は,医療統計の一番基本の部分をサラリと勉強できる環境が日本にはまだまだ整っていない,ということではないでしょうか。
そしてその問題を認識している人自体があまり多くなさそう,というのも問題に感じます。
実際,いざ医療者が現場に出たあとに,臨床をこなしながら統計の勉強を始めるのは難儀なことです。臨床現場は忙しすぎるのです。
私自身,特に最初の時期が本当に大変だったので,身に沁みてそう思います(もちろん今もですが)。スキマ時間でいくら勉強しても,いまだにわからないことだらけで,本当にこたえます。
ただ,だからこそ自分の学習成果をなるべくアウトプットして公開し,自分が成長するだけでなく他の人の学習も加速させられたらな,という気持ちで動画を作成しています。
今回も
自分は〈推測統計〉の ス の字も知らなかったのに,医学論文を読んで理解した気になっていた時期があったなあ…😌
と。遠い目をしながら動画を作成しました。
きっと初学者のかたにもわかりやすくまとめられたのではないかと思っています。
ので!ぜひご視聴いただければ幸い!です!
次回予告
次回は今回の内容に引き続き,〈統計学的仮説検定〉の話です。
という本質に迫ります。
次回もチェックしていただけたら嬉しいです。
〈統計学的に有意な差〉とは? 今やどんな研究論文でも,あるいはビジネスシーンでも,〈統計学的に有意〉 significant という言葉をよく目にします。しかし 「統計学的に有意な差」ってどういう意味ですか? と聞かれた時,その[…]