医療従事者の4回目ワクチン接種コホート研究(イスラエル)【新型コロナ】

余談:個人的な懸念

ここからは余談ですが,あえて誤解を恐れず個人的な懸念を1つ述べたいと思います。それは,時にあたかも若年健康 HCWs の4回目接種が「常識」あるいはほとんど「義務」であるかのような記述を見かけることです(実際は任意・希望制)。

BA.5 流行下,基礎疾患のない若年 3 回接種者が追加で4回目追加接種を行う効果はさほど劇的なものでないことは周知の事実です。この層において,個人が受ける追加 benefit はこれまでと比べると相当小さくなっていることが想定されます。

またこの層に関しては,集団の benefit もまだ十分なデータが集まっていません(特に対 BA.5)。これまで公表されているデータも抗体価などバイオマーカーの改善をみたものが主となっています。事実として先述のとおりドイツとイスラエル以外ほとんどの地域では積極的に推奨していません(▼2022年7月末時点)。

他国では一般的ではない

それでもなお世界に先駆け本邦で HCWs の4回目接種が適応となったのは,感染爆発の中での公益性・集団 benefit を「少しでも」と考えてのものでしょう。こうした考えは1回目接種の時点から重視されていたポイントではありますが,個人の benefit が相対的・経時的に小さくなる中で,より大きなウェイトを占めてきています。

もちろん医療従事者は公益を守る存在ですから,そうした観点も重要です。またその理念にも賛同します。しかしそれと同時に,もう少し多様な意見を許す土壌はあってよいようにも思います。

エビデンスは常にあり,常に不十分

今回読んだ論文は現状に1つの知見を加えるものではありますが,志願者バイアスや短期追跡,BA.1 株流行時のデータといった Limitation があります。また今後も変異が重なるにつれて効果の曖昧さはより大きくなっていくことが見込まれます。

現在オミクロン株を対象に含めた2価ワクチンも開発中であり,こうした新薬が今後ウイルスや私たちに与える影響,接種の適否,打つ場合の最適なタイミング,今後のウイルス変異の進行──などなど,未来のことは誰にもわかりません。

わからないものと格闘している中,その「わからなさ」具合の解像度が共有されることなく,強制的な文脈で若年健康 HCWs の4回目接種の必然性が語られるのはあまり健全でないように思います。やはり理想的には厚労省のこの議論は全員に目を通してもらった上,個々人で判断してほしい所です(強制や同調ではなく)。

なお若年健康 HCWs が感染して現場離脱することになってしまったとき,4回目未接種を理由に後ろ指を指されるようなことは,絶対あってはなりません(4回目以降に限ったことではありませんが)。その点は最後に強調させて頂き,この記事を締めたいと思います。

もう少しデータが集まってこれば,私のこのモヤモヤも解消されるかもしれません。ただひとまず現時点(2022年8月3日)の独り言として,このモヤっと感は書き残しておきたいと思います。

[おすすめ本紹介]

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