【2022】市中病院から見たコロナ回顧録

2022年も本当にあっという間でした。

時空が歪んでいるのでしょうか? 2021年始に pubmed 検索式の記事を書いたあの日は,つい先週のことのようです。この勢いで加速し続けたら毎日おせち食べてるうちに人生完結してしまうかもしれません。怖いです。

せめてもの抵抗で,忘れないうちに今年の雑感を書き散らしてみたいと思い立ちました。そんなわけでこの記事は「2022年,市中病院のコロナ診療がどんな感じであったか」。その回顧録です。

2022年,市中病院のコロナ観

はじめに:私は地方の中核病院(3次救急病院)に勤務する代替可能な平均的末端構成員です。メインの仕事は内科診療であり,特に感染症のプロというわけでもありません。また小児はほぼ診ていません。ここではそんな私が実際に体験した狭い世界の記録を記すばかりです。全然違うコロナ像を体感した人も沢山いると思いますので,その点をご承知おきいただいたうえで「ふーんこういう現場の人もいるんだ〜へ〜」みたいな感じで読んでもらえれば幸いです。

違う病気になったコロナ

まず今年大きな変化があったのは,やはりコロナそのものに対して医療従事者が抱くイメージです。

2020-2021までは重症化の頻度も高く「得体の知れないヤバい肺炎や合併症を起こすウイルス」という印象がまだ強くあったと思います。しかし2022年のコロナ(オミクロン株〜)はほとんどが軽症でした。入院が必要になるのは,もともと持病やフレイルで予備能が低い高齢〜超高齢患者さんばかりになりました。

何より印象的だったのは,そうした免疫弱者であってもコロナ肺炎になることはまれになったことです。ECMO症例などはパタリと無くなり,どちらかというと誤嚥性肺炎を合併したり食事量低下でフレイルが加速してジリ貧になり退院調整に難渋…,といった老年科的様相が色濃くなってきました。

正直,デルタまでのコロナとオミクロンは別の病気と言っていいくらい違ったと思います。

COVID-19はもはや呼吸器内科や感染症内科がバックアップするような疾患ではなく,全医師が対応する一般的な感染症になりました。実際多くの急性期病院では「全科で診療を回す」という体制がとられたのではないかと思います(そうでなければ人員も全く足りない)。

かつて誰も想像していなかったのではないかというくらい,N95やフルPPE姿を見ることが当たり前の風景になりました。

|弱毒化+ワクチン普及の相乗効果?
なおワクチン未接種者に限定した検討では,オミクロン株の重症化率はデルタ株よりは低下、、、、、、、、、したものの初期株とは変わらなかったという報告もあります。そのため初期株と比べ大きく重症化率が下がったのはワクチンの普及が効いているのではないか?という説もあります。いずれにせよ現場の風景がデルタ→オミクロンで劇的に変わったことは間違いありません。
*)Robinson ML et al. Impact of SARS-CoV-2 variants on inpatient clinical outcome. Clin Infect Dis. Published online December 2022:ciac957. DOI, PMID36528815

医療従事者側へも蔓延

今年のコロナ診療で特に困ったのは「入院時には無症状だけど入院2日目あたりに発熱する」といった持ち込みコロナからの院内クラスターでした。

「心不全だ!!」「脳卒中だ!!」といってERに入ってきて,ひとしきりの救急対応をされたあと,翌日発熱し「あ,実はコロナもありました😉」みたいなパターンに狩られた医療スタッフも多くいたと思います。感染力が低ければ問題ないのでしょうが,コロナはそういうところからも簡単に広がってしまうのが脅威です。

市中の蔓延もかつてない規模になったことで,事故的な接触も頻発しました。どの病院も流行期は水際対策を強化した(ERや入院時にほぼ全例検査など)と思いますが,それでもすり抜けはあります。検査感度もせいぜい70%とくれば,理論的にも完全ブロックなど不可能です。仕方がありません。

そんなわけで,いまやクラスターなんてそこら中で毎日のように発生しているのではないかと思います。何の珍しさもなく,いつしか誰も報道しなくなりました(そもそも初めから報道する必要なかったと思いますが)。

また勤務する医療スタッフ側も,子供たちが保育園や小学校から持ち込む家庭内感染を防ぐことはほぼ不可能だったかと思います。自宅内でN95フルPPEで生活している医者はいません。保育園で子供がかかれば,一緒に風呂入って一緒に寝てる時点で感染確実。不可避です。今年は医療従事者もかなりの数が感染したのではないかと思います(かくいう我が家も…)。

そんなこんなであまりにも蔓延し,軽症例が激増したことで,2021年ごろまでは医療者の中にもあった「恐怖感」のようなものはかなり払拭されたような気がします。

医療者側にも「まあ今のコロナ(オミクロン)はこんなものか」という認識が徐々に刷り込まれました。

|”かかって免疫をつければ良い”?
軽症の印象が普及したためか「自分からかかりにいってガンガン免疫をつけた方がいい」みたいな極論も見かけるようになりましたが,さすがにそれは言い過ぎではと思っています。まれな重症化はいまだにありますし,再感染を繰り返すことで転帰悪化の可能性も示唆されています(文献↓)。また麻疹のように「実は慢性感染して10数年後SSPEに…」みたいな恐怖現象がおいおいわかってくる可能性も否定できません(さすがにこれは極論ですが長期感染はまだよくわかっていない部分なので警戒はすべきと思っています)。

*)Bowe B et al. Acute and postacute sequelae associated with SARS-CoV-2 reinfection. Nat Med. 2022;28(11):2398-2405. DOI
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共働き核家族の生きづらさ

医療従事者としては,コロナそのものの怖さよりむしろ「濃厚接触者だから連日検査」だとか「感染対策等による出勤停止措置」がしんどかった,という人も多かったのではないでしょうか。

子供に軽い鼻水などの症状があるだけでも,なかなか保育園に預けられないようになりました。子供なんて,熱も簡単に出すものです。下手すると毎月あるかもしれない。しかし今やそのたび PCR 結果が陰性と出るまでどこにも預かってもらえません。とはいえその間に両親・義両親を頼りづらいこと(むしろ感染ハイリスク層に預けてしまっては本末転倒であること)などから,共働き核家族はかなり生きづらい世の中でした。私も本当にしんどかったです。

結局そういうときは,仕事を休むしかありません。保育園からいつ電話が鳴ってくるかと常にビクビクしなければならなかったし,子供たちも何度「鼻グリ👃」をされたことか。

そうした対応で急に仕事に穴を開けなければならないシチュエーションも多く,精神的にはかなり削られる場面が多かったです。必要性に迫られてやっているわけで,本来誰も悪くないはずなのですが……あのときのバツの悪さといったら。しんどかったです。

本邦の中核病院勤務医は一人あたりの仕事量が相当にあるうえ 「主治医制」という風習のため仕事の属人性が高すぎる問題があります。急な欠員は結構修復困難なダメージを与えるものなのです。そのため休まざるを得ない時の「迷惑かけてる感」は相当なものがありました。とはいえ病棟に持ち込んでしまうことの方が遥かに職場にダメージを与えるので,どうしてもそういう対応は必要でした。

スタッフ減と病床確保

そもそも,「薄利多売で4人床大量に用意してギリギリの人員かつ満床に近い状態でなんとか利益を出す」みたいな自転転車操業してる急性期病院が多すぎた のだと思います。

その上,少なからぬ病院はいまだに若手医師一人当たり何十時間もの(サービス)残業ありきで現場を保っています。当直(=夜勤)の後も昼や夕方まで医師を連続勤務(28〜32時間連勤)させて,それでようやく診療が回る。現場に余力なんて元から全然なかったんですよね。元々ゾンビ状態です。

大真面目に「時間外上限を年1860時間に」などと議論していることからも自明です。

看護師さんも同様で,少なからぬ病院がいまだに彼らの莫大な時間の残業,前残業を前提に仕事を回しています。

初めからギリギリだったのですから,そんなスタッフの子供が保育園でコロナもらったり濃厚接触判定で出勤停止となれば,いとも簡単に現場が回らなくなってしまうわけです。こうしたスタッフ不足の問題は「数字以上に病床が逼迫しやすく見える要因」の1つとして確実に大きく絡んでいるのではないかと感じます。

また他にも「コロナの感染対策のため4人部屋の運用が難しい」といった問題もありました。濃厚接触者・感染者とそうでない人を同室にはできないからです。しっかり院内クラスター対策をしようとすれば,原因不明の発熱患者さんのような「疑い症例」すら4人部屋に入れづらく,ベッドコントロールはさらに難渋します。加えて認知症のある患者さんは隔離自体困難なこともあり,数字以上に病床への負担をかけます。

このあたり,元々あった構造的な問題が根深く絡んでいるのだと思いますが,3年経ってもいまだに解決していません(そもそも解決できるのか…)。

「満床なのでそちらに送っていいですか?」という要請は数えきれないほど経験しましたし,逆にこちらが救急車受入れを止めざるを得ない場面も何度もありました。遠方からの搬送も多数ありました。どの現場もこの辺り,非常にモヤモヤしながら仕事をしていたのではないかと思います。

私の地域も大概でしたが,もっとひどい地域も沢山あったと思います。全国の救急搬送困難事例が総務省で提示されていますが,なかなかゾっとします。参考:総務省資料

コロナ専門病院は?

初期の頃は「各地域にコロナ専門の病床を作って全部集約してはどうか」みたいな発想もありましたが,現在はそう単純でもなくなってきていると思います。

上述のように,いまや入院患者さんもコロナ肺炎そのものが問題になることは滅多にありません。入院適応になる患者さんのほとんどはフレイル高齢者か,そうでなければ「しっかりとした持病持ち」の方々です。そして後者の場合,実際にはコロナではなくその持病の悪化こそが真のリスクになっています。

消化器がんで化学療法中の患者さんのコロナ,肝不全の患者さんのコロナ,心不全で多剤内服治療中の患者さんのコロナ,透析患者さんのコロナ,糖尿病インスリン使用中なのに食事が取れなくなってしまった患者さんのコロナ,神経難病の患者さんのコロナ,血液腫瘍の患者さんのコロナ……入院が必要になるのはこういう基礎疾患持ちの方々が多くを占めます。

つまり,そうした各疾患に対する知識のあるプロが「コロナ見る」,という体制のほうが患者さんにとっては利益になります。逆にそうした個別の基礎疾患に対して専門的知識を持つ医師がいないような箱詰め病院を作ったところで,基礎疾患が悪化したとき十分な対応ができません。患者さんにとっては不利益の方が大きくなってしまいます。

また,各科の専門性を持った医師は元々ほとんど中核病院に集約されており,それぞれの病院でカツカツに働いています。ですから専用の箱を作ったところで,そうした病院から人材を奪うこともなかなかできません。

というわけで,中核病院でそういう患者さんたちをカバーしている現在のスタイルがなんだかんだ「その患者さん個人」にとっては一番なのかなと思っています(搬送困難にならず入院病床にたどり着くことができることが前提ですが…)。

ただ上述のように,そういう中核病院はもともと全然余力がない。感染隔離でスタッフが少し減るだけでも容易に瓦解する。結局はそこが問題なんですよね…。

要するにこれだけゆとりがないのは「元々の医療キャパシティがあまりにもギリギリすぎた」というところに集約されるのではないかと…。

なお,今は初期の頃と比べれば寝たきり患者さんなどを小規模病院や療養型病院や施設でだいぶカバーしてくれるようになってきたと思います。しかしそれでも酸素需要が多くなったケースなどは(もともとお看取り予定であった場合などを除き)かなりの割合で中核病院に送られるため,一部の医療機関に負荷がかかる状況はあまり改善していないのではないかと思います。

経口治療薬の登場

ただ, 1つ大きな前進もありました。

それは抗ウイルス薬として内服薬のパキロビッド,モルヌピラビル(ラゲブリオ)が本格的に使用可能になったことです。処方制限など実地的な問題は多数ありましたが,やはりこれは大きな前進だったと思います。

この二剤はいずれもデルタ株時代のワクチン非接種のハイリスク層を対象にした治験結果をもとに上市された薬剤です。そのため日本で使用可能になった頃はかなりのエビデンスギャップもありました(ほとんどのハイリスク層が既にワクチン接種済でしたし,何より主流がオミクロン株に移っていました)。

しかしその後徐々にリアルワールドエビデンスや追加RCTの結果が蓄積されています。それらの解析結果を踏まえた上で,パキロビッドはいまファーストラインの武器の1つとして重用されています(詳細は別頁)。

加えて本邦では年末,国産薬であるゾコーバの緊急承認というニュースもありました。ただこれに関してはそのデータがまた渋かったため色々と議論を醸していました。両手を挙げて歓迎できるような劇的なデータが出ればよかったのですが…低リスク層でのエビデンス構築の難しさを感じました。この件に関しては大変長くなってしまったので別記事にわけることにしました(▼)
コロナの内服薬

※この記事は2022年末時点のデータを元に記載しています。[sitecard subtitle=合わせて読みたい url=/med/2022-covid/]新型コロナ内服治療薬の登場2022年,コロナ診療の現場で 1つ良いニュー[…]

※ 参考までに:現在の米国CDC推奨

2類5類問題とその周辺

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最後に,2類5類問題について。近頃は盛んに議論されているようで,今後の動向は多くのかたが注視している所かと思います。

まず,今のようにすべて公費で賄い現役世代の保険料や税金を無尽蔵に注ぎ込み続けるスタイルに限界があるのは間違いないと思います。どこかで線を引くことはどうしても必要になるでしょう。見直しをすること自体には,私は賛成です。

ただ実際には2類5類のような「法的分類」では割り切れない種種雑多な問題を一緒くたにして議論しすぎているのでは?と感じることもあります。

たとえば今流行しているオミクロン株が「もともとフレイルな高齢者や重い持病持ちの患者さん」以外にとって脅威でなくなっていることは事実です。しかし,逆にそういう免疫弱者の患者さんたちにはいまだに確かな脅威なんですよね。世間がいかにウィズコロナになっても院内はいまだにゼロコロナさながらの体制となっているのは,入院中の脆弱な方々を守るためやむを得ない部分があります。

医療現場としては,いたずらな院内感染でそうした方々の基礎疾患を悪化させないことは優先度の高い課題です。そのため「どれだけ蔓延してもOK」「軽い症状なら検査不要」「院内感染も無視してOK。検査しなければ見つかることもない」──といった価値観にはどうしてもシフトし難いです。

この医療現場と市井の感覚の乖離は,オミクロン以降どんどん大きくなってきたように感じます。

分断を煽るウイルスに…

コロナは致死率がどんどん下がってきたことで「より分断を煽る」ような性質になってしまったのかもしれません。

そりゃあ高齢者がバンバン衰弱死している医療現場を見たことも聞いたこともない若く元気な現役世代からしたら「こんな風邪ウイルスごときのせいで色々制限されても困る」という意見が出てくるのは仕方ないことだと思います。

実際に保険料を納めているのも納税者も現役世代です。現役世代にとってはほぼ風邪ウイルスでしかない(ように見える)のに,制限ばかり要求される──となれば,なんとも形容し難い被虐感はあると思います。色々文句が出るのも当然です。

ただ,本来敵は人や社会ではなくウイルスなんですよね……人間同士で分断しあっているのはなかなか悲しいものです。

個人的な懸念

個人的に懸念しているのは,今後 入院勧告/外出禁止がされなくなったり自費負担が増えたりすることで

症状あるけど検査もしないしロキソニン飲んで出勤しちゃうよ★

みたいなインフル時代の脳筋昭和スタイルに逆戻りしてしまうことです。

そこからさらなる感染爆発を誘引し,また新たな変異株が現れる…みたいな負のスパイラルは最悪のシナリオの1つではないかと思います。

そもそも日本は外国と比べて「多少体調悪くても働く,学校いく」という異様な皆勤信仰が跋扈し過ぎです。普通の(おそらく世界的な)価値観では「体調悪ければ休む」となるはずですが,なぜか日本はそうではない。その微妙な価値観を考慮しないと結構痛い目を見るのではないか?という懸念はあります。

いまやどこでもコロナは溢れているので,初期のように「持ち込んだ人」を探して後ろ指を差すような不健全な行為はなくなったと思います。しかし今度は「症状があっても検査せずに黙って出勤しておけばOK」みたいな状況になってしまってはいないかと…。

これ以上危険な変異株は生じず,重症化率もどんどん右肩下がりになる

──というようなベストシナリオで行けるのならば,それでも問題ないとは思います(いい加減そうなってほしい…)。しかしあまり楽観的なことは言えません。これまでの経緯も「たまたまこういうふうになってきた」というだけであって人間側でコントロールできているわけでは全然ありません。「いまだに大して分かっていない・制御もできていない」という自覚は重要だと思います。

ともかく2類5類云々は単なるラベリングの問題だけでなく,背景にある諸問題も1つ1つ紐解いて議論されなければなりません。

最も本質的な問題は「患者数(需要)が医療体制(供給)を遥かに超えている」ことです。ですから形式的な部分に拘泥するのではなく,その先にフォーカスした政治的な意思決定が必要だと思います。

医療の需給バランスは保てるか

医療の需給バランスはすでに崩壊しています。需要が爆発しているのはもちろんですが,供給サイドもコロナ以前からゾンビ状態でした。

もともと本邦の診療は,機能の高い中核病院に歪なほど偏っていました。クリニックのゲートキーパー機能は高くなく,希望すれば飛び込みで中核病院を受診できます(これは患者さんからは良い制度ですが)。しかしその中核病院はスタッフにサビ残させて満床ギリギリでようやく黒字みたいな自転車操業でした。大学病院に至ってはほとんど無給医(=院生)の献身的な自己研鑽・・・・で成立している様な状況です。

そんなゾンビ状態のところにこの負荷です。感染によるスタッフ隔離,4人床の運用困難,認知症患者さんの行き場の問題,転院調整,云々──色々なところに制限があり,予定手術等の通常診療にも支障が出てしまいました。

少なくとも中核病院のキャパシティがこれ以上増えることはありません。あとは療養型病院や施設での受け皿がどの程度拡充できるかですが……オミクロン以降,既に対応できるところはして頂いている様にも思います。

むしろ未だにコロナ診療をほぼ担当していない施設は,今後も前面に立って参加することは難しいのかもしれません(スタッフ確保や隔離空間確保の問題もあり)。そう考えると,医療供給側のキャパシティをドンと拡大させることは結構厳しいのではないかとも思います。

そこでさらに感染対策を緩め,院内クラスターの責任は現場に丸投げし,インセンティブも与えない──みたいな改変を進めてしまうと,通常診療はますます障害されてしまうのでは?という懸念はあります。

需要をシャットアウトしている国もある

他国のように医療供給を増やすのではなく需要の方をシャットアウトしてしまうことが許されるなら,もう少しバランスは取れるかもしれません。

たとえば「持病がなく高齢でもない人は,病院では対応しません。自分で検査して薬局で対症療法薬を手に入れてください」と振り切る。あるいは「食事困難・動けないくらいでは入院適応なし。自宅 or 施設で介護を頑張ってください」とする。さらに「高齢者や持病のある人が院内外問わず感染して衰弱してもそれは寿命です」という価値観が普及すれば,院内ゼロコロナ政策(院内クラスター潰し)もやめられるかもしれません。

しかしもともと良質な医療がフリーアクセスすぎた本邦で,そういう価値観が受け入れられるのかどうか。自己検査キットも足りるのか。新しい変異株の出現は大丈夫か。……私にはわかりません。

先述のように今後ベストシナリオで行ける(危険な変異株は登場せず重症化率もlong-covidも右肩下がりでどんどん解決,抗体を持つ人も増えて感染爆発も起きなくなる)ならいよいよ「本当にただの風邪」になり上記施策も受けいられるかもしれませんが,あまり期待しすぎない方がよいと思います。

出口を見据えつつも移行的な施策が良い?

時々「風邪扱いにしたら一挙解決!」みたいな極論も見かけますが,残念ながら現場でそのような期待は全く抱けません。

事実として現在,コロナ感染は確実にフレイルや持病のある患者さんの命を縮めています。それを全て「風邪だから寿命」と片づけるような価値観は,まだ市民の方々に受け入れられないのではないでしょうか。少なくとも持病のある方々はそのようには考えていないと思いますし,現場の医療従事者としてもまだそこまでは考え難い。ここで分断が生じていることの認識は重要だと思います。

二類でも五類でもなんでも構いませんが,そういう視点のズレを現場に丸投げしないような仕組みづくりを進めていただけたら嬉しいです。何よりウイルスは人間側の枠組みなんて気にしてくれないですからね……

いずれにしても,これから先のコロナ診療の展開は全然読めません。関連死亡もまだまだ多い以上,出口戦略を探りつつも「何らか特別扱いする仕様」をしっかり残しておいた方が無難ではないか,というのが現時点の私の見解です。

総括

だらだら書いてしまいましたが,まとめです。

コロナはいま,世界中で本格的な出口探しのフェーズに入っていると思います。今は内服治療薬もありますし,致死率もかなり下がりました。多くの人にとって重症化率はインフルエンザと同等レベルになり,なによりもはや common disease です。

推計ではおそらく日本の人口の15〜20%くらいはもうコロナに感染したことがあり,世界的にはもっと多く,すでに 20〜50%とも言われているようです。

では結局,今のコロナの問題は何なのか。それは

  • 非常に強い感染力
  • 脆弱な患者さんではいまだに生命力を大きく消耗させる疾患であること
  • 新たな脅威的変異株の懸念

この3点に尽きるのではないかと思います。

集団感染時の負荷の重大さなど,3年たった今でもまだまだ「非常に厄介な感染症」だなあという印象です。

また,インフォデミックとしてのイヤらしさもあります。デマや低質情報の過剰拡散などは初期からの問題ですが,オミクロン株流行による軽症化トレンドがむしろ「より分断を煽る」性質に拍車をかけている様にも思えます。

私のような中核病院で勤務するスタッフと,診療所で発熱外来をひたすら回しているスタッフ,何度もクラスターを体験し続けている療養施設のスタッフ,非医療職の方々,高齢者,若年者……それぞれが見ているコロナ像は,きっと相当違うものなのでしょう。そうした「見ている側面の違い」を整理することなく攻撃し合っている人を見かけると,心が重くなってしまいます。

とはいえこうやって振り返ってみると,コロナ診療自体は治療法を含めて着実に前進できているようにも思えます。 2023年こそ「本当の出口」がもう少し見えてこないかとうっすら期待を抱いています。

トンネルの先の光はもう見えてきている……と,思いたいです。そう信じて粛々と仕事に励みます。このまま来てくれベストシナリオ……🙏

とりあえず2023年も

  • 症状あるかな?と不安な時こそ休む
  • 少しでも体調が悪いなら,セルフ隔離する。人にうつさないよう配慮する
  • お互いの立場と状況に想像力を膨らませ尊重する

──こうした思いやりというか常識的な価値観が,ただしく常識であり続けてほしいなと思います。


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[おすすめ本紹介]

User’s Guides to the Medical Literature


EBMを学ぶにあたり 1 冊だけ選ぶとしたら間違いなくコレ,という一冊です。著者 Gordon Guyatt 先生は「EBM」という言葉を作った張本人。かなり網羅性が高く分厚い本ですが,気軽に持ち歩ける Kindle 版はオススメです。邦訳版もあります。

医学文献ユーザーズガイド 第3版


表紙が全然違いますが「User’s Guides to the Medical Literature (JAMA)」の邦訳版です。一生言い続けますが,EBMと言えばこの1冊です。唯一の欠点は,Kindle版がないこと(英語版はある)と,和訳が気になる部分が結構あること。2つでした。原著とセットで手に入れると最強の気分を味わえます。鈍器としても使えます。

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